1. 経済同友会の提言が露呈する多国籍企業の防衛戦略としての海外派兵、国際貢献は口実

日本の政治に関連する記事

2015年06月12日 (金曜日)

経済同友会の提言が露呈する多国籍企業の防衛戦略としての海外派兵、国際貢献は口実

安保法制や改憲をめぐる報道で常に隠蔽(いんぺい)されているのは、多国籍企業を政変から防衛するための海外派兵体制の構築という視点である。

わたしがこの視点の重要性に気づいたのは、1985年に中米紛争を取材した時期である。中米は、米国のフルーツ会社などの裏庭である。

豊富なフルーツが港から船で運びだされる光景を飢えた人々が見守っている地域である。そこで政変やゲリラ活動がはじまると、たちまち米国が軍事介入してきた。

このような構図が最も典型的に現れたのがニカラグア革命とその後の内戦である。79年のサンディニスタ革命の後、米国は「反政府ゲリラ」を組織し、ニカラグアと国境を接するホンジュラスを米軍基地の国に変えて、新生ニカラグアの転覆に乗り出した。

多国籍企業の防衛部隊としての海外派兵の性質が露呈したのである。

ソ連が崩壊した後、世界に巨大な新市場が開け、企業の多国籍化が進んだ。中国による市場開放もこれに拍車をかけた。

自衛隊を海外へ派兵する動きが生まれたのはこうした時期である。日本による海外派兵は、PKOから始まり、その後、周辺事態法、テロ特措法による派兵、有事法制へと進み、2014年には、解釈改憲が閣議決定された。さらにいま、安保法制の「改正」が国会で議論されている。

次に示すのは、今世紀に入ってから経済同友会が日本の軍事大国化について行った主な提言である。各提言から重要な箇所を抜粋した。全文はPDF。

こられの提言を読むと、多国籍企業の防衛戦略としての海外派兵が財界人の意中にあることがはっきりする。米軍と協力して、多国籍企業を防衛する体制を打ち立てようとしていることが明確に分かる。

◆経済同友会の軍事大国化に関する提言

 『平和と繁栄の21世紀を目指して−新時代にふさわしい積極的な外交と安全保障政策の展開を』(2001 年4 月25 日)

「緊急時に国家が必要な行動を取ることを法的に担保しうる有事法制の整備と運用体制の確立、及び周辺事態発生時における日米共同行動の実効性を確保するための体制整備が急務である。」

「わが国においては、憲法の制約の下その行使が否定されてきた集団的自衛権に関する政府見解を再検討する必要がある。この問題をいたずらに危険視することなく、今後国際社会において日本が同盟国や地域的パートナーとともに果
たそうとする責任・役割に照らして、改めて政治的判断を行うべきであろう。」

「昨年、国会に漸く憲法調査会が設置された。しかし、そこでの審議のペースは激動する世界の動きに比していかにも遅く、また必ずしも国民的論議の高まりにつながるものともなっていない。衆参両院における調査会の活動を、国民レベルでの活発な議論を促す方向に向けていっそう活性化し、加速することが必要である。

そのための具体的なステップとして、国民的合意が得られることを前提に、遅くとも2005 年までには憲法改正に必要な手続きがとられるよう、調査期間を現在の5年から3年程度に短縮することが望まれる。」

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『イラク問題研究会意見書』(2004年11月)

「自衛隊による国際貢献活動をより迅速、かつ有意義に行うための法的基盤を整えるために、イラク特措法に基づく自衛隊派遣の課題を踏まえ、恒久法の制定を求めたい。」

「憲法改正、安全保障基本法制定、集団的自衛権の行使に関わる政府解釈の変更、恒久法制定の4つは包括的に検討していくべきであり、その意味でも自衛隊法の改正が必要になる。」

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『新たな外交・安全保障政策の基本方針』2006 年9 月

「自衛力については、今後も抑止力を基本として強化すべきであるが、国際環境の変化に応じ、日本国民の安全が確保される自立した国家としての自衛隊のあり方を見直すべきである。

また、日本の自衛隊はこれまで、「国際平和協力法」「テロ対策特措法」「イラク人道復興支援特措法」に基づき、国際貢献活動を展開してきた。こうした自衛隊の活動をより迅速かつ効果的に行うための法的基盤の整備が急務である。

そのためには、我が国の防衛・安全保障に関する基本原則を示した「安全保障基本法」(仮称)と人間の安全保障の考え方を併せた「国際協力基本法」(仮称)を制定し、日本の外交・安全保障が平和主義を柱とした政策であることを世界に示すことで、国内並びに周辺諸国の理解と信頼を得ることが必要である。」

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『新たな日米関係の構築』(2009年1月)

「自衛力については、今後も抑止力を基本として強化すべきであるが、国際環境の変化に応じ、日本国民の安全が確保される自立した国家としての自衛隊のあり方を見直すべきである。

また、日本の自衛隊はこれまで、「国際平和協力法」「テロ対策特措法」「イラク人道復興支援特措法」に基づき、国際貢献活動を展開してきた。こうした自衛隊の活動をより迅速かつ効果的に行うための法的基盤の整備が急務である。

