1. イスラム国報道で隠された石油利権、救出作戦の真実、そして武器輸出解禁と民間軍事会社の関係

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2015年02月02日 (月曜日)

イスラム国報道で隠された石油利権、救出作戦の真実、そして武器輸出解禁と民間軍事会社の関係

イスラム国が2人の日本人を拘束した事件は、「処刑」という最悪の結末を迎えた。この事件では、新聞・テレビが報じなかった重要な点が幾つかある。ジャーナリズムの役割は感情に流されずに、事実を伝えることであるから、事件を正しく理解する上で必要な情報をすべて明らかにするのが原則だ。

まず、イスラム国報道で隠された最大の情報は、有志連合による空爆の背景に石油利権が絡んでいる事実である。それは単に欧米諸国だけではなくて、中国などについても言える。

中東調査会の「中東かわら版」によると、「『イスラーム国』がイラクで占拠した油田の数はおよそ80カ所」だという。この80カ所を先進工業国が役割分担して取り戻そうというのが、イスラム国をターゲットにした空爆である。

新聞・テレビが積極的に報じなかったふたつめの重要な情報は、湯川遥菜氏が活動の拠点として設立した会社が、民間の軍事会社である点だ。その背景に安倍政権が進めている新自由主義と軍事大国化の中で武器の輸出を原則解禁にした事情がある。

「戦争業務」を民間にゆだねる戦略は、公的な仕事を民間に丸投げすることで、「小さな政府」を実現する新自由主義の思想から派生していることは間違いない。が、紛争地帯で射撃などの軍事訓練をすれば、軍事行動と受け止められても仕方がない。カーキ色の衣類を身に着けているだけで、ターゲットになることもある。

さらに、湯川氏を救出する作戦を、第3者が後藤氏に依頼した可能性である。
「ブログ・世に倦む日日」によると、2泊3日の行程で、救出計画が練られていた足跡が、生前の後藤氏の発言から裏付けられるという。

昨夜(1/20)のテレビ報道を見ていると、後藤健二は、湯川遥菜が8月にシリアでイスラム国に拘束された件について、自身が責任を感じており、イスラム国に潜入して身柄を救出する準備を進め、10月下旬にそれを実行している。10月22日にトルコに向かい、23日にトルコのコーディネーターに電話をかけ、24日に国境の町で接触し、25日に国境を越えてイスラム国の首都であるラッカに向かっている。

帰国予定は10月29日だった。29日に帰国ということは、28日にイスタンブールから飛行機に乗らなくてはいけない。テレビ報道でのトルコのコーディネーターの証言だと、27日になっても帰らなかった場合、家族を含めた5件の連絡先に電話を入れてくれと後藤健二に頼まれ、本人の携帯電話を直に渡されたと言っていた。ここから察知できることは、後藤健二による湯川遥菜救出の行動がきわめて短期の計画だったということだ。

25日に国境を越えてシリアに潜入し、27日には再び国境を超えてトルコに戻っていなくてはいけない。2泊3日の行程。つまり、後藤健二は何も事前に情報のないままイスラム国(ラッカ)に入ったのではなくて、イスラム国側のコーディネーターの手引きに従い、イスラム国側との打ち合わせに従って、本人の主観からすれば、湯川遥菜の身柄を引き取りに行ったのだ。現地で時間をかけて捜索するのではなく、調整した約束どおりに素早く身柄を引き取って戻ってくる予定だったのだ。

救出作戦に第3者がかかわっていたことを前提に考えれば、一部の週刊誌が報じた保険金に関する事実-後藤氏が加入していた保険が、1日10万円の保険料だった-との整合性も見えてくる。フリージャーナリストが1日に10万円の保険料を自腹で支払うことは、まず不可能。

ちなみにわたしは、「ブログ・世に倦む日日」の内容を全面的に是認しているわけではない。が、少なくとも救出の日程に関する考察は、参考にすべきものがある。救出計画の全容を、検証すべきではないか?

◇ジャーナリストの殺害は最悪の方法

イスラム国が有志連合による激しい空爆を受けているとはいえ、人質の殺害という対抗手段は、完全にマイナスに作用する。

わたしは1980年代のニカラグアを取材したが、同国の左翼政権は、「イスラム国」とは、まったく逆の方針を取っていた。当時、ニカラグアの左翼政権は、米国をバックとした反政府ゲリラ「コントラス」のテロに苦しめられていた。が、ニカラグアの政府は「反米」の立場を取るのではなく、米国の市民と連携する方針を徹底した。

米国の市民グループは、ニカラグアを米国市民が訪問して、市民の視線で事実を確認する企画を実践していた。そのために首都マナグアの米国大使館前では、米国人による抗議集会が頻繁に開かれていた。

たしか1985年か86年だったと思うが、コントラスの陣地に武器を輸送していた米軍機が、対空ミサイルに撃墜され、米国人パイロットが捕虜になった事件があった。この時のニカラグア政府の対応が注目されたが、結局、クリスマス恩赦で、無条件に釈放した。

イスラム国は、むしろジャーナリストに取材させた方が得策だ。が、今回は、ジャーナリストの殺害という最悪の選択をした。

ちなみに安倍内閣が行った2億ドルの人道援助の使い道についても、追跡する必要がある。紛争地帯における人道援助が、軍事援助に化けることがよくあるからだ。