民間軍事会社による傭兵募集に現実味、後藤・湯川の両氏に関する情報が特定秘密に指定されている理由、徴兵制は「幻想」の可能性が高い
【サマリー】安保法制が成立した後、次の段階として徴兵制が導入されるのではないかという懸念が広がっている。わたしは徴兵制よりも、民間軍事会社により傭兵部隊を組織する戦略が浮上する可能性の方が高いと考えている。その先駆けが、
ISに処刑された(株)民間軍事会社の設立者・湯川遥菜氏のシリアでの動きだった。
後藤・湯川の両氏に関する情報が特定秘密に指定されているのも、このあたりに理由があるのではないか?
傭兵に戦争を肩代わりさせる戦略は、1980年代の中米紛争で米軍が採用した歴史がある。米国は派兵先の国の若者に代理戦争をさせたのである。それにより米国内の反戦意識を抑制したのだ。
安保法制が成立した次の段階で、自民党は徴兵制の導入へ向けて動きはじめるのだろうか?
わたしは、安倍首相の極右思想の背景からすれば十分に起こりえることだと思うが、同時に「さすがにそこまでは踏み切れないだろう」という気もする。と、いうのも徴兵制を導入すれば、反戦運動が高騰するのは目に見えているからだ。それが予測できないとすれば、予知能力ゼロの芯からのバカということになる。
しかし、日本の海外派兵軍が戦闘に参加して死者がでた場合、自衛隊に入隊する者が激減するので、兵力を確保する手段は考えなければならない。新自由主義が生み出した格差社会の中で、下層に追いやられた人々が自衛隊に入隊するだろうという見方もあるが、生命のリスクを背負う仕事を選択する人々はやはり多数派ではない。ちょうど福島第一原発の事故処理に携わる人員が不足しているように。
と、なればどのような「対策」が考え得るのだろうか。わたしは徴兵制よりも戦闘員の傭兵(ようへい)化が現実的な案として浮上してくるのではないかと考えている。しかも、その戦闘員は日本人ではなく、派兵先の国の若者である。
事実、シリアに入国してISに拘束され、処刑にふされた湯川遥菜氏は、現地で民間軍事会社の「事業展開」を夢見て射撃訓練に励んでいた。わたしに言わせれば、とんでもない人物である。
湯川氏は、(株)民間軍事会社の設立者である。単なる戦争マニアではない。処刑された当時、同社の顧問には、自民党の元茨城県議が就任していた。湯川氏と元航空幕僚長・田母神俊雄氏の懇意な関係を示す写真も多数存在する。
◇戦争の民営化と傭兵
具体的に湯川氏がどのようなビジョンを抱いていたのかは不明だが、その後、湯川・後藤の両氏に関する情報が特定秘密に指定されている可能性が高いことから察すると、将来日本が選択すると思われる軍事政策と連動したビジョンを抱いていた可能性が高い。射撃を楽しむことだけが目的なら、シリアに入国する必要はなかったはずだ。
現地で傭兵を集めて自衛隊に協力するという青写真があったのではないか。仮に傭兵部隊を展開させる体制が整えば、日本の自衛隊は戦闘員としてではなく、軍事訓練の司令官として派遣されることになるので、日本人の犠牲も最小限に留めることができる。
◇中米における代理戦争の例
実は、兵力を派兵先の若者に肩代わりさせる戦略は、1980年代の中米紛争の時代にすでに米国が採用している。新しい戦略でもなんでもない。米国に追随している自民党政権であれば、十分にありうる戦略なのだ。
1979年のニカラグア革命の後、米国はFSLN(サンディニスタ民族解放戦線)による革命政権を倒すために、ニカラグアの隣国ホンジュラスを米軍基地の国にかえた。しかし、米軍の戦闘員を派遣したわけではなかった。
派兵された米兵は、コントラと呼ばれる傭兵部隊に対して軍事訓練を行う司令官らだった。傭兵集めのターゲットになったのは、ニカラグアのカリブ海側の地域に住む若者たちだった。ここにはミスキートという少数民族が住んでいる。彼らは伝統的に中央政府に背を向けて生きてきた。この歴史的背景に付け込んでミスキートの人々を集め、ホンジュラス領内で軍事訓練を受けさせた後、ニカラグアへ送り込んで、テロ行為を代行させる戦略が採用されたのである。
中米エルサルバドルに対しても、米国はまったく同じ政策を実行している。この国では、1980年に左翼のFMLN(ファラブンド・マルティ民族解放戦線)と、政府軍の間で内戦が勃発した。
米軍がエルサルバドルに戦闘員を送り込むことはなかった。しかし、エルサルバドル軍の指導にあたる司令官たちを送り込んだのである。
ニカラグアだけではなく、エルサルバドルでも代理戦争の戦略が取られたのだ。その背景にはベトナム戦争の敗北に端を発した厭戦意識・反戦意識が米国内で高まっていた事情がある。
米国国内でも、中米紛争への介入に反対する運動があった。
安倍政権は可能であれば日本人戦闘員を直接戦地に投入することを避けたいと考えているのではないか?こうした状況の下で、湯川氏に象徴されるような民間軍事会社の発想が生まれてきたのではないか。これは国境を越えた戦争の民営化策と評しても過言ではない。
改めて言うまでもなく、海外派兵の目的は国際秩序の維持ではなくて、多国籍企業の防衛である。これについては、次の記事を参考にしてほしい。
■安保法制の裏に何が隠されているのか?多国籍企業の防衛部隊としての自衛隊、経済同友会の提言から読み解く