取材を要する奇妙な博報堂の見積書と、CMコードの非表示・代筆放送確認書の関係
博報堂とアスカコーポレーションの裁判の中で、次々と疑惑が浮上している。その中でもとりわけ放送倫理の観点から問われているのは、視聴率の偽装とCMコードが無表示になった放送確認書、それに通販番組の「休止→料金の請求→番組枠の転売」である。
放送に関係したこれら一連の問題をアスカが本格的に調査するようになった引き金は、わたしが取材したところ、博報堂の遠藤常二郎弁護士らが執筆した原告準備書面(2)だった。
◇CMコードの非表示は「作成者の記載ミス」
この書面について説明する前に、両者の係争を簡単に要約しておこう。最初に裁判を起こしたのは、博報堂だった。CM制作費など一連のPR業務から生じた請求金額の未払い金・約6億円の支払を求めて昨年12月に、アスカを提訴した。これに対してアスカは、今年5月に約15億円(過払い金)の支払いを請求して博報堂を提訴した。
本日の記事で取り上げる博報堂の原告準備書面(2)とは、博報堂が起こした「6億円訴訟」の中で博報堂の遠藤常二郎弁護士らが、執筆したものである。
アスカが注目したのは次の記述である。前後の文脈を切り離して読むと、分かりにくいので、結論を先に言えば、「放送確認書のCMコードが無表示になっているのは、放送確認書を作成したテレビ局の所員による記載ミスが原因である」という趣旨である。
(1)同2のうち、甲第5号証に日本民間放送連名の定める10桁のCMコードが記載されていないこと及び乙第23号証にスーパー!ドラマでCMが放送された旨の記載がなされていないことは認めるが、その余は否認する。
放送確認書は、放送を実施した媒体社の責任において発行されるものであり、媒体が、放送を実施せずに放送確認書を発行することは常識的にあり得ない。スーパー!ドラマでの放送確認書(甲5)が発行されている以上、同番組でCMが放送されていることは明白である。被告らは、甲第5号証にCMコードが記載されていないことや、乙第23号証にスーパー!ドラマに関する記載がないことを理由に甲第5号証の信用性を争っているようであるが、記載のないことは、それぞれの作成者の記載ミスと考えられてもCM放送の実施の有無とは無関係である。
赤文字の部分に注意してほしい。
ちなみに「スーパー!ドラマ」とは、スーパーネットワーク社が提供している番組である。この番組に連動しているCMの放送確認書には、CMコードが表示されていない。その原因を遠藤弁護士らは、「それぞれの作成者の記載ミス」と主張しているのである。
◇CMコードは機械が自動発生させる
この記載を読んだとき、わたしは遠藤弁護士らが作成した書面全体の信憑性を疑った。と、いうのはCMコードの刻印は、機械が自動的に行うシステムになっているからだ。
このようなシステムが導入された背景には歴史的な教訓がある。それは1990年代の後半から、今世紀初頭にかけて起こったCM「間引き」事件だった。福岡放送、北陸放送、それに静岡第一テレビで、CM「間引き」事件が発覚したのである。しかも、これは氷山の一角ではないかとする見方もある。
そこで民放連などは、放送局の信頼を回復するために、CM放送に連動して自動的にCMコードが刻印されるシステムを開発・導入したのである。従ってCMコードが無表示になっていれば、システムが故障していた場合を除いて、CMが放送されていないことになる。
アスカがCMコードの無表示件数を調べたところ、膨大な数になった。わたしも関係書類の提供を受けて独自に不在になったCM本数を調べた。
両者の数値に若干の差異があるので、ここではわたしがカウントしたCM本数を提示しておこう。詳細は次のエクセルでご覧いただきたい。
※これは公式の数値ではないので、変更もありうるが、大きな誤差はない。
スーパーネットワークにいたっては、2014年9月に100件のCMが放送されたことになっている。遠藤弁護士の主張にそえば、100回「作成者の記載ミス」をおかしたことになる。
