1. 公共事業は諸悪の根源 ジャーナリズムでなくなった朝日 その9【後編】

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2014年04月02日 (水曜日)

公共事業は諸悪の根源 ジャーナリズムでなくなった朝日 その9【後編】

◆吉竹幸則(フリージャーナリスト・元朝日新聞記者)

まともな回答がない以上、株主総会で実際に質問するべきか、私は悩みましだ。ただ、箱島社長は、年齢制限の内規でこの期での社長退任も既定路線でした。

朝日の社長は、タスキ掛け。経済部出身者と政治部出身者の順繰りだと、週刊誌はよく伝えています。でも、この話の半分は正しくても、半分は正しくありません。平和裏に順繰り人事が行われる訳ではなく、その度ごとに、経済部、政治部の現役を巻き込み、政党の党首選顔負けの血みどろの派閥抗争になります。円満に収めるため、落ち着くところに落ち着いた結果が、タスキ掛け人事というだけなのです。

キャスティングボードを握った社会部出身の経営幹部も、社長に次ぐ地位を得て、黒幕として社内に影響力を持ち続けるのも常でした。これも雲の上の話です。

私は詳しい内幕は知る立場にはありませんが、箱島社長誕生の時、少なくともキャスティングボートを握れる立場にいた一人が、私の記事を止めた社会部長に「名古屋・編集局長を約束した」という例の社会部出身経営幹部だったのです。様々な憶測が社内を飛び交っていましたが、この幹部が、後日、実質朝日ナンバー2のテレビ局社長・会長へと上り詰めたのは事実です。

社会部、政治部にしかいなかった私と、経済部出身の箱島氏との間で、深い確執があるはずもありません。まして、名古屋が初めてで、事情を知らないはずの名古屋代表が、私に何故、「信頼回復」を求めたのか。私は箱島社長を陰で操るこの人物の隠然たる力を嗅ぎ取っていない訳ではなかったのです。

◇週刊誌への内部告発も考えたが・・

箱島社長は退任時期が迫るほど、派閥人事をさらに強く推し進めていました。退いても自分の思い通りになる経済畑の後輩をその後釜に座らせ、「会長」ポストを作って君臨。院政を敷くためと言うのが、社内のもっぱらのウワサでした。しかし、武富士問題での風当たりは強く、さすがに「会長」職を諦め、次期社長に政治畑の秋山耿太郎氏の就任が内定していました。

箱島氏は取締役にしがみつき、「取締役相談役」で残ることにはなっていました。でも社長が政治畑に代われば、社内の雰囲気は少しは変わり、この幹部の影響力もそがれるはずです。私に、派閥意識はなかったつもりです。この程度の淡い期待は、正直ありました。

実は秋山氏と私は、名古屋社会部、東京政治部で、デスク、記者の関係。政治部を去る時、親身に私を心配してくれた一人でした。河口堰の記事を止めた経過もよく知っています。めでたい社長就任の株主総会で、私が大暴れするのも忍びません。

それに、私は週刊誌に手記を発表する内部告発を何のために見送って来たか…です。前述の通り、靖国参拝、憲法改正なども口にする小泉政権全盛の中で、私が汚点を明らかにすれば、朝日の信頼感はさらに低下。ブレーキ役不在を作り出し、この国を危うくするのではないかとの危惧からでした。その状況に変化はありません。

週刊紙注視の中で行われる株主総会で、私が朝日が記事を止めた経過を発言することは、週刊誌に手記を発表することと同等です。と言うより、質問が週刊誌に面白おかしく書き立てられるくらいなら、むしろ私の思いを手記として発表する方が誤解を招かず、まだましです。

そんなこんなで、私は株主総会での質問を思い止まりました。もちろん、それが良かったことか、悪かったか。今から考えても、私には判断がつきません。ここで読者の審判を仰ぎ、ご意見を真摯に耳を傾けたいと思っています。

◇秋山社長へ質問状を送付

でも、質問を撤回する理由は何らありません。質問をちらつかせて、ひっ込める…。それでは「総会屋」もどき、変な下心があるかのように勘ぐられても仕方はありません。私は「総会外質問」と名付け、週刊誌に嗅ぎつけられない質問書を社長に就任したばかりの秋山氏に送りました。

