1. 経済同友会の提言から読み解く、改憲=海外派兵の隠された目的 多国籍企業の防衛部隊としての自衛隊

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2014年03月14日 (金曜日)

経済同友会の提言から読み解く、改憲=海外派兵の隠された目的 多国籍企業の防衛部隊としての自衛隊

安倍内閣が憲法9条の「改正」へと突き進んでいる中で、これに反対する勢力が繰り返し使っている表現のひとつに、「戦争が出来る国」がある。

この表現は、安倍内閣が憲法9条を「改正」して、日本を戦争が出来る国にしようとしているという文脈の中で使われている。

わたしは憲法9条の「改正」には反対だが、それとは別に、「戦争が出来る国」という表現は非常に分かりにくいと感じている。大半の人は、ピンとこない。と、いうのも社会通念からして、戦争を好む人はほとんどいないからだ。

なぜ、安倍内閣が憲法9条を改正して「戦争が出来る国」にしようとしているのか、説得力のある説明が不可欠だ。さもなければ、論理が飛躍していると思われる。

◇企業の海外進出と派兵の関係  

結論を先に言えば、安倍内閣が日本を「戦争が出来る国」にしたがっている背景には、ビジネスに国境がなくなった事情がある。それに加えて、世界的な規模で住民のパワーが台頭し、多国籍企業が進出先で営利を貪ることが、倫理的に許されなくなってきた事情がある。

こうした状況の下で、日本の多国籍企業を政変から防衛するために、安倍内閣は軍隊を派遣できる体制を構築する必要性に迫られているのだ。

しかも、多国籍企業の防衛を米国を中心とした同盟国で分担する体制を整えようというのが、オバマや安倍の目論見である。

わたしがこんなふうに自衛隊の「国際化」の背景を解釈するようになったのは、1980年代から90年代にかけてメキシコと中米諸国を取材した時期である。多国籍企業と軍隊の関係を直接観察する機会があったからだ。

たとえば中米のホンジュラス。ホンジュラスのカリブ海沿岸には米国の果実会社(Dole社など)の農園が広がっている。ここで収穫されたバナナやパイナップルは、港から船で米国へ運ばれる。豊かな農作物を前に、現地住民は飢えている。先進国の繁栄と、第3世界の悲劇が共存しているのだ。

これらの農園には、農園警備隊(Guardia de hacienda)と呼ばれる特別の部隊が配備されている。もちろん農園警備隊は、米軍の所属ではないが、ホンジュラスは米軍の対ニカラグア戦略のプラットホームであり、バックに米軍がいたことは間違いない。

拙著『バイクに乗ったコロンブス』(現代企画室)のあとがきで、海外派兵と多国籍企業の関係を概略しているので、紹介しておきたい。

90年代に入ってから、頻繁に耳にするようになった2つの言葉がある。企業の「海外進出」と、自衛隊の「海外派兵」である。この両者、国際化の中での日本の対応という観点を除いては、あたかもまったく関係がないかのような論理が大勢を占めているが、メキシコと中米の取材を通して、私はこの2つが密接に関連しているという確信を得た。

つまり、企業の海外進出にともなう治安部隊の派兵という性質が海外派兵にあること。あるいは企業の用心棒としての自衛隊の海外での活動の必要性が、海外派兵推進の根底にあるということ。それは、海外で政変が起きて企業が危機に直面したとき、軍事力を駆使して「治安の回復」をはかることを意味している。

◇「『実行可能』な安全保障の再構築」  

改めていうまでもなく、海外派兵は財界の要求である。 ? たとえば、経済同友会は、「『実行可能』な安全保障の再構築」と題する提言の中で、多国籍企業の活動と海外派兵の体制について、次のように述べている。

■「『実行可能』な安全保障の再構築」

中身を検証してみよう。

?邦人保護体制の強化に向けた実効性ある検討を

企業活動のグローバル化に代表されるように、国民の安全・財産は、日本の領域内のみにとどまるものではない。自ら選択して海外に出る以上、安全確保のための方策を自ら講じることは、個人・企業の別を問わず当然の責任であろう。その一方、非常事において、国民の安全や権利を守ることは、国家の究極的な責任であると考える。

