1. 滋賀医科大学病院の医療書類の改ざん問題、背景に大学病院の闇

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2019年01月11日 (金曜日)

滋賀医科大学病院の医療書類の改ざん問題、背景に大学病院の闇

滋賀医科大学病院で、一部の患者の同意を得ないままQOL調査(闘病生活の質に関するアンケート調査で、それにより治療の評価などを行う)が行われていたことが問題になっている。調査件数は総計で約800件。しかも、一部の回答については改ざんや、「代筆」の疑惑も浮上している。何が目的で、こうした違法な医療行為が行われたのだろうか。背景をたどっていくと大学病院の闇が見えてくる。

◆岡本医師VS河内医師

既報したように滋賀医科大学病院では、岡本圭生医師による前立腺癌の療法として小線源治療が行われてきた。これは岡本医師が開発したもので岡本メッソドと呼ばれている。5年後の再発率が5%以下の成績で、極めて高い評価を受けてきた。

ちなみに同大学では、岡本医師とは別に泌尿器科でも、河内明宏医師らにより前立腺がんの治療が行われてきた。両者の関係がどのようなものだったのかは知りようがないが、脚光を浴びる岡本医師、平均的な泌尿器科の河内医師というのが正当な評価だろう。

QOL調査はこうした状況の下で、岡本医師が知らないうちに行われたのである。QOL調査の対象になった人々は、入院時と退院時に、調査票への記入を求められた。その調査票の一部が改ざんされたり、「代筆」されていた疑惑が浮上しているのである。

が、改ざんや「代筆」の実態を紹介する前に、事件の背景に言及しておこう。

◆事件の背景

実は、事件は2015年ごろから水面下で進行していたのである。岡本医師による小線源治療は評判が評判を呼び、滋賀医科大学病院へ全国から前立腺癌の患者が受診を希望してやってきた。癌は生死の問題であるから、病院が遠方に立地していても、生存の鍵になるのあれば大きな障害ではなかった。

ところが岡本医師の治療を希望しているにもかかわらず、患者の一部が河内医師の泌尿器科へ回されていたことが、後に判明する。しかも、そのうちの23名は、泌尿器科内で小線源治療の対象になっていた。それを知った岡本医師は、泌尿器科のこの無謀な計画を中止させた。小線源治療には精巧な手技が必要で、一定のトレーニングを受けていない医師が実施するのは危険だった。

しかし、泌尿器科の計画が中止に追い込まれても、医療現場が正常化されることはなかった。

2017年の11月、病院長が12月末で小線源治療を終了することを告知したのである。この時点では、既に次年度の治療予約が入っていたので、混乱に陥った。そこで小線源治療の終了を2年間、先送りしたのである。2019年、1月の段階では終了まで1年を切っている。

◆改ざんの目的は

岡本医師が知らないうちにQOL調査が実施され、しかも、内容が改ざんされたり、「代筆」されたものが含まれている事実が発覚したのは、岡本メッソドの存続を希望して患者会を立ち上げた人々が、ずさんなQOL調査に気づき、その実態を調査した果実である。

仮に岡本メッソドと泌尿器科による治療成績の比較検討が行われる際に、QOL調査の結果が使われるとすれば、調査結果の改ざんや「代筆」は許されない。違法行為であるばかりではなく、医療をめぐる比較調査の公平性も欠くことになる。

調査の目的が治療の評価であることは、河内医師も認めている。患者会の質問に次のように述べている。

「そもそも質問票は、入院された前立腺患者さん全員の治療の客観的評価のために診療の一環として配布し、その回答をカルテに添付していたもので」

事実、前立腺がん患者全員に病院職員から質問票が手渡されていたのだ。その総計数は約800件にもなる。

◆改ざんの中身

さて、書類改ざんの中身はどのようなものだったのだろうか?
特に問題なのは、質問票に患者の名前を入れ、しかも、自筆のサインをさせていることだ。ところが退院時の質問票のサインと入院時のサインとは明らかに異なった筆跡のものがあるのだ。当然、回答をのものを何者かが代筆した疑いがあるのだ。

実際、調査項目で「あり得ない回答」になっていたと訴えている患者もいる。たとえば、「死ぬことを心配している」という項目があり、「非常によくあてはまる」に○がしてあるのだが、本人はそのように回答した覚えはない話しているという。

そもそもQOL調査では、無記名にするのがルールである。なかには削除した調査票もある。

かりに小線源治療の優位性を否定するための証拠を集めるために、QOL調査が悪用されたとすれば、岡本医師の実績を失墜させるために、データを改ざんした疑惑が生まれる。

今後、改ざん疑惑のある調査票の中身の検証が必要になる。