その言葉、単価でXX万円」、名誉毀損裁判と言論・人権を考える(3)、2億3000万円請求のミュージックゲート裁判の例
特定の表現に対して、単価を設定して、個数×単価で損害賠償額を決める方法について、連載(2) で、わたしは「こんな請求方法はこれまで見たことがなかった」と書いたが、若干の訂正を要するようだ。確かに特定表現に単価を設定したケースは、これまで遭遇したことはないが、類似した請求方法は取材していた。
この裁判は、作曲家・穂口雄右氏に対して、ソニーなどレコード会社ら31社が、音源ファイルなどが、穂口氏が代表を務めるミュージックゲート社提供のサービス「FireTube」で、違法にダウンロードされたとして、約2億3000万円を請求した事件である。結果は、穂口雄右氏の和解勝訴。2億3000万円の請求に対して「0円」の解決だった。スラップ(恫喝訴訟)の可能性が極めて強い。
レコード会社側は、ダウンロードされたファイル数は1万431個と主張していた。ところが実際に、その証拠として提出できたのは、121個だった。これらのファイルについては、穂口氏も「FireTube」上で完璧に著作権を保護することができなかったことを認め、賠償を申し出た。
さて、この裁判では、レコード会社側が主張していた1万431個という多量のファイル数が請求額2億3000万円という高額を決めるポイントになっている。
訴状は請求方法について、次のように述べている。
原告ごと(レコード会社31社のこと)の1か月当たりの使用料相当損害金の額は、上記の1か月間に複製等された本件音源等のファイル数に1ファイル当たりの月額使用料相当額である10,000円を乗じることにより求められ、その結果、別紙ファイル数・損害賠償一覧表中の各「1か月分の損害賠償額」欄記載のとおりとなる。
法律家の見解からすれば、1件の不法行為に対して単価を定めて、それに件数を乗じる方法が、損害の程度を評価するうえで、より客観性があるという考えではないかと思う。が、問題は、なぜ、原告が不法行為と判断した時点で、すぐに対策を取らなかったのかという点である。対策を取らなかった事実を前提とすれば、提訴自体がスラップという疑いも生まれるのである。
ちなみにこの裁判のレコード会社側の代理人を務めたのは、TMI法律事務所の升本喜郎弁護士らである。TMI法律事務所など大手の弁護士事務所には、元最高裁判事らが、退任後に「再就職」している事実がある。これは現在の法曹界がかかえる重大問題のひとつである。裁判官と弁護士の情交関係により、判決がねじ曲げられる危険があるからだ。