1. 経済同友会の「『実行可能』な安全保障の再構築」、財界が改憲により獲得をめざす中身を露呈

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2013年05月07日 (火曜日)

経済同友会の「『実行可能』な安全保障の再構築」、財界が改憲により獲得をめざす中身を露呈

経済同友会が4月5日に発表した「『実行可能』な安全保障の再構築」と題する提言は興味深い。はからずも、改憲によって財界が獲得を目指しているものが何かを露呈している。

 (「『実行可能』な安全保障の再構築」の全文)

提言しているのは、経済同友会の「安全保障委員会」である。委員長は双日(旧日商岩井、旧ニチメン)の加藤豊会長である。海外を舞台とする総合商社のビジネスと海外派兵はどう関連するのだろうか。

改憲といえば、日本を戦前の軍国主義へ回帰させることを狙っているような印象がある。事実、声だかに改憲を主張している人々の心中は、そのような野心に満ちているようだ。たとえば石原慎太郎氏は、朝日新聞のインタビューの中で、日本は「軍事国家になるべきだ」と語っている。

また、改憲に固執してきた安部内閣の閣僚たちが、靖国神社に参拝(安倍首相は参拝の代わりに、供物を内閣総理大臣名で奉納)したことも、改憲=戦前の軍国主義のイメージを拡散する。

さらに改憲を肯定的にとらえている人々は、9条の改正=国際貢献と考えている。世界情勢の変化の中で、古くなった憲法を改正するという極めて単純な発想である。

しかし、改憲の本当の目的は、若干別のところにあるようだ。メディアで報道されている表向きの部分とは異なるようだ。経済同友会の文書を読むと、それがよくわかる。

が、この点に立ち入る前に、安部内閣の閣僚による靖国参拝をめぐる海外の反応に言及しておこう。

韓国や中国が、靖国参拝に反発したことは想定の範囲だったが、意外なことに日本の同盟国である米国でも批判の声が上がった。なぜか?答えは簡単で、ビジネスの国境が消え始めている状況下で、多国籍企業が展開している国際ビジネスに支障が生じかねないからだ。

これはわたしの推測になるが、アジアに進出している日本の多国籍企業も、米国と同じ受け止め方をしているのではないかと思う。企業人は極めてシビアーだ。自社にとって利益になるか否かで物事を判断する。

安部内閣の閣僚たちは、おそらく財界のご機嫌を取ろうとして、靖国神社に参拝したり、尖閣諸島を国有化したり、右翼的な発言を繰り返しているのではないかと思うが、財界の思惑は若干異なるようだ。

結論を先に言えば、多国籍企業の権益を守るために、憲法を改正して、海外派兵の体制を整えてほしいというのが、財界の要望である。それ以外の何物でもない。右翼が主張するように、憲法は米国が作ったものだから、改憲が必要といった論理は表面上の理由に過ぎない。

◆「『実行可能』な安全保障の再構築」

「『実行可能』な安全保障の再構築」の中身を検証してみよう。経済同友会は、多国籍企業の活動と海外派兵の体制について、次のように述べている。

邦人保護体制の強化に向けた実効性ある検討を

企業活動のグローバル化に代表されるように、国民の安全・財産は、日本の領 域内のみにとどまるものではない。自ら選択して海外に出る以上、安全確保のための方策を自ら講じることは、個人・企業の別を問わず当然の責任であろう。その一方、非常事において、国民の安全や権利を守ることは、国家の究極的な責任であると考える。

また、提言は海外からエネルギー源を確保するためには、武力行使も正当化すべきとの主張を展開している。

エネルギー資源のほぼ全量を輸入に頼る日本にとって、その安定的な確保 は持続的な経済成長の基盤であり、死活的な重要性を持つ。

 国際情勢の変化に伴うエネルギーの安定確保リスクを低減するためには、 エネルギー政策を安全保障政策の一環としてとらえ、一次エネルギーの種類 の多様化と、その輸入元の多様化等の施策を、計画的に実施していくことが 必要である。

 また、万が一の輸入途絶やエネルギー価格暴騰等のリスクに備える上では、 エネルギー自給率の向上という観点も重要である。そのため、基本的には、 本会が主張してきた「縮原発」8の方向性を踏まえつつ、安定的なエネルギー 源として、原子力発電を維持していくことは、安全保障上も極めて重要な意 味を持つと言える。

