特定秘密保護法違憲訴訟、原告の訴えを「肩すかし」で却下、違憲・合憲の判断を避ける
フリーランスのジャーナリスト・編集者・写真家など43名が、特定秘密保護法は違憲であり、取材活動を委縮させられるとして、同法の無効確認などを求めた裁判で、東京地裁は、18日、原告の請求を退ける判決を下した。
谷口豊裁判長は、特定秘密保護法が実際に適用された具体例が存在しないことを理由に、現在の段階では「法律が憲法に適合するか否かを判断することはできない」として、原告の請求を退けた。
裁判所が公開した判決要旨は、この点について次のように述べている。
我が国の法体系の下において,裁判所は,具体的な紛争を離れて,法律が憲法に適合するか否かを判断することはできない。また,具体的な紛争を前提とする場合であっても,法律の違憲無効.を抗告訴訟として争うことができるのは,例外的な事情があるときに限られる。
しかるに,本件において,原告らの主張をみても,特定秘密保護法に関する具体的な紛争が生じているということはできないし,抗告訴訟として争うことができる例外的な事情があるとも認められない。したがって,本件法律無効確認請求に係る訴えは,不適法であるから,これを却下することとした。
原告団はすでに控訴を決定している。
■解説/特定秘密保護法の性質を無視した判決
この訴訟は、2013年12月に成立し、1年後に施行された特定秘密保護法が憲法に違反するという認定を求めた憲法裁判である。ところが日本の司法制度の下では、実際に発生した具体的事件で、取り締りの根拠となった法律が適用された場合に限って、違憲か合憲を判断するのを原則としている。従って特定秘密保護法を理由とした逮捕・起訴・言論抑圧などが明確に確認できない現在の段階では、同法が違憲か合憲かを具体的事件にそくして判断しようがないから、原告の訴えを却下したというのが、この判決のポイントである。
谷口豊裁判長は、特定秘密保護法が違憲であるとも、合憲であるとも判断せずに、原告の訴えを「肩すかし」というかたちでかわしたことになる。この種の司法判断をするのは、いわゆる憲法裁判所の役割という立場のようだ。その憲法裁判所は、日本の司法制度の中には組み込まれていない。存在しない。
ちなみに特定秘密保護法を根拠とした具体的な逮捕・起訴・取り締りが存在しないから憲法判断が出来ないという見解は、特定秘密保護法の危険な本質をよく理解していない証にほかならない。たとえば理解していても、故意に隠したとしかいいようがない。
と、いうのも特定秘密保護法の下では、公権力が言論を規制する事件を起こしたとしても、その行為が特定秘密保護法に基づいたものであることが公言されることはないからだ。警察は、「特定秘密保護法に基づいて逮捕する」とは宣告しない。起訴後の裁判でも、この点は秘密にされたまま審理が進む。
当然、逮捕された側は、その根拠が分からず、ロシアの作家・ソルジェニーツィンのように「えっ、どうして私が?」と自問することになる。シリアで消息を絶っているジャーナリストの安田純平氏に関する報道が皆無なのも、特定秘密保護法による規制を疑うより仕方がない。つまり、特定秘密保護法が原因で不可解な事態が生じたとしても、それを立証することは出来ないことになっているのだ。
このような事態が発生することが特定秘密保護法の大きな落とし穴であり、問題点であるとすれば、こうした法律の制定行為自体が、憲法の精神を無視した行為にほかならない。事件である。当然、その行為が行き着いた先にある特定秘密保護法が違憲か否かを判断しなければならい。
施行されたばかりの法律の違憲性を問うた今回の裁判を、「門前払い」にした谷口判例は、TPP違憲訴訟や今後に予想される安保関連法案の違憲訴訟にも影響を及ぼしそうだ。こうして日本はファシズムへ向かって進んでいく。