安保関連法案の衆議院通過で露呈した小選挙区制の矛盾、民意を反映しない議席配分
【サマリー】各種の世論調査によると、安保関連法案に反対する意見が圧倒的に多い。しかし、自公政権は、安保関連法案を強行採決した。この問題の根底には、現在の小選挙区制が民意を反映しないかたちで、議席を配分している実態がある。
小選挙区制の導入に努めた小沢一郎氏の責任は重大だ。小選挙区制を改めない限り、今後も民意とはかけ離れたところで政治が行われ、改憲、徴兵制へと進んでいく可能性が高い。
安保関連法案をめぐる与野党の攻防の中で、水面下である亡霊が輪郭を現している。それは小選挙区制の問題である。
民意が国政に反映する体制があれば、世論動向と政策は方向を同じにするはずだが、安保関連法案に関しては、それと鋭く対立する結果を生んでしまった。
メディア各社が実施した世論調査-安保関連法案の是非を問う調査-の結果は、次のようになっている。
【共同通信】(6月20日、21日)
法案に「賛成」:27・8%、
「反対」:58・7%。
【毎日新聞】(7月4日、5日)
法案に「賛成」:29%、
「反対」:58%
【朝日新聞】
法案に「賛成」:26%
「反対」:56%
法案に反対する世論が圧倒的だ。
一方、法案を強行採決した自民党と公明党の衆議院議員数は次の通りである。
自民党:291議席
公明党: 35議席
(全体は、475議席)
議席の占有率でみると、自公の両党で約69%。ちなみに前回の衆院選における自公の比例区得票率は、47%である。47%の得票率で、69%の議席を占有したのだから、小選挙区制という選挙制度そのものが民意を正しく反映していないことを意味する。
事実、戦争に反対する圧倒的な世論を押し切って、自公が安保関連法案が成立させる事態が起きた。さらに、たとえ参議院で可決に至らなくても、衆議院で3分の2の賛成を得れば法案を成立させることができる「60日ルール」が適用されかねない事態になっている。
小選挙区制で得た「不当」な議席が、数の論理で暴走を始めているのだ。
◇2大政党制のトリック
小選挙区制は、1996年の衆院選から実施された。橋本内閣の時代である。
しかし、小選挙区制の案が本格化したのは、それ以前の時期、急進的な構造改革=新自由主義の導入を主張する小沢一郎氏らが中心となっていた新進党政権の時代である。
小選挙区制を導入することで2大政党制を確立し、構造改革=新自由主義と軍事大国化を迅速に進めたいという小沢氏らの思惑があったようだ。そのために小選挙区制を導入して左派勢力を国会から排除しようとした。実際、社会党は解体に等しい状態に陥った。共産党も伸び悩む。
2大政党制における「2大政党」とは、改めて言うまでもなく、自民党と新進党(後に民主党)である。これらの2政党は、枝葉末節の違いはあるにしても、構造改革=新自由主義の導入と軍事大国化という2つの基本政策では、ほとんど変わりがない。両党とも財界の要求にこたえている。
それゆえに小選挙区制の下で、対立する政党であるかのようなポーズを取り、政権を競いながら、どちらが政権を取っても、結局は同じ方向へ進むという壮大なトリックが成立していたのである。
事実、PKOに始まり、周辺事態法、テロ特措法、有事法制と進んでいった日本の軍事大国化の過程で、民主党はしばしば自民党に協力してきた。構造改革=新自由主義の導入に至っては、最初に構造改革を叫んで、自民党を飛びだしたのは、「非自民」の側である小沢一郎氏らにほかならない。
それに反応して、自民党も「構造改革=新自由主義」の党に変貌したのである。その頂点に立っているのが、安倍内閣にほかならない。
こうした悲劇の生みの親ともいうべき、小沢氏が「生活の党」の党首として、安保関連法案に反対する野党側に席を連ねているのを知ったとき、わたしは、「この人は本当に政治を理解しているのだろうか?」と真剣に疑わざるを得なかった。
小選挙区制を廃止しなければ、日本は改憲、徴兵制へと進んでいくだろう。