1. 5件の対読売裁判が終了 疑問が残る裁判の公平性と自由人権協会代表理事による改憲派・読売支援

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2014年03月20日 (木曜日)

5件の対読売裁判が終了 疑問が残る裁判の公平性と自由人権協会代表理事による改憲派・読売支援

最高裁は12日、わたしが2009年に提起した読売に対する損害賠償訴訟(原告・黒薮哲哉、被告・読売3社、江崎徹志)の上告を棄却した。これにより読売との間で起きた5件の係争は、すべておわった。残っている係争は、読売の代理人、喜田村洋一・自由人権協会代表理事に対する弁護士懲戒請求だけになった。

13日付けの読売新聞(ネットは12日付け)は、「黒薮氏の上告を棄却、読売側の勝訴が確定」 と、題する記事を掲載している。しかし、情報が乏しく著しく客観性を欠いた記事なので、補足しておきたい。

この裁判は読売がわたしに対して、1年半あまりの間に起こした4件の訴訟(賠償請求額は約8000万円)が、「一連一体」の言論弾圧にあたるとして、約5500万円の損害賠償を求めたものである。

4件の裁判の勝敗は次の通りである。改めて言うまでもなく、原告はいずれも読売、あるいは読売の社員である。

1、著作権裁判の仮処分申立:読売の勝訴

2、著作権裁判:地裁、高裁、最高裁で黒薮が勝訴

3、名誉毀損裁判1:地裁、高裁は黒薮の勝訴 最高裁で読売が逆転勝訴

4、名誉毀損裁判2:地裁、高裁、最高裁で読売が勝訴

勝敗は、5勝5敗である。わたしが5連勝した後、5連敗に転じた。

わたしはこれら4件(実質的には、「1」と「2」は継続性があるので3件)の提訴が、スラップに該当するとして、読売に損害賠償を求めたのである。

それぞれの裁判の判決について、わたしは独自の見解をもっているが、詳細を語るには、スペースに限界があるので、関心があるかたは、拙著『新聞の危機と偽装部数』(花伝社)を読んでほしい。

ただ、結果についてひとつだけコメントすれば、名誉毀損裁判ではわたしが敗訴したとはいえ、著作権裁判では勝訴しており、しかも、読売側のあるまじき行為が司法認定されたにもかかわらず、それに対する賠償が認められなかったのは、不当だと考えていることを付け加えておきたい。「読売側のあるまじき行為」については、次の記事を参考にしてほしい。

■読売・江崎法務室長による著作権裁判6周年 「反訴」は最高裁で、喜田村弁護士に対する懲戒請求は日弁連で継続

これが不当訴訟に該当しないとなれば、司法の秩序は崩壊する。

◇ 裁判の公平性と弁護士活動の思想

6年にわたる裁判を通じて、わたしは特に2つの問題を考えた。裁判の公平性とはなにかという問題と、弁護士活動とは何かという問題である。

まず、裁判の公平性については、「3」の名誉毀損裁判で不公平感を味わった。この裁判は地裁と高裁でわたしが勝訴し、最高裁が読売を勝訴させ、わたしを敗訴させる決定を下し、判決を東京高裁へ差し戻した。これを受けて加藤新太郎裁判官が、わたしに110万円の支払いを命じた。

ところが加藤新太郎裁判官について、調べたところ、過去に少なくとも2回、読売新聞に登場していたことが分かった。つまり読売との距離が近い人物であることが判明したのだ。

■加藤裁判官が登場した読売の記事??

さらにこの裁判の控訴審から登場した読売の弁護団・TMI総合法律事務所に元最高裁判事が3名も再就職(広義の天下り)している事実がわかった。その3名とは、次の方である。

泉?治(元最高裁判所判事・東京高等裁判所長官)

今井功(元最高裁判所判事・東京高等裁判所長官)

才口千晴(元最高裁判所判事)

その他にも次の経歴の方が、再就職している。

頃安健司(元大阪高等検察庁検事長)

三谷紘(元公正取引委員会委員・横浜地方検察庁検事正)

相良朋紀(元広島高等裁判所長官)

今井功(元最高裁判所判事・東京高等裁判所長官)

塚原朋一 (元知的財産高等裁判所長[裁判当時])

樋渡利秋(元検事総長)

松山隆英(元公正取引委員会事務総長)

川北 力(元国税庁長官 )

さらに最高裁の各種委員に読売関係者が抜擢されていることも判明した。次の方々である。

桝井成夫(元読売新聞社論説委員)

金丸文夫(読売新聞社調査研究本部主任研究員)

最高裁事務総局が法曹人としての良識に満ちた人々で占められているのであればともかくも、最近出版された元裁判官・瀬木比呂志氏の著書『絶望の裁判所』によると、最高裁事務総局は伏魔殿のようなところらしい。当事者の内部告発だから、尊重する必要がある。瀬木氏は言う。

 裁判所が、行政や立法等の権力や大企業等の社会的な強者から国民、市民を守り、基本的人権の擁護と充実、人々の自由の実現に務めるという「大きな正義」については、きわめて不十分にしか実現されていない。

◇調査官の名前を公表せず

上告事件は、実質的には調査官(裁判官)によって判決が方向づけられる。と、なれば裁判の当事者が、調査官を務めた裁判官がだれかを知るのは当然の権利である。日本国憲法でも、裁判は公開で行うことが義務付けられている。

そこでわたしは、「3」の裁判の調査官の名前を公開するように、情報公開請求を行った。しかし、信じがたいことに、これに関する記録はない、とのことだった。つまり密室で審理が行われたということである。

どのようなプロセスを経て、読売が逆転勝訴することになったのか、未だに分からない。謎だ。これについては、今後も調査する。

◇「護憲派」自由人権協会に対する疑問

弁護士活動のあり方についても、裁判を通じて考えた。  これら一連の裁判で読売の代理人を務めたのは、喜田村洋一弁護士である。この人の経歴を調べてみると、自由人権協会の代表理事であることが分かった。自由人権協会は、日本を代表する人権擁護団体である。同協会のHPは、改憲について、次にように述べている。

いま、自民党が提案している憲法改正草案は、世界の民主主義国家が共通に大切にしている考えを真っ向から否定するものです。JCLUは、自由と人権の擁護を旗印に60年以上活動してきました。その活動の基礎は、憲法にあります。その大切さを、自民党の憲法改正草案の根本的問題点を指摘しながらあらためて研究することにしました。

強く護憲の立場を表明しているのだ。  ところがその代表理事である喜田村弁護士は、改憲派の先鋒・読売の代理人を務めている。「3」と「4」の裁判では、出版関係者の表現の幅を制限する道につながりかねない判例も作っている。

弁護士の仕事は、クライアントを支援する立場で働くことであるという考えもあるが、同時にみずからの行動に対する責任をどうするのかという問題もある。読売をサポートし、結果として読売新聞の影響力を強めることが、改憲勢力を活気ずけることはいうまでない。読売新聞により、世論も改憲へと誘導される。

護憲運動にみずからの時間とお金を割いている人々、特に出版関係者は、読売裁判に現れた弁護士のあり方をどう考えるのだろうか。わたしの個人的な考えを言えば、自由人権協会の関係者には、護憲運動には参加してほしくない。控えるべきだ。仲間同士の信頼関係に亀裂が生じ、運動が崩壊へ向かうリスクがあるからだ。

わたしの代理人を務めて下っさった馬奈木昭雄弁護士であれば、改憲派の読売をサポートすることはまずありえない。