1. 佐賀新聞社を舞台に新たな訴訟、 佐賀新聞の弁護士が内容証明で「押し紙」の排除を拒否、販売店訴訟弁護団が全国の販売店へ向けて声明

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2017年02月28日 (火曜日)

佐賀新聞社を舞台に新たな訴訟、 佐賀新聞の弁護士が内容証明で「押し紙」の排除を拒否、販売店訴訟弁護団が全国の販売店へ向けて声明

全国的に新聞ばなれが進むなかで、新聞社と販売店のトラブルが急激に増えている。こうした状況の下で、2月21日、佐賀新聞社の新聞販売店主・A氏が佐賀新聞社に対して地位保全裁判を起こした。「押し紙」を断ったところ、契約期間満了に伴う「契約更新拒絶」を通告され、これに対抗して法的な措置を取ったのである。

A氏の代理人を務めるのは、新聞販売店の訴訟で有名な江上武幸弁護士らのグループである。江上弁護士らは、昨年の夏にも、佐賀新聞社に対して「押し紙」をめぐる裁判を提起しており、今回の新たな訴訟提起により、佐賀新聞社は2件の訴訟をかかえることになった。

【参考記事】佐賀新聞の「押し紙」裁判、江上武幸弁護士ら原告弁護団が訴状を修正・再提出、「押し紙」の定義に新見解を示す

原告側が勝訴した場合、勝訴の判例が今後の「押し紙」裁判に大きな影響を及ぼす可能性もあり、裁判のゆくえが注目される。しかも、「押し紙」の証拠がかなりそろっており、裁判所が政治的判断をしなければ、原告が勝訴する可能性が極めて高い。

◇前代未聞、弁護士が内容証明で「押し紙」代金を請求

地位保全裁判を起こしたA氏は、2016年4月から、佐藤潤一弁護士を伴って佐賀新聞に対し、「押し紙」の解消を求める交渉をしていた。みずから新聞の注文部数を提示することで、過剰になる新聞の搬入を阻止しようと試みたのである。

ところが佐賀新聞社は、A氏の要求を無視して、従来どおりに過剰な新聞の搬入を続けた。そして「押し紙」分の部数についても、新聞の卸代金を請求し続けたのである。

これに対してA氏は、「押し紙」については支払いを拒否。その未払い額は、累積してゆき、2016年11月の時点で、約616万円に達していた。この金額の支払いを佐賀新聞社の代理人弁護士が内容証明郵便で求める前代未聞の事態も起きている。

それでも「押し紙」代金の支払いに応じないA氏に対して、佐賀新聞社が選んだ措置は、契約更新の拒絶の言い渡しであった。今年の3月末をもって、A氏との取り引きを行わないことを、弁護士を通じて通知してきたのである。

この裁判は地位保全裁判であるが、その原因となっているのは、「押し紙」問題である。当然、争点は「押し紙」になる。

◇弁護士が公式に「押し紙」の排除を拒否

A氏の代理人・佐藤弁護士は、江上弁護士らの新聞販売店弁護団に加わり、佐賀新聞社に対して、地位保全を求める訴訟を提起したのである。

原告弁護団によると、今回の仮処分申立は、次のような意味があるという。

・弁護士が代理して「押し紙」の解消(減紙)を求めたにもかかわらず、佐賀新聞は公式にこれを拒否。→違法行為の是正を拒否。組織的な「押し紙」政策を認めるに等しい。

・佐賀新聞が「押し紙」を認めたに等しく、今後、佐賀新聞には同様の「押し紙」解消、損害賠償の訴えが相次ぐ可能性、さらには、この動きが全国に波及する可能性もある。

◇弁護団声明

仮処分申立に際して、原告弁護団は全国の新聞販売店とメディアに向けて次のような声明を発表した。「押し紙」や強制改廃に対抗する方法も示している。

■弁護団声明の全文

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佐賀新聞押し紙訴訟弁護団 声明
平成29年2月22日
福岡県久留米市城南町22-9                  
法務会館4階C
佐賀新聞押紙訴訟弁護団
弁護団長 江上武幸
TEL:0942-30-3275                  
FAX:0942-30-3276  

当弁護団は、昨日2月21日、従前の廃業した販売店の損害賠償請求訴訟に加え、現役の販売店であるA販売店の委任を受け、販売店地位確認を求める仮処分申立を佐賀地裁に提訴しました。
A販売店は、昭和20年代から続く老舗の販売店ですが、全国的にみられる急速な新聞離れの影響を受け、押し紙の仕入代金の増加に苦しめられてきました。

