1. 特定秘密保護法違憲訴訟却下判決を斬る、異次元安倍政権に覚悟を示せない司法とメディア

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2015年12月08日 (火曜日)

特定秘密保護法違憲訴訟却下判決を斬る、異次元安倍政権に覚悟を示せない司法とメディア

◆吉竹幸則(フリージャーナリスト・元朝日新聞記者、秘密保護法違憲訴訟原告)

私たちフリージャーナリスト42人が東京地裁に起こした特定秘密保護法違憲訴訟。「具体的な紛争を離れて、法律が憲法に適合するか判断出来ない」として、裁判所は違憲か否かさえ判断しないままの「却下」判決で11月18日、一審の幕が下りた。既成メディアも簡単に報じるだけだった。

しかし、それでいいのか。秘密保護法は安保法制とセットである。国民の「知る権利」を根こそぎ奪い、現行憲法の基本理念である国民主権、基本的人権、平和主義を根本から覆し、国の形すら変える法律である。

数の力を頼めば、いかなる違憲立法も解釈改憲で何とでもなると考えるのが、「異次元安倍独裁政権」だ。核兵器を含めた膨大な軍事機密の実態を秘密法で国民に目隠し。安保法制を成立させ、日米軍事一体化が進められた。日本は軍事以外で国際紛争を解決するより、軍事優先国家となり、「戦争し、戦争を仕掛けられる国」としての「具体的な危険」に、私たちはさらされている。

今、「憲法の番人」としての司法・裁判官、判決を報道するメディアに求められるのは、憲法学者や歴代内閣法制局長官が安保国会で示したような法律家、ジャーナリストとしての「異次元の覚悟」だったはずなのに…である。

◇違憲立法審査権の軽視

日本には、国会で成立した法律が憲法違反か否か、直接判断する憲法裁判所制度がない。だから、憲法違反の法律で国民の権利が侵害された場合、事案に応じ直接被害を受けた国民以外、憲法違反に対して審理を求め、裁判所に違憲か否かの判断を求めることは出来ない――裁判所の違憲立法審査権をこう狭く解釈する考えが司法には長く定着している。

法律専門家の中にも私たちの訴訟は無謀で、勝訴の可能性が薄いと考える人が多かったのも事実だ。しかし、憲法の基本理念に反し、国の在り方まで根本的に変えてしまう秘密法のような法律に、法曹界の惰性が安易に適用されては困るのだ。

何故なら、秘密法は国民が時の権力に対し、自分の判断を示すことを保証した憲法21条「表現の自由」を完全に否定する天下の悪法であるからだ。「違憲・無罪」と確信していても、情報を提供する側も受け取る側も、法律違反で拘束されることを恐れ、情報は国民全体に伝わらなくなる。その結果、戦前同様、変貌する国の真の姿を国民は知る由もなく、自らの意思・判断で国の進路を選択することが出来ない。その結果、行き着く先は、独裁・軍事政治と悲惨な戦争ということになるからだ。

◇違憲判断を避ける理由はない

こうした危険を避けるため、日本と同じく司法裁判所を持たない米国にも、「宣言判決」という制度がある。違憲立法で今争わなくては、社会に取り返しのつかない危害を及ぶ場合、違憲か否か、裁判所に判断を求めることが出来る。日本にも「宣言判決」によく似た「無名抗告制度」というのがある。

私たちも裁判制度に無知ではない。訴訟では、「無名抗告制度の一類型としてとらえれば、日本の裁判でも米国と同じような宣言判決に近い判決を出すことは可能である」「秘密保護法が施行されたことにより、フリージャーナリストとしての取材が、直接かつ現実的に侵害され、国民の『知る権利』が行使出来ていない」と、憲法の数々の条文や取材の体験を列記。秘密保護法の明白な違憲性を指摘して、裁判所の違憲判断を強く求めた。

しかし、谷口豊裁判長は「原告らは主観的な利益が侵害されたと主張しているものの、法に規定されている不利益処分(刑事訴追等)が原告らに現実的に発動されている状況を前提にするものではなく、原告らが直ちに解消されるべき法的不安定な状態に置かれているとは言えない」などとして、秘密法が違憲かどうかさえ判断しないまま訴えを退けた。