もちろん、秋山氏だからと言って、私はへつらうつもりは毛頭ありません。箱島時代と変わらない毅然としたスタイルの文書を書きました。話し合いの経過を説明、議論が平行線に終わり、質問撤回の意志がないことはきちんと伝えたつもりです。その上で、「裁判で決着させるのが社会の常識ですが、報道機関なら透明性の観点から社内で審査する第3者機関を設置しては」と提案をしました。

しかし返事がないまま7月、私のブラ勤の成績査定が通知されました。「成果がやや不足」。5段階評価で下から2つ目でした。年俸はまたも大幅ダウン。夏のボーナスも前年より半期で数十万円減っていました。「金の問題ではない」と強がってみても、正直、住宅ローンの支払いにも困る始末です。

ブラ勤だから、もちろん仕事の成果がないのは事実です。私に非があると、朝日が本気で思っているなら、「やや不足」など中途半端にせず、正々堂々、「成果ゼロ」の一番下の評価をすればいいのです。「『やや』の根拠は何か」と、責任の所在を尋ねる「不服申立書」も出しました。しかし、これにも回答はありませんでした。

◇社長交代でも変わらない朝日の体質

その間にも箱島社長時代の後遺症は大きく、広島総局で記事の盗用、長野総局で取材していないメモが作られ、記事になるなど、恐れていた通り、若い記者による不祥事が週刊誌で相次いで報じられました。

そんな中で箱島氏は、しがみついてきた新聞協会長と朝日の取締役の退任も表明しました。しかし、自らに大きな責任のある武富士問題には触れず、若い記者の不祥事を挙げ、記者会見で一連の問題の背景を問われると、「朝日も126年と歴史も長くなると、硬直的なことがあるだろう」と、人ごとのような発言をしていました。

私の提案に答えのないまま、秋山社長は社内ホームページで、

情報流出を防ぐ処方箋は、社内の風通しを、さらに、さらに、よくすることだと思います。社内言論の自由は、リベラルな新聞社であるための基本的な条件です。もしも、それぞれの職場で自由に発言できない雰囲気や仕組みがあって、週刊誌にリークしているケースがあるなら、どこをどう改めればよいのか、是非、提案してください。

と、箱島氏と同様の美辞麗句を並べました。

それなら、ホームページに書く前に私の「質問」に真摯に答え、箱島時代の組織体質を検証、根本から組織を変えることから始めればいいのです。しかし、朝日の体質は、社長交代ぐらいでは変わるものではないことも、その時つくづく感じました。

私は「社長発言の通りなら」と、総会外質問に文書で真摯に答えるよう、催告書も送りました。11月に入りやっと、社長に代わり私の社員としての不服申し立ての回答も含め、管理本部から回答が届きました。

◇管理本部からの回答

管理本部は、労務や株主への対応など、朝日の総務部門です。文書による私への初めての回答ですので、全文を紹介しておきましょう。

貴殿から本社取締役会にあてた10月12日付け『株主としての申し入れ並びに質問書』が管理本部法務セクションに届きました。以下に述べる理由により、取締役会から直接お答えするのはふさわしくないと判断したため、管理本部からお返事申し上げます。

ご存知のように、商法の定めによれば、株主は、株主総会に法の定めた基本的事項についての意思決定を行い、株主総会で選任された取締役で構成する取締役会に業務執行に関する意思決定をゆだねる仕組みになっています。個々の株主の意見や提言を何らかの形でうかがい、業務を執行する際の参考にさせていただくことはともかく、会社の機関である取締役会として、個々の株主からの質問に逐一お答えすることは、法が想定している事態ではありません。どうぞご理解ください。

なお質問にある、貴殿から提出された『成績評価不服申立書』について申し上げます。同申立書に関しては、職掌上、名古屋本社代表が必要な調査を行い、7月下旬から貴殿と面談したうえで、この1年間の貴殿の仕事上の成果に照らせば本社が行った評価が適切である旨をお伝えしました。その際に貴殿が主張する『人材の効率的活用』を実現するために、今のような状態が続くことは本社としても好ましいこととは考えていません。名古屋本社代表と建設的な話し合いの場をもたれるよう、改めてお願いします。

