2016年11月22日 (火曜日)
NTTドコモ、高齢の弱者に配慮せずに基地局を稼働、東京都板橋区小豆沢の携帯基地局問題
東京都板橋区の小豆沢で起きているNTTドコモの携帯電話の基地局設置をめぐるトラブルは、住民たちの撤去要求にもかかわらず、すでに稼働しているようだ。住民側がNTTドコモに基地局の稼働を確認したという。
今後、訴訟が起こされる可能性もある。
既報したように、基地局の設置に最も強く反対しているのは、基地局が設置されたビルの直近にある高齢者マンションの住民らである。このマンションは板橋区の福祉施設で、住民の大半は経済的にはあまり恵まれない人々である。
マイクロ波を遮るシールドクロスを購入しようにも、その資金がない。
今後、1日24時間、人生の幕を閉じる日まで、基地局直近からマイクロ波に被曝することになる。
反対運動を進めようにも、高齢による体力の衰えが大きな障害になっている。つまりNTTドコモの強引なやりかたに対して、正面から対峙できない弱者なのだ。働きざかりの人々が反対運動を展開するのとは状況が異なる。
たしかに、この地域には携帯電話が通じにくい場所があり、そこの住む住民の一部は、基地局の稼働を歓迎しているという複雑な事情もある。
だからと言って人命にかかわるリスクがある携帯電話・基地局を、十分な話し合いを経ることなしに、一方的に稼働させてもいいという論理にはならない。これではエコノミック・アニマルである。近くには、高齢者住宅だけではなく、児童施設もあり、基地局の稼働により、不特定多数の人々がマイクロ波を被曝することになるからだ。
その影響が、10年後、あるいは20年後にどう浮上するのか、誰も分からない。影響が表れても、マイクロ波との因果関係を立証できるとは限らない。
◇東京でも裁判の提訴を
わたしが携帯基地局の取材をはじめたのは、2005年だった。そのころ埼玉県朝霞市にあるわたしの自宅マンションの屋上に、NTTドコモとKDDIが基地局を設置する計画が浮上した。わたしは最上階に住んでいるので、自分の頭上に天井を隔てて、基地局が設置される計画が提示されたのだ。
この計画は、住民の反対で中止になったが、NTTドコモは、その後、近くにある埼玉土建労働組合のビルに基地局を設置した。埼玉土建は、アスベスト問題に取り組んでいて、公害には理解があるのかと思ったが、電磁波問題にはまったくの無知だった。
当時、基地局の撤去を求める裁判は、九州を中心に多発していた。九州は水俣病など、深刻な公害を経験しており、公害の恐ろしさ、生命の尊さを知り尽くした弁護士がいたからだ。彼らが「予防原則」に基づいた運動の先頭に立ったのである。
実際、最初の3件の裁判も水俣病の発生地、熊本県で起こされた。
わたしが基地局問題の取材をはじめたころは、国会議員の間にも、電磁波問題を取り上げる議員が複数いた。たとえば共産党の紙智子議員は、そのひとりである。ところがその後、紙氏は電磁波問題には一切タッチしなくなった。彼女のウエブサイトから、電磁波についての記述が消えた。
そして同じく共産党の吉良よし子議員が、2014年4月、携帯電話の不通話地区を解消するために、基地局設置に国から補助金を支出することを求める国会質問を行ったのである。
なぜ、共産党が電磁波問題に対する見解を一変させたのかは不明だが、おそらく基地局設置に反対すると、若い世代の票が獲得できなくなるからだ。日本の議員は、実はこの程度なのだ。共産党がおおむね素晴らしい政策を持ちながら、創立から90年を過ぎても、政権が取れないゆえんではないだろうか。
国会で電磁波問題が取り上げられなくなったことで、電話会社の態度はどんどん横暴になっていく。住民パワーがあれば、自ら身を引くようになった一方、相手がパワーのない弱者だと判断すると、実に強引に基地局を稼働させる。
わたしは今後、住民が訴訟を起こすことで注意を喚起し、電磁波問題を国民に知らせていくことも大切ではないかと思う。
泣き寝入りはいけない。原告募集には協力したい。
◇携帯電話のマイクロ波とガンの関係
携帯電話の通信に使われるマイクロ波が人体に及ぼす影響は、研究が進むにつれて徐々に明らかになってきた。
つい最近も米国政府が取り組んでいるNTP(National Toxicology Program、毒物研究事業)で、携帯電話のマイクロ波にラットを被曝させたところ、オスのみに腫瘍が発生することが判明した。
■携帯電話のマイクロ波とラットの発癌に正の相関が見つかる、米国政府のNTPが実験結果を公表
2011年5月には、WHOの外郭団体である世界ガン研究機構がマイクロ波に発ガン性の可能性があることを認定した。
マイクロ波を含む電磁波による人体影響が問題になりはじめたのは、1980年代に入ってからである。小児白血病と低周波電磁波の因果関係が、疫学的に立証されたのを皮切りに、調査や研究が進んで、現在ではガンマ線やX線はいうまでもなく、全ての電磁波(広義の放射線)が人体に悪影響を及ぼすとする説が有力になっている。
◇電磁波とはなにか?
