「対日直接投資推進会議」を開催、安倍首相も出席、「世界でいちばんビジネスがしやすい国」とは?
「対日直接投資推進会議」が3月17日に開催され、安倍晋三首相が出席した。これは安倍内閣の下で2014年4月に設置されたものである。この会議の目的を内閣府は次のように定義している。
対日直接投資を推進するため、投資案件の発掘・誘致活動の司令塔機能を担うとともに、外国企業経営者等から直接意見を聴取し、必要な制度改革等の実現に向けた関係大臣や関係会議の取組に資すること
ビジネスが国際化する中で、日本政府は日本企業の多国籍化を全面的にバックアップできるように、国のかたちを「改革」してきた。これに対して、「対日直接投資推進会議」は、海外から日本への投資を活発化させるための政策決定機関である。が、両者は表裏関係にある。同じ構造改革=新自由主義の導入策の中から生まれてきた。
17日に開催された第2回目の会議では、次の5点が決定された。結論を先に言えば、下記の「1」「4」は、枝葉末節の部分で小学生でも提案できることである。「5」は、部分的には本質的な部分に踏み込んでいるが、海外資本の誘致と密接にリンクしている構想改革=新自由主義の導入政策との関係は隠されたままになっている。
1,百貨店・スーパーマーケット・コンビニエンスストア等で外国語で商品を選んで買い物をいただけるよう、病気になったときも外国語で安心して病院で診療いただけるよう、車や電車・バスで移動する際も外国語表記で移動いただけるようにします。
2,訪日外国人が、街中のいろいろな場所で、我が国通信キャリアとの契約無しに、無料公衆無線LANを簡単に利用することができるようにします。
3,外国企業のビジネス拠点や研究開発拠点の日本への立地を容易にするため、すべての地方空港において、短期間の事前連絡の下、ビジネスジェットを受け入れる環境を整備します。
4,海外から来た子弟の充実した教育環境の整備を図るとともに、日本で教育を受けた者が英語で円滑にコミュニケーションが取れるようにします。
5,日本に大きな投資を実施した企業が政府と相談しやすい体制を整えます。また、日本政府と全国の地方自治体が一体となって、対日投資誘致を行うネットワークを形成します。
「5」は、要するに「日本に大きな投資を実施した企業」は、政府が全面的にバックアップすると断言しているのだ。
◇安倍内閣の負の実績
改めて言うまでもなく、国際競争の時代では、多国籍企業が相互に生存競争を演じることになる。日本企業が海外へ進出するのも、ひとつには人件費をはじめとしたコストを削減できるメリットがあるからだ。もちろん現地販売や現地でのサービス提供も可能になる。世界を市場にしなければ、生き残れないからにほかならない。
企業が海外へ移転してゆけば、当然、日本では産業が空洞化する現象が起こる。その日本に海外からの投資を呼び込むためには、多国籍企業にとって、「世界でいちばんビジネスがしやすい国」にしなければならない。それは同時に、日本国内の大企業にとってもメリットになる。
「世界でいちばんビジネスがしやすい国」に日本を変えるために、歴代の自民党内閣が断行してきたのが、構想改革=新自由主義の導入である。具体的に幾つかの政策をピックアップしてみよう。
1、法人税の引き下げ。これは構想改革=新自由主義の政策を本格的に起動させた橋本内閣(1996年に成立)が着手した。法人税を段階的に引き下げている。
2、法人税の引き下げで生じる財源不足を補うために、段階的に消費税を引き上げている。
3、企業の税負担を減らすために、「小さな政府(中央)」を構築した。その結果、福祉の切り捨てが進んだ。さらに地方分権を進めようとしている。
4、規制緩和で中小企業の淘汰を進めている。その一方で、大企業による医療や農業などへの進出も可能になった。
5、労働法制の改悪。たとえば、企業がコストを削減できるように、派遣労働の規制緩和を進め、「生涯非正社員」への道を開いた。解雇のハードルも引き下げている。
6、司法制度改革で法科大学院を設置して、企業法務を専門とするバイリンガルの弁護士を多量に養成した。同時に、裁判員制度を導入するなど、欧米を基準とした司法のハーモニーゼーションを進めた。
7、大学を多国籍企業の即戦力となる人材育成の場に変えてしまった。少数のエリートを育成する一方で、大学を淘汰することで、財政支出を抑える政策を進めている。
8、構想改革=新自由主義の導入により浮上してきた不満やストレスを抑制するために、「心の教育」(たとえば、第1次安倍内閣による「美しい国プロジェクト」)を進めている。形はどうであれ、安倍内閣の教育政策の基本になっているのは、儒教的な観念論教育である。
9、「8」に関連して、特定秘密保護法などを制定して、治安の強化に乗り出している。盗聴法も強化された。
10、海外派兵の体制を整え、多国籍企業の「不測の事態」に対処する道を開こうとしている。
11、NHKの例に典型的に現れたように、ジャーナリズムを「政府広報」に変質させることで、これらの政策のPRを図っている。マスコミはアベノミックスを宣伝してきたが、構造改革=新自由主義の導入で、大企業が業績を延ばすのは当たり前である。その事と国民全体の生活レベルが向上することは、まったく別問題である。