1. 消費税の軽減税率適用問題と日本の新聞社の弱点、メディアコントロールに悪用される新聞社経営の闇

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2015年10月05日 (月曜日)

消費税の軽減税率適用問題と日本の新聞社の弱点、メディアコントロールに悪用される新聞社経営の闇

政府にとって世論誘導に最も有効な手段はメディアの利用である。とりわけ中立のイメージがある巨大メディアに政府広報の役割を代行させることが出来れば、自在に世論をあやつることができる。

日本の中央紙(朝日、読売、毎日、日経、産経)の発行部数は、約2350万部。地方紙・ブロック紙は、全部で約1550万部である。日本の新聞発行部数は総計で約3900万部ということになる。

新聞発行部数の3分の1が偽装部数(「押し紙」)としても、新聞の影響力ははかり知れない。しかも、ほとんどの新聞社には、その配下に系列のテレビ局があるわけだから、政府にとっては、新聞社をいかにコントロールするかが、日本の世論を誘導するための鍵となる。安倍首相が、読売の渡辺恒雄会長と会食を繰り返しているゆえんである。

政権党とジャーナリズムが癒着するという異常な状況が生まれているのだ。

◇新聞業界の焦り

消費税の軽減税率の問題で、日本新聞協会が9月17日に声明を出した。その中で同協会は、現行の8%に上乗せする2%分の消費税について、マイナンバーを使って登録される買い物記録から、軽減税率が適用される商品を割り出し、事後還付する案を次のように批判している。

子供や高齢者も含めてマイナンバーの携帯を求められることに加え、パソコンなどIT端末に習熟していないければ税の還付を受けられない。このため特に高齢者は利用しにくく、現在の高齢化社会にまったくそぐわない制度といわざるを得ない。

新聞に対する軽減税率が適用されるか否かは不明だが、たとえ適用されても、事後還付方式が採用された場合、新聞業界への打撃は大きい。というのも、まず、第一に消費税の税率アップを機に新聞の定期購読を中止する人が増える可能性が高いからだ。

第2に新聞の読者が高齢者層に限定される傾向が顕著になる中で、ITとは疎遠なために、還付の手続きができず、この制度から除外される層が相当の割合で生じる恐れがあるからだ。

ちなみに消費税の税率があがることで、新聞販売店の税負担も増えるわけだが、特に問題なのは、読者がいない「押し紙」に対しても消費税がかかるために、その負担が想像以上に大きくなることだ。

◇「押し紙」問題も背景に

この問題については、河内孝氏が『新聞社』(新潮新書)の中で試みた有名な試算がある。この試算は、消費税が5%から8%に変更になる前の時期に行われたもので、それによると、2%のアップにより、読売は約109億円の負担増になる。さらに朝日は、約90億円、毎日は42億円、日経は39億円、産経は22億円の負担増となる。

つまり新聞業界にとって消費税率のアップは2重の死活問題にほかならない。

こうした状況を政府が逆手にとれば、新聞社を自在にコントロールして、新聞を世論誘導の道具に変質させることができる。特定秘密保護法や安保関連法案が、消費税問題と連動して持ち出されてきた背景にほかならない。徹底した反政府的報道を展開すれば、新聞社にとっては致命的となる新税制が導入されるリスクが高まる。新聞人たちは、それを知っているから、怖気づいて徹底した安倍批判を展開しないのだ。

とはいえ、たとえば政府が安保関連法案に反対の論調を張った新聞を公然と弾圧することはない。公然と弾圧すれば、日本人は「ガス抜き」の場を失い、かえって政府に対する不信感が高まるからだ。安保関連法制には反対しても、新自由主義=構造改革の導入に関しては、政府を応援するというようなスタンスになってしまう。

「ガス抜き」の役割を担う朝日新聞などリベラル右派のメディアは温存する必要があるのだ。安倍内閣にはいろいろな問題点はあるが、相対的にみれば、やはりそれほど悪くはないという世論を形成できれば、その方が世論誘導の道具としては有効なのだ