内閣官房が望月記者の発言をめぐり東京新聞へ送付した抗議文、送付先を誤った的はずれな内容、全文を公開
8月25日に管官房長官が開いた記者会見で、東京新聞の望月衣塑子・記者が行った質問に、内閣官房からクレームが付いた。加計学園が進めている獣医学部施設に関して望月記者が、「認可の保留という決定が出た」と言及した事(この時点では公式発表はされていなかった)に対して、内閣官房の上村秀紀報道室長が抗議の文書を送付したのだ。
送付先は、東京新聞政治部次長(官邸キャップ)の篠ヶ瀬祐司氏だった。
読者はこの対応をどう思うだろうか。抗議文の全文を公開した上で、筆者の意見を述べよう。
【内閣官房による抗議文の全文】
東京新聞政治部次長(官邸キャップ)
篠ヶ瀬 祐司 様
内閣官房 総理大臣官邸報道室長
上村 秀紀
本年8月25日午前の菅内閣官房長官記者会見において、貴社の記者が質疑の中で、平成30年度開設の大学等についての大学設置・学校法人審議会の答申に関する内容に言及しました。
言及があった内容は、正式決定・発表前の時点のものであり、文部科学省としては、官房長官記者会見と言う公の場において言及することは、当該質疑に基づく報道に至らなかったとはいえ、事前の報道と同一のものとみなし得る行為であり誠に遺憾であるとして、文部科学広報官から貴社に対し、文書にて再発防止の徹底を求めたいと承知しています。
また、上記の件は、官房長官記者会見の場で起きたことであるため、文部科学省広報室から当室に対し、当室から内閣記者会駐在の貴社の記者に注意喚起を行うよう要請がありました。
正式決定・発表前の時点での情報の非公表は、正確かつ公正な報道を担保するものです。官房長官記者会見において、未確定な事実や単なる憶測に基づく質疑応答がなされ、国民に誤解を生じさせるような事態は、当室としては断じて許容出来ません。貴社に対して再発防止の徹底を強く要請いたします。
◇抗議先を完全に誤っている
まず、この抗議文で問題なのは、新聞記者にとって情報とは何かを上村広報室長がよく理解していないことだ。情報とは、記者クラブを通じて公開されたものだけを意味するのではない。それはスクープではないのであまり重要ではない。記者が独自に入手した情報の方が重要なのだ。特に「役所」が隠している情報は価値が高い。
それを根拠にした質問の自粛を求めるのであれば、記者会見は形骸化する。自由闊達な言論は育たない。
第2に抗議先を完全に誤っている。抗議するのであれば、望月記者本人に直接文書を送るのが筋だろう。新聞記者は企業に所属しているとはいえ、基本的には個々で取材活動を展開しているのである。望月記者の発言に対する抗議であれば、本人に抗議するのが常識だ。
この問題については、東京新聞と日本新聞協会の対応が注目される。特に東京新聞は、抗議の矛先を向けられたのだから、社として厳しく内閣官房に抗議すべきだろう。
第3にこのような行為は、政府による言論活動への介入であることも指摘しておかなければならない。
◇注目される東京新聞の対応
安倍内閣が特定秘密保護法や共謀罪法を施行したのち、日本の空気がおかしくなっている。改めて言うまでもなく、その象徴的な現象は、北朝鮮問題を逆手にとった世論誘導である。ミサイルに備えた子供の避難訓練は、その典型である。この異常さに大半の国民は気づいていない。今、大がかりな世論誘導が進行しているのである。
政府がJアラートを発信すると、一斉にテレビなどがそれがを報じる。しかも、政府が制作した画像をそのまま放送している。が、Jアラートを報じるかどうか、あるいはそれをどのような形で報じるかは、各メディアが決めることなのだ。それが本来のジャーナリズム企業のあり方なのである。このあたりを曖昧にしてしまうと、最後には、戦時中の大本営発表に基づいた報道と同じように変質してしまうだろう。緊急時に備えて、NHKの受信料も支払わなければならないことになる。
今、言論の自由が著しく脅かされている。今後の東京新聞の対応は極めて大事だ。
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