1. やしきさくら氏の代理人に、喜田村洋一・自由人権協会代表理事、曖昧な名誉毀損の賠償額、300万円もあれば10万円も

司法制度に関連する記事

2016年01月29日 (金曜日)

やしきさくら氏の代理人に、喜田村洋一・自由人権協会代表理事、曖昧な名誉毀損の賠償額、300万円もあれば10万円も

名誉毀損裁判で敗訴した場合の損害賠償額が、かつてに比べて高額化している。その一方で極めて低額な賠償命令も下っている。わたしの知るケースでは、前者が300万円で、後者が10万円である。

たとえば『スポーツ報知』(2015年10月28日)は、やしきたかじん氏の妻・やしきさくら氏が、たかじん氏の元弟子を提訴した裁判で、大阪地裁が300万円の支払いを命じたことを伝えている。

昨年1月に亡くなった歌手でタレントのやしきたかじんさんの妻、さくらさんが、たかじんさんの元弟子・打越元久氏(57)に名誉を傷つけられたとして、1000万円の慰謝料を求めた訴訟で大阪地裁は28日、打越氏に300万円の支払いを命じる判決を言い渡した。

 訴えによると、打越氏は昨年11月、インターネットラジオの番組に出演し、作家・百田尚樹氏(59)がたかじんさんの闘病生活を描いた「殉愛」の内容が真実ではないと指摘。遺産相続などをめぐって事実とは異なる発言をしたと主張していた。

■出展

ちなみに作家・百田尚樹氏(59)が出版した『殉愛』(幻冬舎)に対する意見や評論などに対して、出版社などが入り乱れて複数の裁判が起きている。

このうち、さくら氏は、300万円の判決が下った上記の裁判の他に、フリーランスライターを訴えている。この裁判では、喜田村洋一・自由人権協会理事が、さくら氏の代理人を務めている。

喜田村弁護士は、薬害エイズ事件で起訴された安部英氏やロス疑惑事件の三浦和義氏を断罪から救済した手腕を持つ。「押し紙」に関しては、読売には1部も存在しないと主張し、それを司法認定させた。

■「押し紙」回収の現場(隠し撮り)-画像は本文とは関係ありません。

◇著作権裁判で前代未聞の判例

しかし、わたしとの著作権裁判では、門前払いのかたちで敗訴した。この裁判では、虚偽を前提に提訴に及んでいたことが認定された。争点となった文書の作成者が、その文書の名義人本人ではく、喜田村氏であった高い可能性が認定されたのである。裁判史上でも珍しい判例だ。

わたしは同氏を懲戒請求したが、日弁連はそれを認めず、喜田村氏は現在も活動を続けている。

自由人権協会日本を代表する護憲派の人権擁護団体。サラ金の武富士の代理人を務めた弘中惇一郎弁護士ら、名誉毀損裁判にかかわっている弁護士が多い(詳細)

■(参考)著作権裁判判決(知財高裁)

さくら氏が起こした裁判で300万円の賠償が下った判例のほかにも、わたしがこのところ取材している事件で2件も300万円の賠償を命じた判例がある。法人に対する賠償であればともかくも、個人に対する賠償額としては、尋常ではない。

◇「統合失調症」という表現

その一方、メディア黒書でたびたび紹介してきた市民運動家で最高裁事務総局の不可解さを厳しく追及している志岐武彦氏が、歌手で作家の八木啓代氏を訴えた裁判では、敗訴した八木氏に対する賠償命令の額はたったの10万円だった。

■(参考)歌手で作家・八木啓代氏のツィートを裁判所はどう判断したのか、裁判所作成の評価一覧を公開

この判決で示された基準からすれば、ネット上で投稿者がある人物を統合失調症であるというまったく事実とは異なる評価をツィートしても名誉毀損とは認定されないことになる。

名誉毀損裁判では、「一般読者の普通の注意と読み方を基準として」、それが社会的地位を低下させたかどうかを判断する。おそらく裁判官は、ツィッターで相手を統合失調症と評しても、それを本気で信じ込むひとはいないと判断したのではないか。その意味では、裁判にありがちな机上の思考ではない。

◇読売が約8000万円のお金を請求

わたし自身は、2008年から2009年にかけて、読売新聞社からたて続けに3件の裁判を起こされた。請求額は約8000万円。このうち2件目の裁判は、メディア黒書の記事が名誉毀損に問われた。請求額は2230万円。読売代理人は、地裁では喜田村洋一・自由人権協会代表理事で、高裁からはTMI総合法律事務所の升本喜郎弁護士らだった。

一方、わたしの代理人は、江上武幸弁護士ら9名だった。無報酬の弁護活動だった。

結果は、さいたま地裁と東京高裁はわたしの勝訴だったが、最高裁が口頭弁論を開いて、判決を東京高裁へ差し戻した。そして東京高裁の加藤新太朗裁判長は、わたしに対して110万円の金銭支払いを命じた。後に加藤氏が、読売新聞に少なくとも2度、単独インタビューで登場していたことが判明した。

■読売に掲載された加藤裁判官の単独インタビュー

この裁判は、最高裁でわざわざ口頭弁論を開いて、読売を逆転勝訴させるほどの事件なのか、今も再考しているが、とにかくわたしが敗訴したのである。野球でいえば、甲子園の決勝で9回の裏、読売に逆転されて負けたのだ。

◇曖昧な日本の名誉毀損裁判

今、ここにあげた何件かの裁判を見る限り、わたしは日本の名誉毀損裁判の判断基準がどこにあるのか分からない。名誉毀損裁判では、「一般読者の普通の注意と読み方を基準」にすることになっているが、判決の結果はばらばらだ。一貫性がない。

たとえばツィッターやフェイスブックをやっている裁判官であれば、これらのメディアの言語は比較的自由で、相手に向かって「統失」(八木裁判)と書こうが、「人格障害」(やしきさくら氏の裁判)と書こうが、本気でそれを信じ込む人は、まず、一人もいないことを知っている。それが社会通念である。

判断基準が曖昧になっているということは、裁判官の気分ひとつで、どうにでも判決を書けることになる。このような司法運用の実態は、裁判を言論抑圧の道具に変質させる危険性を孕んでいる。

このところ日本は、言論活動を抑圧する方向へ進んでいる。そのことは、特定秘密保護法を含む、広義の戦争法案が成立した流れの中に顕著に見ることが出来るが、これに連動して名誉毀損裁判の賠償額が高額化している事実は、言論を統制しようとしている内閣の方針に、最高裁事務総局も追随していることを意味しないだろうか。「一般読者の普通の注意と読み方」という基準は極めて主観的で「凶器」に変わりやすい。危険な兆候だ。

とはいえ、日弁連はようやく、名誉毀損裁判やスラップを問題視し始めたようだ。