「商法の定め」とあります。朝日は1988年2月の社説「会社はだれのものか」で、この「定め」について、こう書いています。

会社はだれのものかと問われれば、一応は株主のもの、と答える人が多いだろう。商法上も、そうなっている。

 しかし、それはあくまで建前の話である。実際には会社に貢献してきた役員や従業員のものであり、さらにはその会社を受け入れている社会のものだという受け止め方が、日本型企業社会の通念と言っていい。

 株主総会で取締役や監査役の退職慰労金を決議する際に、『退職慰労金の金額などの決定を無条件に取締役会に一任することは、お手盛りを招く恐れがあるので、許されない』と、決議の取り消しを命じる判決が東京地裁であった。   『金額の明示は個人のプライバシーにかかわる』といった反論もあるが、株主の要求を無視してまで隠さなくてはならないことなのかどうか。経営内容の細部はなるべく出さずに、株主総会を乗り切ろうとする経営者側の姿勢に問題がありそうだ。

 日本の経営者には、株主総会を活性化しようという気持ちがほとんどないと言っていいだろう。波風を立てずに、総会を早くおさめたいと思っているから、所要時間も、商法改正以前と同様、最近は短縮される一方だ。しかし、国際化時代の本格化を迎えて、これでよいはずがない。株主に対する説明義務を定めた改正商法の精神に沿って、ディスクロージャー(企業内容の開示)を一段と進めることは、株主の利益をできるだけ擁護しようという株式会社本来の姿に近づくことでもある。経営者側が株主総会を軽視して、経営内容の公開をしぶっていたのでは、株主と会社の距離が縮まるはずがない。

◇形骸化した社内民主主義

いかに朝日は建前と本音の違う、外に厳しく内には甘い組織か、これでもお分かり戴けると思います。私は報道機関の株主として、人々の「知る権利」を侵す経営幹部の行動は、いかに会社を危うくするかの観点で「総会外質問」を出したつもりです。しかし、経営幹部たちは、自分たちに耳の痛い質問には、何ら応えようとしないのです。

それに、この文書にある「名古屋本社代表が必要な調査を行い、7月下旬から貴殿と面談」など全くありません。

私は、「『商法の定め』を声高に持ち出されておられますので」と、社説を引き合いに、「面談」など事実無根であることなども含め、「再質問書」を提出しました。しかし、なしのつぶて。言質を取られ、都合が悪くなると沈黙するのも、箱島時代と何ら変わりがありませんでした。

こんなやり取りを延々と続けました。朝日の答も、この範囲を超えるものは一つもありませんでした。これ以上書いても、読者はうんざりされるだけです。ただこの通り、私の記事を止めたことや、私をブラ勤に追いやった理由を朝日は何一つ、まともに答えられなかったことだけは、読者に具体的に分かってもらえたのではないかと思います。

ここで、今回の紙数も尽きました。以降は次回に譲りたいと思います。私と朝日との文書のやり取りはまだまだ続きますが、次回は後の裁判に関係する二点に絞り、報告して行きたいと思います。次回も我慢して読んで戴ければ、幸いです。

≪筆者紹介≫ 吉竹幸則(よしたけ・ゆきのり)

フリージャーナリスト。元朝日新聞記者。名古屋本社社会部で、警察、司法、調査報道などを担当。東京本社政治部で、首相番、自民党サブキャップ、遊軍、内政キャップを歴任。無駄な公共事業・長良川河口堰のウソを暴く報道を朝日から止められ、記者の職を剥奪され、名古屋本社広報室長を経て、ブラ勤に至る。記者の「報道実現権」を主張、朝日相手の不当差別訴訟は、戦前同様の報道規制に道を開く裁判所のデッチ上げ判決で敗訴に至る。その経過を描き、国民の「知る権利」の危機を訴える「報道弾圧」(東京図書出版)著者。