1. 黒薮・志岐の勝訴が確定、対八木啓代氏の名誉毀損裁判、浮き彫りになった本人訴訟の「暴走」

「森裕子VS志岐武彦」の裁判に関連する記事

2016年06月14日 (火曜日)

黒薮・志岐の勝訴が確定、対八木啓代氏の名誉毀損裁判、浮き彫りになった本人訴訟の「暴走」

歌手で作家の八木啓代氏が筆者と『最高裁の黒い闇』(鹿砦社)の著者・志岐武彦氏を提訴した名誉毀損裁判で、筆者と志岐氏の勝訴が確定した。八木氏が高裁に控訴しなかったためである。

◇武富士から読売へ

このところ高額訴訟が多発していて、社会問題になっている。その多くは、経済的に圧倒的に勝る大企業が、弱小の会社や個人に対して高額の賠償金を請求するケースである。たとえば複数のフリージャーナリストらに億単位の金銭を請求した武富士裁判などは、その典型例である。この裁判では、弘中 惇一郎弁護士らが、武富士サイトに立ち、フリージャーナリストらを追及した。

筆者自身も、2008年2月からわずか1年半の間に読売新聞社から3件、約8000万円を請求する裁判を起こされたことがある。

■参考記事:喜田村洋一弁護士が作成したとされる催告書に見る訴権の濫用、読売・江崎法務室長による著作権裁判8周年①

八木氏が筆者と志岐氏に対して起こした裁判は、武富士裁判や読売裁判とは性格を異にしていた。大企業による訴訟とは異なり、八木氏の本人訴訟だった。

八木氏が名誉を毀損されたとして法廷に持ち出したのは、2015年3月12日に「さくらフィナンシャルニュース」に掲載された記事である。著名はないが、「黒薮」の執筆だ。

【3月12日、さくらフィナンシャルニュース=東京】

連続したツイッターへの書き込みで名誉を毀損されたとして、『最高裁の罠』の著者で旭化成の元役員・志岐武彦氏が、歌手の八木啓代氏に対して200万円の損害賠償を求めた裁判の第5回口頭弁論が、11日に東京地裁で開かれた。準備書面の交換は、今回で終了して、次回の口頭弁論では、八木氏に対する本人尋問が開かれる運びとなった。

この裁判の背景には、志岐氏が調査してきた検察審査会と最高裁事務総局の「闇」がある。2010年9月14日、東京第5検察審査会は、小沢一郎議員に対して起訴相当議決を下した。これにより小沢氏は、強制起訴された。

ところがその直後から、小沢検審は「架空」の審査会で、最高裁事務総局が仕組んだ謀略ではないかという噂が広がり、週刊誌や夕刊紙がこの問題を報じた。そこで志岐氏は、情報公開制度を利用して、「役所」からさまざまな内部資料を多量に入手した。そして「市民オンブズマンいばらき」の石川克子事務局長(当時)の協力を得て、資料を分析。その結果、「架空」と推論するに値する十分な裏付けを得たのである。

ところが八木氏は、志岐氏に対してツイッターを使って攻撃をはじめた。その中で八木氏は、志岐氏の説が「妄想」であるとして批判を繰り返した。たとえば次のツイッターである。

 「ちなみに、どうせまともな人は信じないので改めて書く必要もないと思いますが、志岐氏が昨日付のブログに書いていることは、すべて妄想です。かなり症状が進んでいるなと思います。早い内に病院か教会に行かれる方がよいと思います」

 小沢検審が「架空」であったと推論するだけの十分な根拠が明らかになっているうえに、八木氏の表現に(精神)病院か教会に行けといった侮辱的な表現もあり、裁判所の判断が注目される。

なお、八木氏は、別の人物からも名誉毀損裁判を起こされ、東京地裁で20万円の損害賠償を命じられている。また、森裕子元参院議員が志岐氏に対して500万円の損害賠償と言論活動の制限を求めた裁判では、森氏が敗訴している。

 志岐氏の調査報道の検証と森裁判の「戦後処理」は、始まったばかりである。

■出典

◇「病院か教会に行かれる方がよい」

誰が読んでも名誉毀損的な表現は存在しないが、八木氏はこれが名誉毀損にあたるという奇抜な主張を展開したのである。たとえば、次の記述。

八木氏の表現に(精神)病院か教会に行けといった侮辱的な表現もあり、裁判所の判断が注目される。

引用文の中の「病院」という言葉に、「精神」を補足して「(精神)病院」としたことが、ツイッターの執筆者である八木氏の名誉を毀損したというのであった。このレベルの「へりくつ」を論破するために、筆者は1年以上も東京地裁へ通ったのである。もちろんそのために本業のライター業は、大きな支障をきたした。経済的な負担もあった。

一方、八木氏は本人訴訟なので、印紙代を除いて経済的な負担もほとんどなかったと思われる。

◇損害賠償の壁

意外に知られていないが、このところ弁護士を使わずに提起される名誉毀損裁判が増えている。名誉毀損裁判は、訴えた側が圧倒的に有利な法理になっているので、「宝くじ」感覚で提訴する人が増えているようだ。本人訴訟なら弁護士費用も不要なので、敗訴しても、「宝くじ」に外れたぐらいの感覚しかない。

筆者の知人も昨年、この種の裁判に巻き込まれた。相手は裁判マニアだった。小遣い稼ぎに、2CHなどをネタにして、記述の揚げ足を取って、名誉毀損裁判を繰り返し起こしている輩である。

知人は敗訴して、20万円を支払わされた。

まさに異常な実態が広がっているが、訴権は憲法で保障されているわけだから、提訴を禁止するわけにもいかない。損害賠償の「反訴」で勝訴するものなかなか難しい。日本人のモラルが低下するなか、司法関係者が考えなければならない難問である。

【参考資料】

■八木氏が志岐を批判したツイッター一覧

■志岐氏勝訴の判決

■八木氏敗訴の判決