1. 西日本新聞に対する「押し紙」裁判の訴状を公開、20年の「押し紙」追及と研究の果実、注目される「債務不履行」についての審理

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2022年12月02日 (金曜日)

西日本新聞に対する「押し紙」裁判の訴状を公開、20年の「押し紙」追及と研究の果実、注目される「債務不履行」についての審理

既報したように西日本新聞の元店主が、11月14日に福岡地裁へ「押し紙」裁判の訴状を提出した。代理人を務めるのは、「押し紙」弁護団(江上武幸弁護士ら)である。

本稿で、訴状の中身を紹介しよう。結論を先に言えば、弁護団の20年を超える「押し紙」追及と研究の成果を結集した訴状になっている。訴状の全文とそれに関連する資料は、次のPDFからダウンロードできる。

訴状

「押し紙」一覧

資料(「押し紙」の定義に関する法律と規則)

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原告の元店主が請求している額は、2011年6月1日から2021年5月31日までの10年間に被った「押し紙」による被害と、訴訟に要する弁護士費用など総計で約5700万円である。

原告弁護団が請求の根拠としているのは次の3点である。

 

1, 公序良俗違反

民法90条は、「公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効とする」と述べている。つまり社会通念を踏み外したとんでもな方法で、ビジネスを展開した場合など、ビジネスの根拠となっていた契約を白紙に戻す法律である。「押し紙」裁判では、無駄な新聞を大量に押し売りする行為が公序良俗に違反するかどうかが審理される。折込広告の廃棄や環境破壊も考察点になる。

 (写真は、本文とは関係ありません)

 

2, 不法行為

不法行為についての審理では、西日本新聞が元店主に対して、新聞を押し売りしたかどうかが争点になる可能性が高い。これは旧来の「押し紙」裁判で中心的な争点になってきたテーマである。原告は、新聞の買い取りを強制された事実を立証しなければならない。

従来の「押し紙」裁判では、裁判所は新聞社が新聞の買い取りを強制した事実をなかなか認めない傾向があった。たとえば日経新聞の「押し紙」裁判では、店主が少なくとも20回に渡って書面で「押し紙」を断ったにもかかわらず、販売局と店主の間で「注文部数」の決定について、議論をしたから強制には当たらないと判断した。論理が極端に飛躍しているが、「押し紙」裁判では、このレベルの幼稚な判定がまかり通っている。「押し紙」裁判が不透明だと言われる理由のひとつである。

新聞社による不法行為を否定することで裁判所は、延々と「押し紙」を放置してきたのである。

過去の「押し紙」裁判の傾向をみると、詭弁が最も多いのが不法行為に関する審理である。

 

3, 債務不履行

債務不履行についての審理は、最近の「押し紙」裁判の中で、新しい視点として浮上してきたテーマである。

商契約の中で西日本新聞は、販売店に対して法規を尊重したうえでビジネスを展開することを確約させている。しかし、相手方に法令遵守を求めるからには、みずからも法令を遵守しなければならないというのが一般的な法解釈である。

それを前提にした場合、新聞社は独禁法の新聞特殊指定を遵守して、販売店に真に必要な新聞部数を届ける義務がある。実際、西日本新聞が販売店の送る請求書には、「貴店が新聞部数を注文する際は,購読部数(有代)に予備紙等(有代)を加えたものを超えて注文しないで下さい。本社は,貴店の注文部数を超えて新聞を供給することは致しません」という注意書きをしている。

一方、独禁法の新聞特殊指定の下では、新聞の「注文部数」を次のように定義している。

【引用】「注文部数」とは、新聞販売業者が新聞社に注文する部数であって新聞購読部数(有代)に地区新聞公正取引協議会で定めた予備紙等(有代)を加えたものをいう。

※出典:1964年に公正取引委員会が交付した新聞特殊指定の運用細目

具体的にいえば、「実配部数+予備紙」の合計を「注文部数」(必要部数)と見なし、それを超える部数は、理由のいかんを問わず、原則として「押し紙」である。新聞の発注書に販売店が記入した外形的な「注文部数」と、特殊指定の下での「注文部数」とは意味が異なる。これを混同していたのが従来の「押し紙」裁判なのである。

従って西日本新聞が残紙の存在を認識していれば、その残紙は「押し紙」という判定になる。

この裁判では、西日本新聞が実配部数を把握していた証拠が残っている。従って西日本新聞は、新聞特殊指定でいう「注文部数」を越えて、新聞を提供していたことになる。

「債務不履行」についての審理では、部数の強制があったかどうかといった点は、枝葉末節であって、搬入されていた新聞の部数が新聞特殊指定が定義している「注文部数」を越えていたかどうかが、中心的なテーマとなる。

 (写真は、本文とは関係ありません)

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今後の「押し紙」裁判でも、債務不履行に関する審理が中心的な論点になる可能性が高い。

従来、「押し紙」の定義は、「新聞社が販売店に押し売りした新聞」とされてきた。しかし、新聞特殊指定の下での定義は、既に述べたようにかなり異なっており、「実配部数+予備紙」からなる「注文部数」を超えた新聞部数の事である。強制があったかどうかは、2次的な問題なのである。

佐賀新聞の「押し紙」裁判(2020年5月判決)では、新聞特殊指定の下での「押し紙」の定義が「押し紙」弁護団から提唱され、裁判所もそれを参考にした可能性が高く、佐賀新聞社の独禁法違反を認定した経緯がある。