岩田明子記者の会長賞受賞にみるNHKジャーナリズムの没落、TBSとテレビ朝日も弱体化、背景に自粛と安倍政権への配慮か?
『週刊金曜日』(4月7日)が「テレビ報道の危機」という特集を組んで、もはや真っ当なジャーナリズム企業とはいえないNHK、TBS、テレビ朝日の実態を特集している。
このうちNHKは、今年の会長賞(NHKの社内賞)の選考結果に現れたNHKの実態を報じている。安倍首相のメッセンジャー的な存在で官邸の動きをタイムリーに報じてきた岩田明子記者が会長賞を受賞する一方で、「天皇陛下、生前退位の意向」をスクープした橋口和人記者が落選した背景に、次のような事情があるという。
このスクープに安倍は「よりによってNHKが自分の意向に反する報道をするとは何事か」と激怒したと伝えている。
安倍政権に配慮したNHKの姿勢は、森友学園についての報道にも見られる。
2月17日、衆院予算委員会で森友学園との関係を問われた安倍が「もし関係していたら総理も国会議員も辞める」と明言したときもニュースにしているが、驚くべきことに、安倍昭恵が講演していたことなどの質問には一切触れていない。(略)その後も、安倍本人や昭恵の名前をできるだけ出さない形での報道が続き、私たち内部の人間も、さすがに恥ずかしい思いだった。
◇TBSとテレビ朝日
TBSは、かつてはジャーナリズム企業として定評があった。ところがTBSジャーナリズムの看板である『NEWS23』でも、徹底した調査報道を放棄する現象があるという。現在、大問題になっている共謀罪についても、報道に消極的だという。
象徴的なのが、3月21日放送の『NEWS23』。この日は安倍晋三内閣で「共謀罪」法案が閣議決定された。当然、『NEWS23』はトップで重点的に報道するだろうとオンエアを見た視聴者もいるはずだが、なんと「30秒の項目ニュース」。
第2の森友学園事件ともいわれる加計学園問題については、「先陣を切って報道する動きを抑えたとの話も伝わってくる」という。
さらにテレビ朝日は、安倍首相と懇意な関係にある幻冬社の見城徹社長が、2014年に同テレビ局の放送番組審議会の委員長に就任して以来、放送局を私物化する兆候が浮上しているという。たとえば幻冬社から著書を出している山口敦之氏や田崎史郎氏をニュース番組に起用している。
◇真っ当なジャーナリズムは書籍とインターネット
テレビはジャーナリズム性を失っている。その結果、特に政治がらみの重要事件にメスが入らない状況が生まれている。その典型は、森友学園事件の幕引きである。既に忘却の途についている。本来は5年でも10年でも、法廷で事件の決着が着くまで報じなければならない。さもなければ、体質は改善しない。
南スーダンの問題で辞任に追い込まれそうになっていた稲田朋美大臣も息を吹き返している。
【参考記事】稲田朋美防衛相の南スーダン隠ぺい開き直り答弁に国会前で抗議デモ! 憲法を蹂躙する稲田は即刻辞任しろ!
さらに300万円の還付金詐欺疑惑がある高市早苗総務大臣に至っては、話題にもなっていない。この事件を報じたテレビは、大阪毎日報道だけである。電波を止められるのを警戒しているのではないだろうか。
【参考記事】YouTube・民進党・那谷屋議員が高市早苗総務大臣の「還付金詐欺」疑惑を追及
日本のテレビジャーナリズムはまったく機能していない。欧米と比較すると、大学生と小学生ぐらいの差がある。
故新井直之氏(創価大学教授)がメディアを読み解く鍵として、何が報道されたかよりも、何が報道されていないか、あるいは何が隠されているかを見抜くことが、メディアの体質を知るポイントになるという意味のことを述べているが、新井教授の観点からすれば、日本のテレビジャーナリズムは、世論誘導の道具でしかない。ジャーナリズムではない。
国家権力に経営上の汚点--「押し紙」問題を握られている新聞もまったく信用できない。リベラル右派の朝日新聞や東京新聞を左派のメディアと勘違いしている人が圧倒的に多いわけだから、日本のメディア状況は相当深刻だ。
真っ当なジャーナリズムは、書籍、インターネット、それに一部の雑誌である。雑誌も堕落が始まっているので、結局、これからは書籍出版とインターネットだけが信頼できるメディアになりそうだ。
【写真】大量に廃棄されていた自民党の折込広告