2016年06月02日 (木曜日)
携帯電話のマイクロ波とラットの発癌に正の相関が見つかる、米国政府のNTPが実験結果を公表
携帯電話に使われる電磁波のリスクに警鐘を鳴らす情報が米国から飛び込んできた。米国政府が取り組んでいるNTP(National Toxicology Program、毒物研究事業)で、携帯電話などが発している電磁波にラットを被曝させたところ、オスのみに腫瘍が発生することが判明したのだ。
日本語のサマリーは、次のように実験結果を報告している。
この2年間の研究は、何千匹ものラットに2年間毎日、一定量の電磁波を照射した。電磁波をまったく当てないコントロールグループも、同期間養育した。被曝したラットの2ないし3%が脳に神経膠腫を生じ、1ないし6%が心臓に神経鞘腫を発現した。
携帯電話に使われる電磁波とは、マイクロ波のことである。今回、マイクロ波と発ガンの関係をNTPが指摘したわけだが、実は、今から5年前の2011年にWHOの外郭団体である世界ガン研究機関が、すでにマイクロ波に発ガン性がある可能性を認定している。
さらにドイツやイスラエル、それにブラジルなどで行われた疫学調査でも、両者の因果関係は随分まえから明らかになっていた。これに関しては、2014年9月8日付けのメディア黒書で紹介している。次の記事である。
■携帯基地局から200メートル以内、発癌リスクが極めて高い、ブラジルの調査でも判明、日本では秘密保護法の施行で情報ブロックも
◇化学物質による複合汚染
しかし、発ガンとマイクロ波の関係を考える時、考慮に入れなければならないもうひとつの要素がある。それは化学物質による人体の複合汚染である。同じようにマイクロ波を浴びても、ガンを発症する人と発症しない人がいるが、これはひとつには化学物質による人体の汚染度のちがいに起因している可能性が高い。このような複合汚染の原理は、なにもマイクロ波とガンの関係に限定されたものではない。
たとえば分かりやすい例としては、子宮頸ガンの発症に関する次のような説がる。子宮頸ガンの原因がHPV(ヒト・パピローマ・ウイルス)の感染であることは周知となっているが、HPVに「感染した人全員がかならず子宮頸ガンになるわけではない。たとえば感染した状態で、ある環境因子にさらされて、DNAがダメージを受けるなどの条件が重なった場合、発癌リスクが高くなる」(利部輝雄著『性感染症』)のである。
なんらかの化学物質に汚染された人体で、携帯電話を使っていると、ガンのリスクが高くなると考えても間違いないだろう。実際、発ガンとマイクロ波の関係を調べる動物実験では、マウスを発ガン性物質で汚染させた上で、被曝させるなどの方法が取られることがある。
その化学物質は、地球上にどの程度存在するのだろうか。驚くべき数字がある。
前出のNTP(National Toxicology Program、毒物研究事業)によると、NTPに登録されている使用目的がある化学物質は、8万種類に達しており、さらに毎年、2000種類が新たに加わっている。また、同じく米国のCAS(Chemical Abstracts service)には、すでに1億件の化学物質が登録され、今後、50年で6億5,000万件以上の新規化学物質の登録が見込まれている。
つまり生活環境は、われわれの目に見えないところで常に変化しているのである。静止状態にはならない。当然、リスクの程度もそれに応じて変化している。携帯電話の電磁波にリスクがあるゆえんである。
こうした観点からすると、リスクを評価する際、もっとも信頼できるのは疫学調査である。動物実験では不十分。動物の肉体と人間の肉体は異なっている上に、生活環境や化学物質による汚染度も異なるからだ。
疫学調査により被害が発生している可能性があれば、対策を採るのが、今や世界の常識になっている。しかし、日本政府は科学的な根拠が解明されるまでは、何もしない。携帯電磁波の問題では、特にこの傾向が強い。背景に大企業の利権が絡んでいるからだ。
◇基地局問題の裁判
次に紹介するのは、『財界にいがた』が掲載してくれた、筆者の講演録である。携帯電話の基地局公害と裁判についての話だが、マイクロ波のリスクについても言及している。