◇原告は具体的な被害を立証したが・・・

裁判中には、原告のうち林克明、寺澤有両氏がイスラム国によってフリージャーナリストが人質になった事件や、自衛隊や公安警察へ日ごろの取材経験から、「情報公開を要求しても、秘密保護法を持ち出し官庁が公開に消極的になっている」と具体的事実に基づいて陳述、被害も訴えている。

しかし、谷口裁判長は「取材対象者が取材拒否の方便として秘密保護法の存在を持ち出しているだけとも解され、秘密法の立法、施行に起因すると評価すべきでない」と、国家賠償も退けた。

今回の訴訟では、国民の「知る権利」の危機を心配して、法廷には毎回多くの傍聴者が詰めかけてくれた。その目も意識したのだろう。確かに谷口裁判長は原告二人の陳述を認めるなど丁寧には審理を進めた。

谷口裁判長は、「私は少なくとも原告の言い分をこの耳でじっくり聞いた。他より良心的な裁判官だったはず」と言いたげだった。しかし、官庁が情報公開を渋っても、「取材拒否の方便」と済ましてしまうなら、それをいいことに今後ますます官庁・官僚による情報統制が強まる。

私も司法記者経験がある。これまでの司法記者の常識や判例の流れからは、谷口裁判長の丁寧な訴訟指揮をもってしても、こうした判決が出される可能性について、判決前から十分予測はしていた。

谷口裁判長以上に、権力に媚びる裁判官が増えたのが、現在の司法の姿だ。違憲立法で直接被害を受けた国民が主張してさえ、憲法判断に踏み込んで判決を出す勇気を持つ裁判官はごく少数である。

案の定、司法記者はこの判決に何の驚き、危険性も感じず、淡々と判決文に沿って簡潔に報じた。その結果、大手メディアは私の古巣の朝日も含め、ベタ記事か、小さな扱い。私が調べた限りでは、争点に関して詳しく報じたところもなければ、「解説」で判決批判をしたところなど一つもなかった。

◇民意を軽く見る安倍政権

しかし、私には谷口裁判長の判決も既成メディアの判決報道も、それでいいとは到底思わない。私は司法記者の後、政治記者も経験している。では、政治記者の常識に照らせば、自民推薦の憲法学者や自民政権と二人三脚だった歴代内閣法制局長官が、安保国会で公然と安保法制を「違憲」と断じることなど、誰が予測しただろうか。

これまでの自民党政治も、憲法を守る護憲政治を忠実に展開して来た訳ではない。しかし、憲法を一定程度には意識、立憲国家の原則、その枠を大幅に逸脱したと国民に見られないよう、ごまかし・詭弁も含めそれなりには配慮し、政治を運営して来たのは間違いない。

最初からこの国を「立憲国家」とも思っていない。国会で数さえ揃えばどんな解釈改憲も可能…。こう思い上がり、国民世論も無視して違憲立法をしても平気の平左なのは、戦後政治の歴史を見ても、「異次元安倍政権」以外にない。

憲法破壊の「異次元政治・立法」で国が変質していくのを阻止しようとするなら、「異次元」の覚悟・行動しかないのだ。少なくとも憲法学者も歴代法制局長官も、「立憲政治」そのものが崩壊していく姿を目の前に見た危機感から、「異次元の抵抗」を行動で示した。しかも、その「抵抗」は、自らの職業的良心・矜恃(きょうじ)に基づいて、1本きちんした筋が通っている。

このまま安倍政治が続くならこの国は、戦前のドイツが「ワイマール憲法を持つ国」から「ナチス国家」に変質したように、国民の与り知らぬところで米国と二人三脚の軍事国家に変わってしまう。

だからこそ、私は「立憲国家」を守る立場の司法・裁判官にも、司法を監視するメディア・司法記者にも、憲法学者らと同様の筋の通った「異次元判決」、「異次元報道」をかすかに期待して、判決法廷に臨んだ。しかし、その思いは見事に裏切られた。

◇安保法制とアーミテージ・ナイレポート

今回の違憲訴訟の成り行きを注視し、法廷にも何度も足を運んでくれたのが、山本太郎参院議員だ。山本氏は国会で、「安保法制は、米国から日本に要求されていた第3次アーミテージ・ナイレポートの完全コピーだ」と追及した。事実、レポートを読んでも、安倍政権の政策は、「国民主権」をないがしろにして原発再稼働やTPP推進も含め、米国の要求する政策をそっくりそのまま受け入れたものと言うしかない。

