1. 博報堂事件、アスカがまったく気づかなかった2つの不正、視聴率の改ざんと放送確認書の偽造

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2016年08月29日 (月曜日)

博報堂事件、アスカがまったく気づかなかった2つの不正、視聴率の改ざんと放送確認書の偽造

化粧品の通販業を営むアスカコーポレーション(本社・福岡市)が、博報堂に対して総額で約60億円の返還を請求する2件の裁判を提起したのを受けて、アスカの南部昭行社長は、ウエブサイト「ビジネスジャーナル」のインタビューで次のように、提訴に至る事情を説明している。

きっかけは、博報堂が昨年10月、当社に対して6億1000万円の未払い請求を行ってきたことです。私自身は争い事を好みません。昨年の段階で丸く収めることを考え、博報堂さんと問題を解決しようと譲歩してきました。

ところがなんの音沙汰もなく、いきなり差し押さえを請求をしてきたのです。ものごとにはルールがある。「それならこちらにも言い分がある。受けて立ちましょう」ということになったのです。過去の請求でおかしな点が多々ありました。それを黙って不問にしてきた部分もあります。

そこで、実際に博報堂との取引がどのようなものだったのか、さかのぼって徹底的に調べることにしたのです。調査が進んでいくなかで、次々に驚愕の事実が明らかになってきました。

過去の不正とは、ホームページ関連の過剰請求である。その他の点については、気づかなかったことをアスカ側も認めている。係争になってから過去の取り引きを精査した結果、はじめて数々の不正が明らかになったのである。

■事件全体の構図

その中でも、とりわけ重大な不正が2点ある。

◇確証に近い放送確認書の偽造疑惑

まず第1は、CMや通販番組の番組提案書に記入されていた番組枠の視聴率が改ざんされていたことだ。番組提案書で提示される視聴率は、ビデオリサーチ社のものを使うのだが、当時のテレビ・広告業界の慣例だったのだが、博報堂はデータを改ざんして提示していたのだ。

もちろんすべての番組枠を改ざんしたというわけではないが、大半の番組提案書には、改ざんされたデータが記入された番組枠が何カ所かあった。

■視聴率改ざんの実態一覧(エクセル)

さらにもうひとつ完全に盲点になっていた第2の不正がある。それは放送確認書そのものが偽造されていた極めて高い可能性である。

◇10桁CMコードは万能か?

放送確認書の偽造疑惑については、メディア黒書でも繰り返し説明してきたが、極めて重要な問題なので、再度、説明しておこう。

まず、偽造疑惑のある放送確認書を示そう。赤の①~④は、便宜上、筆者が付番したものである。

「②」:住所を誤っている。この放送局の正しい住所は、「港区西新橋2-7-4」であるが、「西新橋」が欠落し、「港区2-7-4」と記している。もし、放送確認書をCJE&MJapanが作成したのであれば、住所を間違うはずがない。

「①④」:放送確認書の発行日は、2014年5月29日(①)になっている。
ところが「④」に表示されているCMの放送歴は、5月30日と5月31日になっている。これも「偽造」の過程で発生した「ミス」の可能性が高い。

「③」:放送確認書の書式としては、あり得ない書式が使われていることだ。放送確認書上にウィンドウズ貼付画面が確認できる。ウィンドウズ画面の右上には、常に、「-」「□」「×」のマークが表示されるが、上記の放送確認書にも、それが確認できる。

「※」: さらに10桁CMコードがどこにも確認できない。

以上の4点が、この放送確認書が偽造である強い疑いがかかっているゆえんである。

この問題で筆者は、CJE&MJapan株式会社に質問状を送ったが期限までに回答はなかった。

CJE&MJapanに質問状

博報堂も取材を拒否している。従って、これら2社に放送確認書の偽造疑惑がかかっているのだ。

放送確認書の偽造。これまでの常識ではありえないことだが、上記のCJE&MJapanの放送確認書を精査する限り、偽造物としか考えられない。

つまり、放送確認書の偽造により、CM「間引き」をやっていた疑惑が浮上したのだ。

周知のように、1990年代の後半に静岡第一テレビなどでCM「間引き」が発覚して、大問題になったのを受け、民放連や広告主協などは、本格的な対策に乗り出した。そして導入されたのが、CMに10桁CMコードを付番して、コンピュータによってCM「間引き」を監視するシステムである。

これによりCM「間引き」は不可能になったと言われている。実際、筆者がテレビや広告の関係者を取材した限りでは、「現在は間引きはありえない」というのが共通した答えだった。

しかし、別の手口があったのだ。つまり放送確認書そのものの偽造が行われていたのだ。と、なれば当然、CJE&MJapanの名前で発行されている放送確認書だけではなく、他の放送局の放送確認書も精査する必要がある。

さらに10桁CMコードのシステムに、本当に盲点がないかどうかも調査する必要がある。ITが目まぐるしく発展しているとき、15年前に開発されたシステムが、本当にCM「間引き」を防止する役割を果たしているのか、再検証が必要なのである。

テレビ業界は、業績をV字回復させたが、その背景に新型のCM「間引き」がまん延していないか、再検証する必要があるだろう。

放送内容により総務省が電波を止めるのは完全な誤りだが、経営上の詐欺行為のよる停波は当然である。両者を区別して考えるべきだろう。