1. 安倍内閣の「働き方改革実現会議」の発足と新自由主義の破綻

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2017年01月06日 (金曜日)

安倍内閣の「働き方改革実現会議」の発足と新自由主義の破綻

安倍内閣が「働き方改革実現会議」なるものを立ち上げ、2016年9月27日に第1回の集まりを持った。構成メンバーは次の方々である。

内閣総理大臣:安倍晋三(議長)
働き方改革担当大臣:加藤勝信(議長代理)
厚生労働大臣:塩崎恭久(議長代理)
副総理兼財務大臣:麻生太郎
内閣官房長官:菅義偉
経済再生担当大臣兼内閣府特命担当大臣(経済財政政策担当):石原伸晃
文部科学大臣:松野博一
経済産業大臣:世耕弘成
国土交通大臣:石井啓一

これら9名の国会議員に加えて15名の有識者が加わっている。
いわば国をあげて「働き方改革」に着手したのである。こうした動きにNHKも連動して、電通の「過労死問題」を盛んに報じている。わたしには、それが見事な連携プレーに見える。

◇小沢一郎から安倍晋三まで

なぜ、安倍内閣は、「働き方改革」に乗り出したのだろうか。
結論を言えば、自らが押し進めてきた新自由主義=構造改革の路線が完全に破たんしたからである。政権を維持するためには、政策を部分的であれ、修正せざるを得ない状況に追い込まれたからである。

新自由主義=構造改革の路線は、1993年に、小沢一郎氏が構造改革を叫んで自民党を飛び出し、野党再編に乗り出したのが発端である。小沢氏は、自著『日本改造計画』の中で、自己責任論を展開した。その思想は過激で、経済の原理を市場にまかせ、規制をも緩和し、その中で落ちこぼれた個人や小企業は、救済もしないという新自由主義の考えであった。自己責任としたのである。

実際、この20年で福祉が大幅に切り捨てられている。その一方で大企業の法人税は、どんどん軽減されている。

こうした方法で企業の国際競争力強化を支援して、市場を海外へ広げていこうという政策が、新自由主義である。それに連動して、自衛隊も多国籍企業の防衛部隊として海外へ派兵する方向へ進んでいったのだ。国際貢献は口実にすぎない。このような一連の政策を財界も歓迎していた。国籍を問わず企業が多国籍企業化を進めていたからだ。それゆえに小沢氏は、財界の支援を受け改革の旗手となったのである。ある意味では、時代の流れに敏感だった。

これに対して自民党は、もともと構造改革=新自由主義にはなかなか踏み出さなかった。国内市場を優先して、利益誘導型の政治をモットーとしていたからだ。

しかし、小沢氏と財界の動きやグローバルゼーションを警戒して、橋本内閣の下で、構造改革=新自由主義の方向へ転換したのである。そして、足踏みはしたが、小泉構造改革で一応の頂点に達した。だが、経済格差が広がった。そして「改革」は再び足踏みしたが、第2次安倍政権の下で再稼働した。

しかも、今度はグローバル化した多国籍企業のために、自衛隊の海外派兵への道を開き、安倍首相みずから頻繁に海外へ足を運ぶ本格的なものだった。新自由主義と軍事大国化が完全にセットになったのだ。

ところが世界は、新自由主義者の思惑通りにはいかなかった。まず、労働格差が広がった。いまや非正規の社員は国内で4割を超える。国際間の格差も広がった。それが中東などで紛争が勃発するひとつの原因となっている。

このまま新自由主義の政策を続けると、状況はもっと悪くなる。そのことに気づく人々が世界中で増えてきたのだ。極右勢力が台頭したり、EUが分裂をはじめた背景には、このような事情があるのだ。極右勢力は、新自由主義やグローバルゼーションには親和的ではないから、多くの人々が直観的に極右に期待するようになったのだ。

安倍内閣の「働き方改革実現会議」の発足も、このような流れの中で把握するのが正しいだろう。自分たちが押し進めてきた新自由主義の路線が完全に行き詰ったのだ。部分的であれ、政権維持のためには、修正せざるを得なくなっているのだ。

◇電通報道と安倍内閣

ところが、マスコミは新自由主義の失敗を報じない。新自由主義という言葉さえ避けている。NHKが電通の労働問題を報じたとはいえ、その背景にある本当の原因は表に出さない。記者が新自由主義が生み出した職場の実態を認識していないはずはないだろう。知っていて報じないのだ。

マスコミは常に世論誘導(プロパガンダ)の役割を担ってきたが、安倍内閣が「働き方改革実現会議」を発足させた時期に、NHKが電通問題を報じたのも、わたしは偶然とは思わない。労働問題を報じることで、新自由主義の路線には本来あり得ない「働き方改革実現会議」の設置を必然と勘違いさせる世論形成に貢献したのである。

◇新自由主義の幻想

もともと新自由主義の理論に、深い科学的根拠があるわけではない。経済を市場原理にゆだねて、国家の介入を最小限にすれば、経済はよくなるという極めて主観的で、我田引水的なものである。

資本主義が発達する時期に、長時間労働や低賃金が社会問題になったのは周知の事実である。こうした状況の下で、社会主義の思想が生まれてきた。これに対抗するために、企業活動に規制を加えて、福祉国家に近づけて誕生したのが、ひと昔前までの資本主義である。それは国内の経済を中心とした。

しかし、企業が国際市場を競う「怪物」になってくると、規制が足枷になってきた。そこでさまざまな口実を設けて強引に規制を外したのが、新自由主義の社会である。これにより大企業は潤って、国際競争力をつけても、それが逆に格差を広げてしまい、結局は、国内経済の循環を悪くしたのだ。

かといって市場はすでに国際化しているわけだから、自国内で再び規制を強化しても、問題の解決にはならない。それをやれば日本の企業だけが、国際競争力を失ってしまうからだ。財界が猛反発するのは目に見ている。と、すれば国際的な視点で、格差の是正を進めなけばならないはずだが、安倍内閣にはその視点がない。トランプ新大統領には、さらにない。

結局、「働き方改革実現会議」を設置しても、多少の手直しはできても、抜本的な解決にはならない。99%失敗する。