1. 新聞社が自社紙面で特別秘密保護法の反対キャンペーンを張れない背景に軽減税率問題と「押し紙」問題

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2013年11月20日 (水曜日)

新聞社が自社紙面で特別秘密保護法の反対キャンペーンを張れない背景に軽減税率問題と「押し紙」問題

特定秘密保護法が成立する公算が日増しに強くなっている。この法案については、メディア関係者の間から強い反対の声が上がっているが、新聞が自社の紙面でキャンペーンを張って法案の通過に抵抗する動きはみられない。

これはある意味では不思議な現象である。2006年に新聞特殊指定の撤廃案を公取委が持ち出したとき、新聞各紙は大キャンペーンを張ってこれに反対した。自分たちの既得権を守るために、自社メディアを使ったのである。

ところが特定秘密保護法については、法案に反対する立場を表明して、それにそった記事や社説を書くことはあっても、特殊指定問題のときのような熱烈な姿勢は見られない。

読売に至っては、19日付けの紙面で「特定秘密 みんな賛成へ」「自公、法案修正受け入れ」と題する次のような記事を掲載している。

機密情報を漏えいした公務員らの罰則を強化する特定秘密保護法案をめぐり、自民、公明両党は18日、特定秘密の指定などに首相の関与を強めるとしたみんなの党の要求をうけ入れることを決めた。

この書き出し部分を読む限りでは、特定秘密保護法案が「機密情報を漏えいした公務員らの罰則を強化する」法律としか解釈できず、多くの識者が問題にしている同法が秘める戦前の治安維持法的な性格にはまったく言及していない。政府広報とまったく同じ視点である。

なぜ、新聞は特殊指定問題のときのような大キャンペーンを張らないのだろうか。秘密保護法案が成立すれば、ジャーナリズム活動が骨抜きにされるにもかかわらず、自粛しながら同法を批判するのだろうか?

◆「新聞や書籍を軽減対象とすべきだ」

この疑問を考えるヒントは、読売の次の主張にある。

軽減税率 政治の責任で導入の決断急げ(11月14日付・読売社説)

消費税率を2015年10月に予定通り10%に引き上げるならば、低所得層など国民の負担を和らげる対策が不可欠だ。 ?  政府と自民、公明の与党は、生活必需品などの税率を低く抑える軽減税率の導入を決断すべきである。早期に制度設計に着手することが求められよう。

(略)

?? 日本も食料品に加え、新聞や書籍を軽減対象とすべきだ。

(記事の全文=ここをクリック)

政府自民党は、秘密保護法案と軽減税率の問題を同時進行させることで、メディアをコントロールしているのだ。その結果、新聞はいうまでもなく、新聞社と系列関係にあるテレビ局も、反秘密保護法のキャンペーンを張れない。

◆「押し紙」にも消費税

毎日新聞社の元常務取締役・河内孝氏の著書『新聞社?破綻したビジネスモデル』(新潮新書)によると、消費税が5%から8%になった場合、新聞各社の追加負担は次の通りになる。

朝日   90億3400万円  

読売  108億6400万円 ?

毎日   42億6400万円 ?

産経   22億1800万円 ???????????

   ?(04年度ABC部数で計算)      

念を押すまでもなく、消費税は新聞の「押し紙」にもかかってくる。「押し紙」が3割と見積もっても、その負担額は莫大な額になる。

新聞関係者は、編集部門と販売部門はそれぞれ独立しているので、販売政策が紙面内容に影響を及ぼすことはないと主張してきたが、新聞社経営が破綻しても、ジャーナリズム活動を優先するとは考えられない。事実、秘密保護法の報道を自粛している。ジャーナリズムの死活問題であるにもかかわらず大胆なキャンペーンを張らない。

◆記者クラブの面々にとっては・・・

さらに特筆しておかなければならないのは、たとえ秘密保護法が成立したとしても、官庁から情報を受け取り、それを基に記事を書いている記者クラブの記者にとっては、特別な支障はきたさないという点である。

もっとも影響を受けるのは、調査報道に徹している新聞記者とフリーランス・ライターである。さらにウエブサイトを発表媒体にしている「市民記者」である。

たとえばわたしの場合は、携帯電話の基地局問題を取材しているが、基地局に関する情報が秘密に指定される可能性が極めて高い。と、いうのも、通信網に関する情報を漏らせば、テロ活動に悪用されるという口実が成り立つからだ。

現に秘密保護法がない現在の段階でも、基地局情報はほとんどが非開示になっている。わたしはそれがどのような法律に基づいているのを知らないが、総務省は基地局に関する情報の公開を阻みつづけてきた。

秘密保護法が成立すると、基地局の撤去を求める運動や報道が処罰の対象になり、電話会社が自由に基地局を設置できるようになる公算が強い。

◆安倍の体質を見抜けなかった?

ここにきて秘密保護法に反対するマスコミ関係者が急増している。それ自体は歓迎すべきことだが、わたしがふに落ちないのは、この中には、小泉内閣によって本格化し、安倍政権へと受け継がれた構造改革と軍事大国化の国策を支援してきた人がかなり多く含まれている点である。言うまでもなく新聞とテレビは、構造改革と軍事大国化の応援団だった。その延長線上に、秘密保護法や改憲が待ち構えていることを推測できなかったようだ。

安倍の体質を見抜くのが、あまりにも遅かったのでは・・・・彼が戦前の道徳教育まがいの「美しい国プロジェクト」を提唱したころから、危険な兆候は見えていたはずだが。