1. 安倍首相による記者会見で露呈した日本の記者クラブの異常で絶望的な姿

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2017年06月21日 (水曜日)

安倍首相による記者会見で露呈した日本の記者クラブの異常で絶望的な姿

9日に安倍首相が行った記者会見は、はからずも日本の記者クラブの異様な実態を典型的に露呈した。改めていうまでもなく、この記者会見では、加計学園の問題や共謀罪法案をめぐる不可解な国会運営について、安倍首相がどのような説明をするかに最大の注目が集まっていた。それが国民の関心でもあった。

■記者会見の全文

筆者は、これらの問題で記者が首相を厳しく追及することを期待していた。新聞やテレビを含む多くのメディアが、加計学園や共謀罪の問題で首相を追及し、従来の自主規制から脱却する兆しがあったからだ。

まず、加計学園の件について首相は、もともと不正な要素はなにもないのに、野党が挑発的な追及を展開して、それに自身が応戦したことが、国会を混乱させたという趣旨のことを述べた。自分に責任はなく、責任は野党側にあるとする見解である。

「印象操作のような議論に対して、つい、強い口調で反論してしまう。そうした私の姿勢が、結果として、政策論争以外の話を盛り上げてしまった。深く反省しております。」

共謀罪法案をめぐる件については、オリンピック・パラリンピックを開催するために共謀罪法案の成立が不可欠だったと説明した。

「東京オリンピック・パラリンピックを3年後に控える我が国にとって、テロ対策の強化は待ったなしであります。テロを未然に防止するため、国際組織犯罪防止条約を締結し、国際社会と連携を強めていく。今回成立したテロ等準備罪処罰法は、そのために必要なものであります」

首相のこの発言には、明らかな事実誤認がある。国際組織犯罪防止条約はテロ防止のための条約ではなく、マフィヤなどによる国際金融犯罪を取り締まるためのものである。

【参考記事】国連の「立法ガイド」の執筆者・ニコス・パッサス氏、「(TOC)条約はテロ防止を目的としたものではない」、東京新聞が伝える

つまり首相は、加計学園の問題では、自分自身に重大な疑惑がかかっているにもかかわらず、その責任を野党に転嫁し、共謀罪では、完全に誤った情報を前提に持論を展開したのである。

当然、記者たちから、厳しい追及が行われるものと思っていた。ところが幹事社の毎日新聞の記者が、質疑応答の冒頭に、加計学園と共謀罪についての紋切り型の質問をしただけで、記者団からの追及はまったくなかった。

筆者にはそのメンタリティーがまったく理解できなかった。首相に直接質問できる恰好の機会をみずから棒に振ったのである。なぜ、質問しないのか、不可解な印象を受けた。が、これが日本の記者クラブの姿なのだ。

◇権力構造に組み込まれたメディア

政権党にとっては致命的な問題への言及を控えるのが、日本の記者クラブの暗黙の申し合わせにでもなっているかのようだ。 なぜ、このような奇妙な現象が起きているのだろうか。

まず、考えられるのが、メディアが権力構造の一部に組み込まれている事情である。当然、メディアはそこでは、ジャーナリズムではなく、国策プロパガンダの役割を負わされている。特に新聞社は「押し紙」問題など、経営上の弱点を公権力に捉まれており、公権力に歯向かえば、経営上の弱点を口実として、取り締まりの対象にされかねない事情を心得ているはずだ。

その結果、第3者からみれば、記者が飼い慣らされた羊のようにおとなしくなり、まともな質問をしなかったのだろう。このような会見を放送した局にも、恥の意識はなかったのだろう。

フリーランスの記者を記者会見に参加させれば、情況は激変するだろうが、そのような改革への道はほど遠い。

【参考記事】岩田明子記者の会長賞受賞にみるNHKジャーナリズムの没落、TBSとテレビ朝日も弱体化、背景に自粛と安倍政権への配慮か?