アーミテージ氏と共同でレポートを作成したのは、元米国防総省次官補、ジョセフ・ナイ氏だ。知日家、オバマ政権の極東軍事戦略ブレーンとしても知られる。

そのナイ氏は、1昨年末、朝日の単独インタビューに答え、「今後、米軍は日本国内に固定した基地を持たず、日本の自衛隊基地と一体化し、米国と日本の部隊が一緒に配置されるかも知れません」と、在日米軍の将来像を語っている。

米国言いなりが安倍政権だ。自衛隊基地は今後、日米両軍の共同基地へと変質する。その場合、これまで米軍が単独で持っていた対中国を仮想敵国とした核弾頭は、自衛隊基地の中に隠し持たれると見るのが自然だろう。

万々一、対中国全面戦争になれば、核弾頭を装着した米軍機が日本の自衛隊基地から飛び立つ想定も成り立つ。もちろんその時には、米国本土より先に日本が、中国の核攻撃を受ける最悪の事態も覚悟しておかなくてはならない。

日米共同作戦行動となれば、どこに核弾頭を隠し、自衛隊のどの部隊がどこにどう運ぶのか。暗号なども含め、様々な細かい取り決めが必要だ。安保法制制定を既定路線として施行前から進んでいた日米軍事当局者の極秘会談では、こうした協議に大半の時間が費やされ、決められた数多くの合意事項こそ、「特定秘密の塊」と言えるだろう。

この国は、悲惨な戦争体験を通じ、憲法9条により平和国家を目指すと決意した。世界で唯一の被爆国として、絶対に核兵器を使わないし、使わせない、持ち込ませないことも国是としたはずだ。

しかし、憲法無視の安倍政権により、安保法制・集団的自衛権容認で憲法9条は実質なくなり、「不戦」を誓ったはずの国の姿が激変。どう変わったかさえ、秘密法で具体的な姿が国民には見えなくされている。だから私たちフリージャーナリストは、違憲訴訟を提起した。

立憲国家を守り抜くことは、私たち以上に「憲法の番人」である司法・裁判官の重要な役割・使命のはずだ。秘密法で裁判官にも「憲法から逸脱した国の姿」の具体的な事実が知らされていないなら、何より裁判官自身がもっと危機感を持つべきではないのか。そんな使命感のかけらもない裁判官から「法に規定されている不利益処分が原告らに現実的に発動されていない」と、ノー天気な却下判決を出されても、私たち原告は納得出来るはずがない。

◇重要影響事態法をこっそりと変更

もちろん、ノー天気は既成メディア・記者も同様だ。「特定秘密」は40万件を超えるとも言われている。多くは米国との核密約も含め、国の進路、憲法の基本理念、国民の権利にかかわる秘密であり、記者それぞれの取材対象のどこにでも埋もれているはずだ。私は現役記者時代、何にもましてこのような秘密文書を手に入れることに心血を注いだ。それが国民の「知る権利」に応えて「権力監視」の役割を担う記者の使命だからである。

しかし、安保国会報道を通して、日米核密約の中身など安保法制で変えられる軍事国家の姿の一端に迫る「特定秘密」を一つでも暴いたメディアはあったのか。少なくとも私の記憶・印象に残る特ダネを書いた既成メディアはどこもない。

安倍政権は国会で追及され、核弾頭を自衛隊が運ぶことを法文上否定していないことを渋々認めた。でも、「日本には非核3原則がある」として、自衛隊が実際に運ぶことは否定して見せた。

しかし、最近の若い記者は国会に提出されている法案の文面を隅から隅まで精査していないのが大半と聞くから、多分気付いていないのだろう。安倍政権は米軍の核弾頭を運べるよう、わざわざ法文の目立たない部分をこっそり変えているのだ。

それは、「重要影響事態法」末尾の「備考」部分だ。「周辺事態法」を下敷きに制定された法律だが、周辺法の「備考」では、「物品の提供には、武器(弾薬を含む)の提供を含まないものとする」となっていた。

しかし、影響法では、()内の「弾薬を含む」を削除している。政府見解は「弾薬に核弾頭は含む」である。つまり、()内を備考から除くことで、米軍から要請があった時には核弾頭を運べるよう、わざわざ条文を変更したのだ。恣意で法律を変えたのだから、安倍政権は米軍核弾頭運搬を念頭に置いていると見るべきだ。