また、提言は海外からエネルギー源を確保するためには、武力行使も正当化すべきとの主張を展開している。

エネルギー資源のほぼ全量を輸入に頼る日本にとって、その安定的な確保 は持続的な経済成長の基盤であり、死活的な重要性を持つ。 ?  国際情勢の変化に伴うエネルギーの安定確保リスクを低減するためには、 エネルギー政策を安全保障政策の一環としてとらえ、一次エネルギーの種類 の多様化と、その輸入元の多様化等の施策を、計画的に実施していくことが 必要である。 ?  また、万が一の輸入途絶やエネルギー価格暴騰等のリスクに備える上では、 エネルギー自給率の向上という観点も重要である。そのため、基本的には、 本会が主張してきた「縮原発」8の方向性を踏まえつつ、安定的なエネルギー 源として、原子力発電を維持していくことは、安全保障上も極めて重要な意 味を持つと言える。

「エネルギー政策を安全保障政策の一環としてとらえ」るように提言しているのである。これは武力でエネルギー源を防衛すべきだという論理である。 ? さらに驚くべきことに、経済同友会は、提言の中で緊急事態基本法の制定を求めている。その内容は次のようなものである。

具体的には、首相を長とする意思決定の迅速化と現場指揮権の明確化を通じ、国民の生命・財産の保護を達成するため、2004 年の自公民三党合意を踏襲し、早期に緊急事態基本法を制定すべきである。さらに、防衛省と他省庁、自治体との連携を円滑に行う観点からは、そうした緊急事態法制に則って、具体的な運用手順・手続きを整備することを急がねばならない。

例えば、有事に際して、空港、港湾、道路、電波・通信など公共施設を防衛目的で利用するような場合、予め、指示・訓令体制や利用計画の整備、訓練がなされていなければ、危機管理体制は現実的に機能するものとなり得ない。 ?  

こうした緊急事態に際しての連携が求められるのは、各省庁間だけではない。 さまざまな事態において、土地、船舶、航空機、車両、その他施設や関連する人員など、民間からの協力が必要となる事態も想定されるだろう。

この点についても、民間からの協力が必要とされる事態や協力範囲、強制力のあり方や万が一の場合の補償等、幅広い視点で、平時においてこそ、官民の間で合意を形成し、そのような連携を円滑化、強化しうる仕組み作りに取り組むことが肝要ではないか。

緊急事態基本法が成立すれば、日本人全体が多国籍企業の権益を守るための戦争に動員されることになる。結論として提言は、次のように述べて、改憲を主張している。

? われわれが求める「安全保障体制の刷新」とは、実効性ある自衛と国益の保護 という観点から、現憲法の枠内において実行可能な形で、政策的・制度的な制約や不備を無くし、安全保障に関わる国際的規範や共通理解との齟齬を縮小することに他ならない。

◇ラテンアメリカと海外派兵

海外派兵と多国籍企業の関係を考える場合、ラテンアメリカにおける米国の軍事介入に焦点をあてると分かりやすい。派兵の本質が見えてくる。年代順に米軍による軍事介入(軍事訓練の指導も含む)とCIAによる介入を追ってみよう。

■1954年 グアテマラ

■1961年 キューバ

■1964年 ブラジル ?

■1965年 ドミニカ共和国? ?

■1971年 ボリビア ?

■1973年 チリ ?

■1979年?ニカラグア内戦

■1980年?エルサルバドル内戦? ?

■1983年 グレナダ

■1989年 パナマ

このうち分かりやすい例のひとつに1954年のグアテマラのケースがある。実は、1954年のCIAによるクーデターの前時代、1944年からの10年、グアテマラでは、民主的な政治が行われた。ルーズベルト米大統領が提唱したニューデール政策(資本主義に規制を加える)に基づいて、大胆な社会改革が進んだのである。この10年は、俗に「グアテマラの春」と呼ばれている。

当時の政権は左派ではなかった。しかし、農地改革に着手して、UFC(ユナイテッド・フルーツ・カンパニー)の土地に手をつけたとたんに、CIAによるクーデターで政権が転覆させられたのだ。

その後、1960年ごろからゲリラ活動が起こり、以後、36年にわたりグアテマラは内戦の時代を経験したのである。