1. 米ニーヨーク州議会による従軍慰安婦に関する決議、日本の主要メディアは報じず、安倍内閣への配慮か?

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2013年02月01日 (金曜日)

米ニーヨーク州議会による従軍慰安婦に関する決議、日本の主要メディアは報じず、安倍内閣への配慮か?

31日付けの「しんぶん赤旗」(電子版)が、ニューヨーク州議会の上院が29日、旧日本軍による従軍慰安婦問題を記憶にとどめるとする決議を全会一致で採択したニュースを報じている。おりしも日本の国会では、安倍首相が衆院本会議で平沼赳夫議員(日本維新の会)の質問に答弁するかたちで、憲法改正にふれ、「党派ごとに異なる 意見があるため、まずは多くの党派が主張している96条の改正に取り組む」と述べた。

第九十六条 この憲法の改正は、各議院の総議員の三分の二以上の賛成で、国会が、これを発議し、国民に提案してその承認を経なければならない。この承認には、特別の国民投票又は国会の定める選挙の際行はれる投票において、その過半数の賛成を必要とする。

 憲法改正について前項の承認を経たときは、天皇は、国民の名で、この憲法と一体を成すものとして、直ちにこれを公布する。

憲法96条は、憲法改正のための「手続き法」である。 憲法改正の発議には、議員総数の三分の二を超える賛成を必要とするが、それを緩和して一気に9条の改正に突き進もうという意図らしい。

国会での答弁に先だって安倍首相は、1993年の河野洋平官房長官談話を見直すことを明言している。河野談話とは、当時の河野官房長官が、従軍慰安婦の客観的な存在を認めた談話である。

日本のメディアは、ニューヨーク州議会による決議に関するニュースと安倍首相が改憲に言及したニュースをどのように報じているのだろうか。

◆検証点は、『どのような記事を載せていないか』  

結論を先に言えば、ニューヨーク州議会による決議のニュースは、The Japan Timesを除いて一切報じられなかった。わたしがネットで調べた限り、一般紙はこのニュースを完全に無視した。一方、安倍首相が国会で改憲に言及したニュースは、大半のメディアが報じている。

これら2つのニュースが表裏関係にあることは言うまでもない。もともと慰安婦の問題は、1990年代に入るころから、日本の財界が要望し始めた海外派兵の動きに警戒を催したアジア諸国が、旧日本軍による戦争犯罪を再認識することから、浮上してきた。その後、憲法改正の動きが活発化して、日本に対する警戒感が募っていく。そしてとうとう米国の州議会で旧日本軍の慰安婦問題を記憶に留める決議が採択されたのである。

こうした情勢を踏まえると、ニューヨーク州議会による決議は、安倍内閣が押し進めようとしている軍事大国化に対する警告とも受け取れる。

ところがこのニュースに限って日本のメディアは無視した。

故新井直之氏(元創価大学教授)は、自署の中で「ジャーナリズムを批判するときに欠くことができない視点は、『どのような記事を載せているか』ではなく、『どのような記事を載せていないか』なのである。」と述べている。

多くの人々は、メディアは公平中立なものと考えている。が、それは幻想である。特に日本の新聞社は再販問題や消費性の軽減税率の問題で、政府に弱みを握られているので、政府に不都合なニュースは報じない。報じれば経営の屋台骨が崩壊しかねない。再販問題も消費税の軽減税率問題も、政府のさじ加減でどうにでもなる。

かりにニューヨーク州議会による決議のニュースを朝日、読売、NHKが報じていたら、安倍首相が目論んでいる改憲への道は、早々にとん挫するだろう。

ちなみに「しんぶん赤旗」は、共産党の機関紙であるが、ニューヨーク州議会による決議のニュースなどは、イデオロギーとは何の関係もない。ジャーナリズムが当然報じるべきニュースにほかならない。