1. 米国の混乱で露呈したトランプ政権による内政干渉の本質と戦略、ベネズエラ、ボリビア、ニカラグアにおける「不正選挙」キャンペーン、香港の「市民運動」に対するテコ入れ

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2021年01月10日 (日曜日)

米国の混乱で露呈したトランプ政権による内政干渉の本質と戦略、ベネズエラ、ボリビア、ニカラグアにおける「不正選挙」キャンペーン、香港の「市民運動」に対するテコ入れ

トランプ大統領の支持者らが米国の議会党に乱入して、4人が死亡した。この事件は、はからずもベネズエラ、ボリビア、ニカラグア、それに中国に対するトランプ政権の敵対戦略の手口を露呈した。

その意味では、単に米国政治を考える機会というだけではなく、米国の対外戦略(策略)を考える格好の機会を与えてくれる。とりわけ日本のメディアは、ラテンアメリカの政情をほとんど報じないうえに、報じても不正確な情報しか提供しないので、トランプ政権による他国に対する内政干渉の手口を考える糸口になる。

米国の第3世界に対する戦略は、かつては海外派兵を柱としたが、現在は、他国の市民運動を資金面でテコ入れすることで、政治的な混乱を誘発し、「反米政権」の転覆を企てる戦略へ変わりつつあるのだ。現在の米国の「市民運動」をみるとそれが輪郭を現す。

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ベネズエラとボリビアでは、トランプ政権下の時代に大統領選挙が実施された。ニカラグアの場合は、トランプ政権が発足したのと同じ2017年に左派のFSLN政権(サンディニスタ民族解放戦線)の2期目に入った。(厳密に言えば、FSLNは1985年にも政権を取っている3期目)

これらの国では、大統領選の直後、あるいは大統領選から若干の期間を経た後、「不正選挙」を口実とした反政府キャンペーンが展開された。「西側メディア」が、反政府キャンペーンを大々的に報じてきた。

国会議員選挙のレベルでも、やはりメディアは「不正選挙」の反政府プロパガンダを繰り返し展開してきた。

その反政府運動を展開してきたのは、トランプ政権の支援を得た現地の市民運動体だった。たとえばニカラグアの場合、次の4団体が、ニカラグア国内の市民運動体に対して資金援助を行ってきた。

1、 N E D(全米民主主義基金)

2、アメリカ合衆国国際開発庁

3、 米国国防省

4、 その他

このうちNE D(全米民主主義基金)は、「各国の民主化を支援する非営利団体だが、予算の大半は米政府が拠出している。人権問題が米中間の大きな懸案となるなか、中国政府はNEDを米政府の先兵とみなす」(朝日新聞)団体である。

2019年のボリビア大統領選の後には、反政府派の市民運動が「不正選挙」を口実として、クーデターを起こした。モラレル大統領は海外へ亡命を余儀なくされた。しかし、「西側メディア」はモラレス大統領が不正選挙の批判をあびて、身の安全のための亡命したと報じたのである。

この反政府キャンペーンには、米州機構が関与していたことも明らかになっている。(ボリビアでは昨年、再選挙が行われ、モラレス派が圧勝した。)

ちなみにNED(全米民主主義基金)は、香港の市民運動に対しても資金援助を行ってきた。チベット問題にも介入している。

が、日本を含む「西側メディア」は、世界各地で混乱を引き起こしてきた市民運動を、正当な運動として報じてきたのである。現在の米国の混乱については、トランプ派を批判するスタンスを取っているが、ベネズエラ、ボリビア、ニカラグア、香港については、混乱を起こしてきたグループを擁護する報道を延々と続けてきたのである。

◆◆◆

「西側メディア」は、トランプ政権による他国に対する内政干渉については報じていない。

新聞研究者の故・新井直之氏は、『ジャーナリズム』(東洋経済新報社)の中で、次のような提言をしている。

「新聞社や放送局の性格を見て行くためには、ある事実をどのように報道しているか、を見るとともに、どのようなニュースについて伝えていないか、を見ることが重要になってくる。ジャーナリズムを批評するときに欠くことができない視点は、『どのような記事を載せているか』ではなく、『どのような記事を載せていないか』なのである」

仮に香港の市民運動で死者が4人も発生すれば、「西側メディア」は、大々的な報道を展開するだろう。反中国の世論を形成する格好の機会になるからだ。中国政府にも責任があるというスタンスを取るにしても、米国から支援された香港の市民運動の本質については客観的に伝えるべきだろう。民族自決主義の尊重という観点からすれば、問題がある。

現在の米国の混乱を検証すると、トランプ政権の内政干渉を柱とした戦略の手口が見えてくる。

幸いに米国での「不正選挙騒動」のデタラメが露呈したために、メディアによる反共プロパガンダは鳴りをひそめている。ただし、次のような例外はあるが。

■(毎日新聞) ベネズエラの野党指導者グアイド氏が単独会見 国会議員選「完全な不正」 「マドゥロ政権、独裁にコロナ利用」