1. 関西大学・宇城輝人教授は「押し紙」問題を知っていたのだろうか? 「保守速報」の「NO残紙キャンペーン」のバナーの剥がし事件

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2018年06月20日 (水曜日)

関西大学・宇城輝人教授は「押し紙」問題を知っていたのだろうか? 「保守速報」の「NO残紙キャンペーン」のバナーの剥がし事件

メディア黒書(18日付け)で取りあげた記事、「関西大学の宇城輝人教授らが、黒薮に対して『保守速報』が張った『NO残紙キャンペーン』のバナー撤去を要求」 を巡り、ネット上でいわゆる「炎上」が起きている。「保守速報」が、自社のウエブサイトに同記事を転載したところコメントが2500件(20日7時の時点)を超えた。

ひとつのメディア企業を外圧で経済的に破産させようとした事件に対する関心の高さを示している。

ところで関西大学・宇城輝人教授による「広告(実際は、『NO残紙キャンペーン』のバナー)」剥がし事件は、メディアを媒体として自らの「学問」の成果を世に問うはずの研究者が、特定のメディア企業を破綻させることを目的とした行為に及んだという側面のほか、「押し紙」を排除する運動に対する挑発行為を行ったという側面も持っている。

宇城氏が、「押し紙」という社会問題の実態を知っていたかどうかは不明だ。おそらく知らなかったのではないかと思う。しかし、たとえ知らなかったとしても、狙いを定めたバナーが、どのような目的で張られていたのかを確認すべきだったのではないか。

「保守速報」を破綻させること以外に頭が働かず、その結果、『NO残紙キャンペーン』の中味を確かめないまま、攻撃してきた可能性が高い。「保守速報」に「広告」を張ってる団体は、自分の敵にほかならないという単純な発想しかないのではないか。それが今回の軽率きわまりない行為に及んだ可能性が高い。

◇「押し紙」のシュミレーション

ちなみに「押し紙」とは、簡潔に定義すれば、新聞社が販売店に搬入する新聞のうち、過剰になっている部数のことである。当然、配達されることなく、回収される。しかし、卸代金だけは徴収する。つまり販売店は、販売できる見込みがない新聞を強制的に買い取らされているのだ。

「押し紙」の実態は凄まじく、たとえば2002年10月の段階で、毎日新聞の場合、搬入される新聞の約36%が「押し紙」になっていたことが、外部へ流出した内部資料で判明している。

毎日新聞社が「押し紙」でいかに不正な利益を上げてきたか、以下、この資料を使ってシュミレーションしてみよう。

◇「朝刊 発証数の推移」

この資料によると2002年10月の段階で、新聞販売店に搬入される毎日新聞の部数は約395万部である。これに対して発証数(読者に対して発行される領収書の数)は、259万部である。差異の144万部が「押し紙」である。

当然、シミュレーションは、2002年10月の段階におけるものだ。

■裏付け資料「朝刊 発証数の推移」

かりにこの144万部の「押し紙」が排除されたら毎日新聞は、どの程度の減収になるのだろうか。シミュレーションは次の通りである。大変な数字になる。

◇シミュレーションの根拠

事前に明確にしておかなければならない条件は、「押し紙」144万部の内訳である。つまり144万部のうち何部が「朝・夕セット版」で、何部が「朝刊だけ」なのかを把握する必要がある。と、いうのも両者の購読料が異なっているからだ。

残念ながら「朝刊 発証数の推移」に示されたデータには、「朝・夕セット版」と「朝刊だけ」の区別がない。常識的に考えれば、少なくとも7割ぐらいは「朝・夕セット版」と推測できるが、この点についても誇張を避けるために、144万部がすべて「朝刊だけ」という前提で計算する。より安い価格をシミュレーションの数字として採用する。

「朝刊だけ」の購読料は、ひと月3007円である。その50%にあたる1503円が原価という前提にするが、便宜上、端数にして1500円の卸代金を、144万部の「押し紙」に対して徴収した場合の収入は、次のような式で計算できる。

1500円×144万部=21億6000万円(月額)

最小限に見積もっても、毎日新聞社全体で「押し紙」から月に21億6000万円の収益が上がっている計算だ。これが1年になれば、1ヶ月分の収益の12倍であるから、

21億6000万円×12ヶ月=259億2000万円

と、なる。

ただ、本当にすべての「押し紙」について、集金が完了しているのかどうかは分からない。担当者の裁量で、ある程度の免除がなされている可能性もある。しかし、「押し紙」を媒体として、巨額の資金が販売店から新聞社へ動くシステムが構築されているという点において、大きな誤りはないだろう。同時に「押し紙」によって、販売店がいかに大きな負担を強いられているかも推測できる。

新聞は、一部の単価が100円から150円ぐらいだから、だれても手軽に購入できる商品である。そのためなのか、ややもすれば新聞社の儲けは少ないように錯覚しがちだが、販売網を通じて安価な商品を大量に売りさばく仕組みになっているので意外に収益は大きい。

16年前のデータであるから、現在の「押し紙」率は、50%を超えている可能性が高い。

◇「押し紙」の国会質問

このように「押し紙」問題は、日本のメディアの信用にかかわる大問題なのだ。当然、新聞社としてはふれてほしくない。「押し紙」など存在しないという嘘をベースとした世論を形成したい。そのために筆者も含めて、「押し紙」を告発する人々を裁判にかけたり、嫌がらせの電話を繰り返すなどしてきたのである。

そして今回、関西大学の社会学者が、おそらく何も知らずに、『NO残紙キャンペーン』のバナーを剥がせと求めてきたのである。

なお、「押し紙」は、自民党も問題にしており、6月14日の内閣委員会で、和田政宗議員が「押し紙」問題を取りあげている。

【参考記事】元NHK・自民党の和田政宗議員が「押し紙」問題で公取委を追及、14日の内閣委員会 

【動画】押し紙」の回収風景