1. 増え続ける恫喝訴訟(スラップ)、弁護士事務所の側から「営業」の可能性も否定できず、対抗策は?

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2015年08月05日 (水曜日)

増え続ける恫喝訴訟(スラップ)、弁護士事務所の側から「営業」の可能性も否定できず、対抗策は?

【サマリー】金銭や恫喝を目的とした訴訟(スラップ)が社会問題として浮上して15年になるが、状況は悪化する一方だ。スラップの件数がますます増えている。近年の著しい特徴として、弁護士に依頼せずに提起される本人訴訟が増えていることがある。わたしも被害者の一人である。

 スラップ訴訟の中には、弁護士の側から訴訟を勧めるケースもあるようだ。「金がとれる」と話を持ち掛け、訴訟を起こすのだ。このような訴訟では、訴因が不自然なことが多い。

  しかし、恰好の対策がある・・・。

名誉毀損を口実とした恫喝裁判(スラップ)が日本で提起されるようになったのは、今世紀に入ったのちである。サラ金の武富士が、次々とフリージャーナリストらに対して高額の金銭支払いを請求する裁判戦略を採用したのが発端と言われている。

厳密に言えば、それ以前にも類似した裁判は携帯電話会社などによって起こされているが、訴権の濫用が社会問題として浮上したのは武富士裁判からである。

それから15年。スラップは衰えをみせるどころか、ますます増えている。

さらに新しいかたちの恫喝裁判も増えている。新しいかたちの恫喝裁判とは、法律の素人が弁護士に依頼せずに本人訴訟を起こすケースである。名誉毀損裁判が原告に圧倒的に有利な法理になっているために、このような現象が起きているのだ。

本人訴訟についても不純な目的で提起されることがある。嫌がらせと金銭が目的化して、わたしが調べた限り、半失業の状態で生活に窮している者が原告になっているケースも過去にはあった。宝くじでも買う感覚で訴訟に踏み込んでいるのではないかと推測する。

わたしも現在、1件の本人訴訟の被告になっている。これについては結審後に事実関係を全公開することを前提に、単行本化も視野に入れて準備中だ。(楽しみにしてください。)

◇弁護士の側が「営業」か?

さてスラップの中には、弁護士の側から裁判を持ち掛けていると推測されるものも多々ある。たとえば請求額が異常に高額に設定されているとか、名誉毀損の対象となっている作品(記事や単行本)が、半年も1年も前に公表されているにもかかわらず、それまでは沈黙を守り、不意に提訴に踏み切った事実があれば、弁護士の側が「営業」によって訴訟に勧誘した可能性が高い。

もちろんそのような行為は禁止されているが、監視する体制がないわけだから、弁護士に対する懲戒請求をしても処分されることはない。日弁連は基本的に弁護士の利益を守る団体なので、故意に虚偽の書類を裁判所へ提出するなど、相当悪質な行為がない限り失職させられることはない。

とにかく訴因が不自然だと感じたら、「営業」により生み出されたスラップを疑う必要がある。弁護士事務所の中には、名誉毀損裁判の提起を勧める内容の書籍を出版しているところもある。

◇スラップ対策は報道すること

さて、スラップを多発されるとフリージャーナリストや小規模メディアは、裁判対応と経済的負担でジャーナリズム活動が出来なくなってしまう。本来、米国のようにスラップ禁止法を国が制定すべきだが、そのような動きが本格化しているという話は聞いたことがない。

裁判を受ける権利が憲法で保障されている状況に照らし合わせると、特定の訴訟をスラップと認定すること自体がなかなか難しいという事情があるので、スラップ禁止法の制定にも壁があるのかも知れない。が、スラップにより日本のジャーナリズムが劣化しているのは疑いない。

現段階で考え得る対策としては、やはりジャーナリズムで徹底抗戦する以外にないようだ。法律を盾にした訴訟ビジネスが勝者になるのか、それともペンで真実を伝え世論を作りだした者が勝者になるのかの戦いになる。

たとえ法律を盾にした者が勝っても、ジャーナリズムにはまた別の視点がある。5年、10年、あるいは20年のベースで裁判を検証することで、問題の本質を浮かび上がらせることができるのだ。