【連載】新聞の偽装部数 新聞社と店主の合意があれば偽装部数は権利の濫用にならないという法解釈
偽装部数の程度は販売店によって千差万別で一概にはいえない。極端なケースでは、毎日新聞・蛍池販売所のように、7割を超えていた例もある。また、時代によっても偽装部数の規模は異なる。
従って偽装部数の全体像を把握する作業は後日とし、ここでは、具体的な例をひとつ取り上げると同時に、偽装部数で販売店が被る損害の相殺方法を説明する。
塩川茂生氏は1998年にYC小笹(読売・福岡市)の店主になった。2003年に廃業。その後、2006年に読売新聞社を相手に偽装部数による損害賠償裁判を起した。
結論を先に言えば、裁判は塩川氏の敗訴だった。裁判所は偽装部数の中身を「積み紙」と判断したのである。この裁判で特に問題になったのは、開業から半年の間に発生した偽装部数だった。裁判記録によると、朝刊の搬入部数と偽装部数(あるいは広義の「押し紙」)の数値は次のとおりだった。
????????? 搬入部数 偽装部数
98年5月 2330 ? 946
98年6月 2330 946
?98年7月 2330 946
?98年8月 2330 1027
?98年9月 2330 1025
?98年10月 2330 1023
?98年11月 2330 1015
?98年12月 1530??????? 213
5月から11月までは、4割程度が偽装部数だった。 ? このような実態について、読売弁護団は第1準備書面で次のように弁解している。なお、下記にある「必要最小限度を超えた部数の予備紙」とは、過剰になっていた部数を意味する。
前項で述べたとおり、本件において、原告によるYC小笹店に営業承継後、約6カ月に渡って必要最小限度を超えた部数の予備紙が提供されていた事については、原告と被告との間の合意に基づくものであり、そこには強要なり権利の濫用という要素はない。
販売店と新聞社が合意していれば、部数を水増ししても、権利の濫用にはならないと、主張しているのだ。塩川氏は合意していないと主張したが、たとえ合意していたとしても、まったく別の問題が生じる。
念を押すまでもなく、それは偽装部数がABC部数をかさ上げし、広告料金を引き上げるメカニズムである。店主と新聞社がお互いに合意して、部数を水増しする状態が日常化すれば、広告主は多大な損害を受ける。
塩川氏が4割もの偽装部数を背負っても、販売店の経営を続けることができたのは、ひとつには、読売から補助金を受けていたからである。補助金を受けて、それを偽装部数の買い取り代金に充当すれば、経営は破綻しない。