そもそも電磁波とは何だろうか。最低限必要な範囲で、電磁波の正体を説明しておこう。
電磁波の「電」とは電気のことである。その電気が空間に放たれたものが電波である。しかし、電気や電波には、その影響が及ぶ領域がある。炎に手を近づけていくと、熱を感じる領域があるように、電気や電波にも、影響が及ぶ範囲がある。この領域を「電場」という。
電波は、われわれの生活に利便性をもたらした。携帯電話やスマホはその典型と言えよう。通信の革命と言っても過言ではない。が、その背景にある負の側面、あるいは「闇」の部分は、マスコミによってすっかり隠されている。
マスコミの大口広告主である電気・通信業界の権益がからんでいるからである。
電波による交信で絶対に欠くことができないものがある。それはアンテナである。電波はアンテナから発せられ、アンテナで受け止められる。それゆえに携帯電話の普及には、携帯基地局の設置が絶対的に必要になるのだが、この基地局が住民と電話会社のトラブルのもとになっているのだ。
次に電磁波の「磁」について考えてみよう。「磁」は何を意味するのだろうか。「磁」とは磁気、あるいは磁場を意味する。磁石が鉄を引き寄せることは周知であるが、その際に働く吸引力が「磁気」で、磁気が及ぶ範囲のことを「磁場」という。
電流が流れると、その周りには「電(場)」と「磁(場)」が発生する。電磁波とは、電気によって生じる「電場」と「磁場」を伴った波のことである。電波の形状と性質をより厳密に描写した言葉ということになる。
ちなみに単純に電磁波=電波と理解しても許容範囲である。枝葉末節にこだわりすぎて、物事を複雑に解釈すると、かえって電磁波問題を理解する妨げになりかねない。
電磁波問題とは、人体が電磁波(電波)を被曝し続けたときに生じる被害を公害の観点から指摘することである。広義に捉えれば、電磁波による人体影響だけではなく、生態系への影響も電磁波問題の範疇に入る。
電磁波問題の検証作業には1年、2年、あるいは5年、20年という長い歳月を要する。短期間の電磁波被曝では影響が現れなくても、長期にわたる被曝により影響が現れる場合もあるからだ。携帯電話の普及が始まったのち、長い歳月を経て、ようやく基地局の危険性が指摘されるようになったのも、安全性の検証には、長期の被曝による人体影響を調べる必要があったからである。
電磁波はエネルギーが低いものでは、家電機器などから漏れる「低周波電磁波」がある。また高いものでは、レントゲンのエックス線や原発のガンマ線など、さまざまな種類がある。従来は、ガンマ線やエックス線などエネルギーが高いものについては、遺伝子に対する毒性があると考えられてきたが、既に述べたように、最近では全ての電磁波に毒性があるという見解が主流になってきた。
このあたりの事情について、電磁波研究の第一人者である荻野晃也氏は、『携帯電話基地局の真実』の中で次のように述べている。
これらの電磁波のうちで、原爆の被爆者・被曝者などの研究から、「電離放射線(黒薮注:電離放射線とは、ガンマ線やX線を指す。詳しくは後述する。)が特に発癌の危険性が高い」と思われてきたのです。ところが、最近の研究の進展で「電磁波全体が危険な可能性」があり、「共通した遺伝的毒性を示す」と考えられるようになってきたのが、現在の「電磁波問題」の本質だといってよいでしょう。
また、北里大学の名誉教授・宮田幹夫氏らがまとめた『生体と電磁波』にも、次のような記述がある。
エックス線もガンマ線も電磁波である。人工の電磁波に比べてエネルギーが非常に大きいため、物質への浸透性が強く、生体へのダメージも非常に大きい。しかし、極低周波から超高周波まで、人工電磁波も生体へのダメージは大きく、身近にある場合は障害を生じる。放射線と電磁波はメカニズムが異なるが、同じように体内にフリーラジカルを生産し、DNAを破損してがんの原因を作る点では、同じような環境汚染源としてみることができる。
広島と長崎に投下された原爆の影響で、癌や白血病が増えたこともあって、かねてからガンマ線と癌の関係は定説となってきたが、実はマイクロ波など他の種類の電磁波でも、遺伝子に対する見解が変化してきたのである。