システムの故障が定期的に起こることは、普通はあり得ないから、CMコードが無表示になっているものは、放送されていないと考えるのが普通である。
◇「民放連に加入していないからCMコードがない」
ところが先日、CMコードの無表示が最も多いスーパーネットワーク社に対して、筆者がCMコードの無表示になっている理由を問い合わせたところ、興味深い答えが返ってきた。
最初、対応した社員は、博報堂に問い合わせてほしいと言った。博報堂が取材を拒否している旨を伝えると、博報堂と相談してから回答するとの返事があった。実際、その日のうちスーパーネットワークから連絡があった。次のような趣旨の回答だった。
「自分たちは民放連に加盟していない。従ってCMコードも採用していない。しかし、アスカのCMは流れている」
これが博報堂に相談して、スーパーネットワーク社が公表した回答である。
博報堂側は準備書面(2)では、「それぞれの作成者の記載ミス」と明記しているが、筆者の取材に対しては、「民放連に加盟していないため」と説明したのである。
つまり2つの説明のうち、どちらかは嘘の説明ということになる。
◇放送枠の転売による二重の儲けの疑惑
いずれにしても準備書面(2)の前出記述を契機にアスカ側は、放送に関連した事件について本格的な調査をはじめたようだ。その中かでさまざな疑惑が浮上してきたのである。
たとえば「休止→請求→放送枠の転売による二重の儲け」の疑惑が次々と発覚している。前出の準備書面(2)の中で遠藤弁護士は、転売(リセール)できたのは、「平成26年11月放送分の『にじいろジーン』(甲13号)」と、「同月放送分『モーニングバード』(甲14)」の2件だけだと記述しているが、他にも疑惑がかかっている番組がある。
詳細については、取材が完了した時点で公にするが、現時点でも、「平成26年」12月に放送された「にじいろシーン」と「モーニングバード」も転売されている。
◇後付けの見積書発行の異常
さらに朝日放送の放送確認書を博報堂が代筆している事実も、重大な疑惑がある。改めて言うまでもなく、代筆であるから放送が完了したとする証拠価値はない。
なぜ、放送されていない可能性があるのか?
読者は、びっくり仰天するかも知れないが、博報堂の見積書は不思議なことに発行日が月末の日、つまり請求対象となるPR業務が終了した後に後付けのかたちで発行されていたのだ。
たとえば、7月3日にCMを流したとする。この場合、本来であればCMの提案は7月3日より前の時期に行われ、見積書を示してクライアントの承諾を得る必要がある。ところが博報堂の場合は、7月3日に放送したCMの見積書は、7月31日に後付けで発行されているのだ。下記がその実例だ。赤→の部分を注視してほしい。
こうした方法を採用すれば、放送していないCMを放送した事にして、月末日付けの見積書に盛り込み、請求することも可能になる。はるか遠方のローカル局でCMを流したと言えば、それを確認する方法はほとんどない。
もちろんCMを流していなければ、CMコードが無表示になることはいうまでもない。あるいは通販番組であれば、広告代理店が放送確認書を代筆しなければならないことになる。博報堂が発行した代筆放送確認書に疑惑がかかっているゆえんにほかならない。
ただ、くれぐれも念を押しておくが、博報堂がこうした方法を採用していると言っているのではない。見積書を、後付けで出せば、そのような手口が可能になる温床になると言っているのだ。後付けの見積書が秘めている不正の温床を指摘しているのである。
いずれにしても、見積書を後付けで出す博報堂の行為そのものが尋常ではない。取材・調査せざるを得ないゆえんだ。
後付けの見積書や放送確認書の代筆を裁判所がどう判断するかが注目される。
※冒頭の写真は、博報堂が制作した情報誌。バックナンバーからのデータの流用がはなはだしく、ほとんど両号のページに違いはない。