「エネルギー政策を安全保障政策の一環としてとらえ」るように提言しているのである。これは武力でエネルギー源を防衛すべきだという論理である。

さらに驚くべきことに、経済同友会は、提言の中で緊急事態基本法の制定を求めている。その内容は次のようなものである。

具体的には、首相を長とする意思決定の迅速化と現場指揮権の明確化を通じ、 国民の生命・財産の保護を達成するため、2004 年の自公民三党合意を踏襲し、早期に緊急事態基本法を制定すべきである。5  さらに、防衛省と他省庁、自治体との連携を円滑に行う観点からは、そうした緊急事態法制に則って、具体的な運用手順・手続きを整備することを急がねばならない。例えば、有事に際して、空港、港湾、道路、電波・通信など公共施設を防衛目的で利用するような場合、予め、指示・訓令体制や利用計画の整備、訓練がなされていなければ、危機管理体制は現実的に機能するものとなり得ない。

 こうした緊急事態に際しての連携が求められるのは、各省庁間だけではない。 さまざまな事態において、土地、船舶、航空機、車両、その他施設や関連する人員など、民間からの協力が必要となる事態も想定されるだろう。この点についても、民間からの協力が必要とされる事態や協力範囲、強制力のあり方や万が一の場合の補償等、幅広い視点で、平時においてこそ、官民の間で合意を形成し、そのような連携を円滑化、強化しうる仕組み作りに取り組むことが肝要ではないか。

緊急事態基本法が成立すれば、日本人全体が多国籍企業の権益を守るための戦争に動員されることになる。 ? 結論として提言は、次のように述べて、改憲を主張している。

われわれが求める「安全保障体制の刷新」とは、実効性ある自衛と国益の保護 という観点から、現憲法の枠内において実行可能な形で、政策的・制度的な制約や不備を無くし、安全保障に関わる国際的規範や共通理解との齟齬を縮小することに他ならない。

◆ラテンアメリカと海外派兵

海外派兵と多国籍企業の関係を考える場合、ラテンアメリカにおける米国の軍事介入に焦点をあてると分かりやすい。派兵の本質が見えてくる。年代順に米軍による軍事介入(軍事訓練の指導も含む)とCIAによる介入を追ってみよう。

 ■1954年 グアテマラ

 ■1961年 キューバ  ■1964年 ブラジル

■1965年 ドミニカ共和国

■1971年 ボリビア

■1973年 チリ

■1979年 ニカラグア内戦 

■1980年?エルサルバドル内戦

■1983年 グレナダ

■1989年 パナマ

たとえば1954年にCIAが起こしたグアテマラのクーデター。当時のグアテマラは、民主的なかたちで資本主義を発展させることを基調とした政権だった。しかし、政府が農地改革の中で、米国のUFC(ユナイテッド・フルーツ・カンパニー)の農地に手をつけたとたんに、クーデターで倒された。

その後、グアテマラは反政府ゲリラとの間で30年を超える内戦に突入する。クーデターの直後、ニクソン(後に大統領)は、「グアテマラに民主主義が戻った」と発言している。

◆チリの軍事クーデター

1973年のチリの軍事クーデターも、多国籍企業の権益と深くかかわっている。チリは銅の産出国である。その銅山を所有すのは、米国の多国籍企業だった。70年に社会党と共産党を中心とする人民連合が成立すると、アジェンデ政権は、銅山を国有化した。

CIAが関与した軍事クーデターが起こったのは73年の9月11日である。人民連合の支援者は殺害されり亡命を余儀なくされた。アジェンデ大統領は自殺した。その後に成立したのは、ピノチェト将軍による軍事政権だった。(ちなみにピノチェトは、晩年になってから、人権侵害などで裁判攻めにされた。妥当な対抗策といえよう)

◆中米への介入

80年代のニカラグアへの軍事介入は、直接多国籍企業の権益とは関係ないが、(ただ、運河の建設を巡る米国利権説はある)構図としては同じである。ニカラグアは、独裁者ソモサ一家の独壇場だった。ソモサは米国を後ろ盾として、ニカラグアの政治から、経済・軍事に至るまで約40年に渡って私物化していた。その見返りに安価なコーヒーなどがニカラグアから米国へ輸出された。

さらに米国がニカラグア革命に介入したのは、民族自決運動の波が中米全体に広がって米国のフルーツ会社などの権益を侵すことを懸念した事情もあったようだ。 ?  いずれにしても自国の権益を守るために米軍の投入が行われてきたのである。これが歴史の事実である。米軍と日本の自衛隊の関係について考察するとき、これらの事実を無視することはできない。