◇電磁波の分類
既に述べたように電磁波には、ガンマ線、X線、マイクロ波など様々な種類があるが、これらは何を基準に分類されているのだろうか。結論を先に言えば、それは電波の波打ちの頻度である。1秒間に打つ波の頻度、つまり周波数の違いにより、電磁波は分類され、ヘルツという単位で分類される。
波打ちの頻度が多ければ多いほど、周波数が高いことになる。少なければ少ないほど周波数が低いことになる。
たとえば電力会社が供給する電気の周波数は、東日本で50ヘルツ(一秒に50回)、西日本では60ヘルツ(一秒に60回)である。一方、携帯電話(第3世代)の周波数は、2000MHz(メガヘルツ)である。これは一秒間に20億回の波打ちが発生することを意味している。この領域の電磁波は、マイクロ波という呼び方で分類されている。
さらにガンマ線の周波数は、「10の19乗」から「23乗ヘルツ」にもなる。
従来から、ガンマ線やX線など極めて周波数の高い電磁波は、電離放射線と呼ばれている。「エネルギーが高く、分子や原子を構成する電子を『バラバラに離してしまう(「電離」といいます)』」(荻野晃也著、『携帯電話基地局の真実』)電離作用を伴うからだ。それが遺伝子を傷つけたりする。
これに対して、赤外線、マイクロ波、低周波電磁波など、ガンマ線やX線に比べるとはるかにエネルギーが低い電磁波は、電離作用を伴わないので非電離放射線と呼ばれる。
現在、電離放射線に遺伝子に対する毒性があることを否定する研究者はいない。それはすでに定説となっている。
これに対してマイクロ波など非電離放射線の毒性については論争がある。既に述べたように、すべての種類の電磁波が人体に悪影響を及ぼすという考えが有力になってきたものの、現在の時点では論争に決着が着いているわけではない。
従って「予防原則」に基づいて、危険性を想定した対策を取っておかなければ、後に、取り返しがつかない悲劇を生む可能性がある。
次に示すのが電磁波の分類図である。
携帯電話に使われているのは、マイクロ波と呼ばれる領域の電磁波である。たとえば広く普及している第3世代携帯電話の周波数は、2000メガヘルツである。これは1秒間に20億回の周波が観測されることを意味する。電子レンジは、約25億回。とてつもない波の動きが熱エネルギーを発生させる。
こうした高周波の電磁波を携帯電話の受話器から直接に、あるいは携帯基地局の周辺で長期に渡って浴び続けたとき、人体影響が生じるリスクがないのかを考えるのが、俗にいう携帯電話の電磁波問題である。従って、パナウエーブ(白装束集団)の考えとはまったく性格が異なる科学である。
当然、長期にわたる科学的な観測が不可欠になる。たとえば10歳でスマホを使い始めた子供が、30歳になったとき、あるいは40歳に、さらには老齢に達したとき、電磁波被曝による負の影響を受けていないか、というような長期の問題なのだ。
◇安全基準
長期にわたる被曝を前提としているのか、電磁波問題に敏感な欧米では、地方自治体が独自に電磁波強度の基準を設定している。そのうちのいくつかを、日本の総務省が定めている基準値と比較してみよう。対象は1800メガヘルツの基地局である。
日本:1000μW/cm2
イタリア:10μW/cm2
スイス:6.6μW/cm2
EU:0.1μW/cm2(提言値)
ザルツブルグ市:0.0001 μW/cm2(室内目標値)
この数値を見ただけで、総務省がいかに電話会社のビジネスに貢献しているかが明らかになる。数値の大きな差異から異常な実態と言っても過言ではない。ちなみにザルツブルグ市の値でも、通信は可能だ。
◇携帯電話基地局の周辺で奇形
携帯電話の基地局が設置された後、直近の場所に次々と奇形植物が出現したという報告が複数ある。
そのうち筆者が直接取材した長野県木曽町で撮影した写真(奇形のヒマワリ=地元住民が撮影。奇形のナスビ=黒薮が撮影)ものを紹介しよう。
電柱の上に基地局を設置した後、設置場所の畑や近くの民家の庭で奇形植物が表れた。同じ現象が毎年続き、基地局が撤去された後、出現しなくなったので、原因が基地局のマイクロ波だった可能性が高い。
【参考資料】