そのため、このままでは販売店経営が立ち行かなくなることから、昨年4月、佐賀県弁護会所属の佐藤潤一弁護士に委任して、仕入れ部数の減紙の申し入れを行うことにしました。
佐藤弁護士は、A販売店主に「販売店経営に必要な部数だけを注文すること、新聞社が従前の部数を供給してきた場合は、押し紙の部数の仕入れ代金の支払いは保留しておくこと」を指示し、佐賀新聞本社に出向き、佐賀新聞の顧問弁護士を交えた席で、A販売店に対する押し紙を止めるよう申し出ました。

しかし、佐賀新聞社は、佐藤弁護士の数回におよぶ交渉にもかかわらず、A販売店の減紙の申出には応じることは出来ないという姿勢を変えようとはしませんでした。
のみならず、佐賀新聞社は、平成28年12月14日「4月からの滞納金が合計700万円を超えていること、減紙の申し入れは社の販売方針や販売店との取引慣行に違反する行為であること」を理由に本年3月31日の期間満了をもって契約を終了させ、以後は契約を更新しない旨を通知しました。

これまで、弁護士が新聞社に対し独禁法に基づく押し紙の禁止を求めたのに対し、それを拒否した例は聞いたことがありません。
そのため、佐藤弁護士はA販売店の経営を守るため、契約更新拒絶の無効を求める仮処分の申し立てを行うことを決め、当弁護団に裁判の協力を依頼された次第です。

弁護団の事務所には、中央紙・地方紙を問わず各地から押し紙の相談が寄せられています。この瞬間にも、押し紙のため経営困難に陥り、倒産の危機に瀕し、苦悩しておられる販売店主の方々がたくさんおられます。

■販売店の皆さんへ

皆さんが理不尽な押し紙の負担にひたすら黙って耐える時期は過ぎました。
押し紙の仕入代金の支払いのためにこれまでの蓄えを使い切り借金までして、なんとか経営を続けようと考えておられる販売店の皆さん。

今こそ、家族と従業員の生活を守るため、新聞社の横暴に断固として立ち上がり押し紙を返上しようではありませんか。

私たちは皆さん方に、次の提案を行います。

①注文票に実売数を正確に記載して新聞社に送って、そのコピーを残しておいて下さい。

②担当員に、実売数と適正な予備紙を超える部数の押し紙の減紙を申し出て、その時の会話を録音しておいてください。前後に会話した日時を録音しておいて下さい。

③実売数がわかる読者台帳、手板、領収書控、自振の銀行通帳、会計記録、決算報告書、確定申告書等の原本やコピーを保管しておいて下さい。

④販売局員(担当を含む)との面談や電話は、録音・日誌で記録に残してください。

⑤押し紙問題の経験のある弁護士に相談し、細かい指示を仰いでください。

黒薮氏にお尋ねいただければ、経験のある全国の弁護士の紹介が可能かと思います。

■メディアの皆さん、特に新聞記者の皆さんへ

新聞社の経営は、基本的に紙面広告収入と販売店の新聞仕入代金収入の2本立で成り立っています。押し紙をなくすことにより、販売店からの収入が減少すると同時に、紙面広告の媒体価値が少なくなりますので広告料の収入も減少します。従って、新聞社の経営にとっては大きなマイナスになることは避けられません。

しかし、新聞社の経営のために、零細な販売店の店主や従業員、その家族を犠牲にすることが許されないのは当然です。

そのようなことは、社会の木鐸である新聞社がとるべき経営姿勢ではありません。賢明な皆さまには、釈迦に説法のことと思います。

しかし、これまで、どれほどの数の販売店主や従業員、その家族が、新聞社のために犠牲に供され、人生を狂わされてきたか想像がつきません。
記者といえども生活があり家族があり、自社の新聞や系列のテレビで押し紙の問題を取り上げることが事実上できないことは十分理解できます。しかし、押し紙問題をこのまま放置しておいては、いずれ新聞社本体の存続にかかわってくることが予想されます。

戦争体験者から、国内的にも世界的にも、きな臭い戦前の空気を感じるとの声が聞こえてきます。

言論の自由を守り、戦争に反対し、平和の礎となる役割を期待されているマスメディア、とりわけ新聞の果たす役割は、今後、益々重要になってくると考えています。

新聞が、時の権力のいかなる不当な介入も許さず、国民の知る権利を守るという本来の使命を発揮できるようにするために、記者の皆さんが知恵と工夫を発揮して、まず自分の新聞社の押し紙問題を解決するために立ち上がられることを切に願っています。

以 上