そのためには、我が国の防衛・安全保障に関する基本原則を示した「安全保障基本法」(仮称)と人間の安全保障の考え方を併せた「国際協力基本法」(仮称)を制定し、日本の外交・安全保障が平和主義を柱とした政策であることを世界に示すことで、国内並びに周辺諸国の理解と信頼を得ることが必要である」。

■全文PDF

 

『世界構造の変化と日本外交新次元への進化』(2011 年2月)

「安全保障問題とは、本来、軍事的手段のみならず、政治・経済的手段を組み合わせ、総合的に対処すべき課題である。そのためには内閣主導体制の強化を意図した「国家戦略本部」を創設し、その下に内閣官房の司令・調整機能をより強化した「国家安全保障会議」を新たに設置すべきである。

これは「日本版NSC」構想等と呼ばれることもあるが、政治主導体制を強化し、より迅速に安全保障上の危機に対応するためには必要なインフラ整備である。

また、国家安全保障会議は、日本の外交・安保戦略を策定する機能も備えるべきである。」

「日本の安全保障に対する脅威が多様化し、増大しつつある中、日本は自らの国防努力を強化していく必要がある。国防力とは、近隣各国との相対的な比較の中で意味をもつものであるとするならば、日本を取り巻く安全保障環境の現状に鑑み、少なくとも日本のみが一方的に防衛予算を削減してはならない。」

「日本は、同盟国である米国以外の信頼できる民主主義国・地域との武器技術の共同研究開発・生産体制に参加できるよう、第三国への移転について一定の歯止めを設けた上で、日本は武器輸出政策の弾力的な運用を認めるべきである。」

「日本人の国際進出を視野に入れたとき、有事における在外邦人保護に向け、日本が対処能力、法的基盤を整備していくことは不可欠である。既に政府専用機、自衛隊機、自衛隊艦船を在外邦人の輸送に用いるための道は開かれているが、さらに緊急時において空港・港湾施設までの在外邦人の避難、輸送までも自衛隊が担うことを可能にするべきである。

また、現在、輸送の安全の確保が認められる場合のみ、邦人救出に踏み切ることが法律上許される形となっているが、より現実的な対応を可能とするためにも安全確保の要件は外すべきである。」

「現在の日本政府の憲法解釈の下では、個別的自衛権を行使し、武力行使に至ることは認められているが、集団的自衛権の行使は、国防のための必要最小限度を超えるものであるとして認められていない。

しかし、集団的自衛権行使を容認しない現在の憲法解釈は、国際安全保障の確保のために日本が取り得る活動を著しく制約し、また有事における日米同盟の有効性を損ねる。今や東アジアのみならず、世界における安全保障の確保と日本の安全保障の確保は不可分である。

そして、米国は有事における日本防衛の義務を負うのに対して、日本は平時より米軍に対して基地提供を行うことをもって同盟を成立させるという関係は片務的であり、日本の国際的発言力の強化という観点からも、改善する必要がある。」

「平時、有事を問わず、情報の共有は同盟関係において非常に重要である。広く国際社会との関わりを持つ日本にとって、米国の情報収集力を活用できることは、同盟関係における大きな資産の一つである。今後、日本はより一層国際社会と一体となって、安定と繁栄への道を模索する必要がある。そのためにも、日米情報共有体制を強化する方策を探らなくてはならない。」
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『「実行可能」な安全保障の再構築』(2013 年4 月)

「第二次安倍政権の下で、外交・安全保障に関わる司令塔として、国家安全保障会議(National Security Council)4の設置が検討されていることを歓迎し、その早期実現を求める。」

「企業活動のグローバル化に代表されるように、国民の安全・財産は、日本の領域内のみにとどまるものではない。自ら選択して海外に出る以上、安全確保のための方策を自ら講じることは、個人・企業の別を問わず当然の責任であろう。その一方、非常事において、国民の安全や権利を守ることは、国家の究極的な責任であると考える。

国外での非常事態に際して、自国民の保護・退避に当たる上では、外交努力を
通じた当該国との連携、友好国との協力、自ら有する装備・能力の活用等、複数の選択肢の中から、個々の事態・情勢に応じて、迅速に最適な方策を選択することが求められる。

このような中、海外における自国民保護体制の強化を進める上では、緊急時に
おいて柔軟かつ迅速な選択が可能となるよう、まずは本質的な問題に真摯にき
合うことが不可欠と考える。

具体的には、自衛隊の活動の範囲に関する個別具体的な議論に先立って、まず、
日本の領域外における国民の保護を、国としての自衛の対象と見なすか否か、その姿勢を明確にすることを求めたい。6 その上で、そうした判断を起点に、国際的に共有される規範や外交手続きに則り、真に実効性ある対策が講じられるよう、体制整備が進められることを期待する。」

「政治的決断によって政府解釈を変更し、集団的自衛権行使を認めるべきである。」

「自衛隊の海外派遣基準や活動領域に関する原則を恒久法で定め、迅速な判断・派遣を可能にすべきである。加えて、自身の生命・安全の確保と、民間人や他国部隊の保護を目的に、国際平和維持・協力活動における武器使用基準も見直し、国連の規程に合わせる形で緩和すべきである。」

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