外交にかかわる条文や法律法文の改変に少しでも政府が手を染める時には、その裏で極秘外交を通じ、何十、何百もの密約が隠されているというのが、記者の常識だ。なら、秘密法で「特定秘密」に指定された密約の中に、核運搬にかかわる様々な密約があるはずである。その文書の一つでも手に入れれば、安倍首相のウソも明白になり、安保国会の流れも変わったはずだ。

もちろん、出来なかったのは確かに既成メディア・記者のふがいなさ、力量・意欲の不足でもある。私なら「備考」の改変に気付けば、核密約文書の入手を試みる。手に入らなければ、自分のふがいなさを悔いる。それとともに取材を通し、実感した秘密法の壁の厚さだけでも、読者に知らせたいと思う。

◇ふがいないメディアの秘密法報道

しかし、改変にも気付かず、機密文書入手の難しさに最初からあきらめが先に立ち、積極的な取材も試みない「へなちょこ記者」が多くなったのが、今のメディアの姿だ。だからこそ、ますます秘密法は取材の壁として権力側の大きな武器になっている。

何故、安保法制報道で特定秘密の一つもメディアは暴けなかったか。秘密法はどのように特定秘密取材の壁になったのか。秘密保護法が施行されたことによるメディアの取材体験を通じた実害、国民の「知る権利」に危機についてなど、秘密法違憲訴訟判決報道を通じて、読者に知らせるべきことは山ほどあった。

「今のままではいけない」。そんな危機意識がメディア全体に少しでも共有出来ていたなら、私たち原告に言われるまでもなく、違憲訴訟にもっと関心を高め、判決の不当性をもっと大きく既成メディアは報道したはずである。

私が司法記者の頃は、世間の常識・国民の権利に照らして納得のいかない不当判決に出会った時には、読者を納得させ、心に響く判決批判解説をどう書き、紙面としてどうデスク・編集者に大きく扱わせるかが、他社の記者との競争だった。

確かに昔から最高裁の顔色を伺う裁判官は多かった。しかし、彼らも司法記者の書く解説での判決批判を気にせざるを得なかった。それが下級審裁判官をして国家権力べったりのヒラメ判決を出す歯止めとなって働いていたと思う。今は、朝日だけでなくそんな司法記者の書く「解説」には、めったにお目に掛かれない。

◇フリージャーナリストの役割

「喉元過ぎれば」は、既成メディアの悪弊である。秘密法も安保法制も成立直後には、「息長く違憲性を読者の伝えていく」と、メディアは約束したのではなかったのか。しかし、今回の判決報道を通じても、その約束は守られなかった。なら、引き続きフリージャーナリストがやり遂げるしかない。

私は朝日のぬるま湯組織を離れて初めて、フリーの人たちの清貧ながら高い志を実感として知った。原告団は判決後話し合い、裁判を継続する負担に耐えつつも大半が控訴することに賛成した。

今後、私たちは控訴審を通じて、安保法制と秘密保護法に対して危機感を持つ人と力を合わせ、今の司法と既成ジャーナリズムに風穴を開ける裁判での闘いを続ける。既成メディアが大きく報じようとしないとしても、是非、多くの人たちがこの違憲訴訟に関心を持ち、裁判所への監視を強めて戴きたい。
フリージャーナリスト42人による東京地裁特定違憲秘密保護法違憲訴訟判決の全文は以下からご覧ください。

■東京地裁特定違憲秘密保護法違憲訴訟判決の全文
≪筆者紹介≫ 吉竹幸則(よしたけ・ゆきのり)
フリージャーナリスト。元朝日新聞記者。名古屋本社社会部で、警察、司法、調査報道などを担当。東京本社政治部で、首相番、自民党サブキャップ、遊軍、内政キャップを歴任。無駄な公共事業・長良川河口堰のウソを暴く報道を朝日から止められ、記者の職を剥奪され、名古屋本社広報室長を経て、ブラ勤に至る。記者の「報道実現権」を主張、朝日相手の不当差別訴訟は、戦前同様の報道規制に道を開く裁判所のデッチ上げ判決で敗訴に至る。その経過を描き、国民の「知る権利」の危機を訴える「報道弾圧」(東京図書出版)著者。特定秘密保護法違憲訴訟原告。