1. 米国の上下両院合同会議の演説で安保関連法案の成立を約した安倍首相が考える軍事大国のイメージ、自民党の「新『防衛計画の大綱』策定に係わる提言」に青写真

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2015年05月01日 (金曜日)

米国の上下両院合同会議の演説で安保関連法案の成立を約した安倍首相が考える軍事大国のイメージ、自民党の「新『防衛計画の大綱』策定に係わる提言」に青写真

安倍首相が29日に米国の上下両院合同会議で演説した。その中で、安保関連法案を「この夏までに、成就させます」と約束した。

自民党が構想している軍事大国とは、具体的にどのようなものなのだろうか。
同党が2013年6月4日に公表した「新『防衛計画の大綱』策定に関する提言」を紹介しよう。

そこには自衛隊を米軍のパートナーとすることを前提とした、軍事国家の未来像が描かれている。軍事大国化の口実になっているのは、中国や北朝鮮の脅威、国際舞台でのテロの多発などである。

提言は、「安全保障政策の基盤となる重要課題」について、次のように述べている。

「『国防軍』の設置を始め、わが国における国防の基本理念を明確にするための『憲法改正』や『国家安全保障基本法の制定』、総理の強いリーダーシップの下で外交・防衛政策を推進するための官邸の司令塔機能としての『国家安全保障会議』(日本版NSC)の設置、日米同盟の抜本的強化の観点からの集団的自衛権などの法的基盤の整備や日米ガイドラインの見直しなどへの早急な取り組みが求められている。」

具体的には、

1,国防軍の設置
2,憲法改正
3,国家安全保障基本法の制定
4,国家安全保障会議(日本版NSC)の設置
5,日米ガイドラインの見直し

これらの項目の中には、すでに実現しているものもある。

このうち国防軍を設置するにあたっては、「内閣総理大臣を最高指揮官として定める」という。これは、純粋な軍事政権とはいわないまでも、軍事政権に近いスタイルである。

また、国家安全保障会議の設置に際しては、情報保全のために、秘密保護法を制定するとも述べている。秘密保護法が、日米共同作戦を前提とした安保関連法のひとつであることを如実に示している。

◆防衛型から攻撃型へ

改めていうまでもなく自衛隊は、元々、防衛を主要な任務とする「軍隊」だった。しかし、提言は、「動的防衛力」へ体質を改善する方向性を打ち出している。「動的防衛力」とは、部隊の移動能力を向上させることで、先制攻撃ができる能力のことである。端的に言えば、海兵隊に類似した攻撃スタイルである。実際、提言は、次のように述べている。

「島嶼防衛を念頭に、緊急事態における初動対処、事態の推移に応じた迅速な増援、海洋からの強襲着上陸による島嶼奪回等を可能とするため、自衛隊に『海兵隊的機能』を付与する。」

こうした「改革」を進める背景として、複数の理由が提示されているが、グローバリゼーションの中で、多国籍企業の防衛部隊としての海外派兵が「必要悪」として浮上している状況を考えると、自衛隊「改革」の最大の目的もこのあたりに存在するといえるだろう。

実際、提言は、「邦人保護・在外邦人輸送能力の強化」と題する節で次のように述べている。

「邦人保護の観点から、在外邦人に対する自衛隊による陸上輸送を可能とするための法改正を速やかに実現する。また、派遣国までの輸送を始め、迅速な部隊派遣に即応し得る態勢を確保する。さらに、陸上輸送中の邦人の安全を確実に担保し得るよう、必要な機材・装備の充実を図るとともに、任務遂行のための武器使用権限付与についての検討を加速し、検討結果を踏まえ必要な対応をとる。」

これが軍事大国化の最大の目的、あるいは本音の部分である。米国と役割分担をして、多国籍企業の防衛体制を構築しようというのが、自民党の提言である。そのために本来は防衛部隊であるはずの自衛隊の「打撃力」強化についても、次のように提言している。

「現在、打撃力については米国に依存している状態にあるが、このような役割分担については、現在の安全保障環境に照らしてその適否を再検討し、ガイドライン協議等を通じ整理する必要がある。

とりわけ『ミサイルの脅威』に対する抑止力を強化する観点から、わが国独自の打撃力(策源地[後方支援基地]攻撃能力)の保持について検討を開始し、速やかに結論を得る。」

国籍が異なる軍隊が連携して戦争するわけだから、事前の訓練が必要になることは言うまでもない。具体策として提言は、「グアム等における日米共同訓練場の整備を検討する」と述べている。

◆自衛隊員の確保

しかし、問題は予算と人員をどう確保するかである。医療・福祉を切り捨ててるなど、財政支出を抑制し、「小さな政府」を目指している政府であるが、自民党の提言は、軍事大国化については、大盤振る舞いを奨励している。

たとえば「自衛隊の人員・装備・予算の大幅な拡充」と題する節で次のように述べている。

「厳しさを増す安全保障環境に対応し得る防衛力の量的、質的増強を図るため、自衛隊の人員(充足率の向上を含む)・装備・予算を継続的に大幅に拡充する。
持続的かつ安定的な自衛隊の活動を可能とするため、常備自衛官と予備自衛官の果たす役割を十分に勘案し、海上及び航空自衛隊における予備自衛官の制度の見直しを含め、実効性のある「予備自衛官制度」を実現する。」

驚くべきことに、自衛官が退官した後の就職まで面倒を見るという。退官した自衛官を受け入れた企業に対して「税制優遇等の施策を検討し、必要な措置をとる」というのだ。

現職の自衛隊員の処遇についても、次のように述べている。

「隊舎・宿舎の整備や老朽化した施設の建て替えなど、自衛隊員の職場環境の改善を推進する。また、国内外で厳しい任務を遂行している自衛隊員と家族の絆の維持を支援するため、留守家族支援等を含めた自衛隊員の処遇の一層の改善を図る。

さらに、即応態勢を求められる自衛隊員の職務の特性に鑑み、宿舎料については格別の配慮を行うとともに、自衛隊員が退職した後の給付の拡充等の検討を推進し、各種任務に対する献身的な働きに報いる。」

自民党の提言を読むだけで、同党が描いている自衛隊の未来像は、軍縮とは正反対の方向であることが分かる。
■「新『防衛計画の大綱』策定に係わる提言」