1. 安保関連法案の報道で何が隠されているのか?左派メディアも伝えない本質とは、多国籍企業の防衛作戦としての海外派兵、前例はラテンアメリカ

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2015年07月16日 (木曜日)

安保関連法案の報道で何が隠されているのか?左派メディアも伝えない本質とは、多国籍企業の防衛作戦としての海外派兵、前例はラテンアメリカ

【サマリー】安保関連法案の本質について隠されている重要な点がある。それは企業の多国籍化と海外派兵の関係である。安倍内閣が目指しているのは、旧日本軍式の軍事大国ではない。海外進出企業の権益を政変などから守るための自衛隊の派兵である。こうした観点は、前世期までのラテンアメリカと米国の関係を検証すると明確になる。

特に中米では、米国のフルーツ会社の権益を政変から守るために海外派兵が繰り返されてきた。安倍政権は財界の要求に応じて、海外派兵の体制を構築しようとしているのである。それは同時に米国の要求でもある。

安倍政権が、衆議院特別委員会で安保関連法案を強行採決した。

採決が近づくにつれて、NHKも含め、マスコミは採決に反対する国民の声も報じるようになった。しかし、それはひん死の状態に陥った負傷者を延々と放置したあと、あわてて応急措置をとったに等しい。もやは手遅れだった。

ところて安保関連法案に関して、『しんぶん赤旗』など左派系メディアも含めて、絶対に報じない肝心な部分がある。安保関連法案の隠された目的である。もちろん一般論としては、「米軍と一緒に戦争ができる国」にすることが安保関連法案の究極の目的であるという漠然とした理解は周知となっている。それが誤っているわけでもない。

しかし、「米軍と一緒に戦争ができる国」の具体像が何かという点にまで踏み込んで考えたとき、派兵の目的を誤解していたり、具体像を持っていない人々が少なくないようだ。

安倍政権が目指している戦争のタイプは、旧日本軍のように他国を侵略して、陣地を築き、蛮行の限りを尽くして、最終的に他国を植民地にするというような類型ではない。そうではなくて、多国籍企業の権益防衛のための兵力投入という類型である。そのために世界のあらゆる地域へ、ピンポイントに派兵できる体制の構築が前提条件になっているのだ。

◇新自由主義と海外派兵

なぜ、安倍政権は、軍事面で多国籍企業を防衛する体制を作ろうとしているのだろうか?答えは簡単で、新自由主義の経済政策を押し進めるなかで、日本企業の多国籍化が急激に進んでいるために、財界から派兵体制を構築する強い要求が出ているからだ。その要求が米国からの要求とも一致した結果、安保関連法案の強行採決に至ったのである。

次の記事は、2001年から2013年までの間に経済同友会が発表した軍事大国化の要求を盛り込んだ提言を整理したものである。これらの提言には、多国籍企業の防衛部隊としての海外派兵という視点が現れている。

■参考記事:経済同友会の提言が露呈する多国籍企業の防衛戦略としての海外派兵、国際貢献は口実

◇渡辺治氏らの指摘

わたしが調べた限り、安保法制の問題を企業の多国籍化という視点から論じているメディアや研究者はほとんどいない。唯一の例外は、一橋大学名誉教授の渡辺治氏である。渡辺氏の一連の著書は、この問題について、かなり深く踏み込んでいる。安倍政権が目指す軍事大国と、旧日本軍が主導した軍事大国には質的な差があることも明らかにしている。

さらにジャーナリストの斉藤貴男氏も、どこかでこの点に言及していたように記憶している。

◇ラテンアメリカと米軍

わたしが海外派兵と多国籍企業の関係を考えるようになったのは、1985年にニカラグアなどの中米紛争を取材した時期だった。中米には米国のフルーツ会社が進出している。そこにはパイナップルやバナナを米国へ向けて輸出する体制があった。

その中米で1979年に起こったのが、ニカラグア革命である。この革命にはキリスト教の関係者も含めて、広範な人々が参加したが、実質的には左派の流れを目指した大変革だった。「極めて純粋」な革命として評価が高く、アルゼンチンの作家・フリオ・コルタサルなども、ニカラグアを訪れ、そこに新しいラテンアメリカの原点を発見し、支援に乗りだした。

ニカラグア革命に影響された隣国エルサルバドルの左派は、翌年、FMLN(ファラブンド・マルティ民族解放戦線)を結成して、首都に向けて大攻勢をかけた。

そのころ一連の中米紛争は、「昨日はニカラグア、今日はエルサルバドル、明日はグアテマラ」と評されていた。ニカラグア、エルサルバドル、グアテマラの順に中米は大変革をまぬがれないだろという予測である。

が、ニカラグア革命の影響が広がるのを恐れた米国は、レーガン政権の下で、ホンジュラスの基地化に踏み出した。ホンジュラスは、ニカラグア、エルサルバドル、グアテマラの3ヶ国と国境を接しているので、ここを米軍のプラットホームにすれば、中米全体の左傾化の流れを防止できると読んだのである。

実際、米国はニカラグアの新政権に対しては、傭兵部隊を使った攻撃をホンジュラスから仕掛け、エルサルバドルのFMLNに対しては、同国の政府軍に肩入れすることで、FMLNの撲滅作戦を展開したのである。軍事面で資金援助したことはいうまでもない。

グアテマラに対しては、ニカラグアとエルサルバドルに対する内政干渉ほど露骨な軍事介入こそ控えたが、それはこの国の左派勢力が、軍事力によりある程度まで押さえ込まれていたからだ。グアテマラの場合、1954年にUFC(ユナイティド・フルーツ・カンパニー)とCIAによる軍事クーデターにより、米国の傀儡(かいらい)政権が成立していた。

そのために人権侵害の実態は、ニカラグアとエルサルバドルよりも遙かに深刻だった。たとえば『私の名はリゴベルタ・メンチュー』(新潮社)などには、先住民族虐殺の実態などが詳しく記録されている。

米国とラテンアメリカの関係をみると、多国籍企業と海外派兵がどのような関係にあるのか、その輪郭が見えてくる。そこから安倍政権が目指そうとしている軍事大国の本質や目的が推測できるのである。

■写真:多国籍企業の農園、撮影1992年、サン・ペドロ・スラー、ホンジュラス。