2015年11月05日 (木曜日)
日本の財界人が集団で中国を訪問、南沙諸島問題をめぐりマスコミの英雄史観とのギャップ
NHKなどのマスコミが南沙諸島問題で日中戦争の危機を煽りながら、暗黙のうちに安保関連法の存在意義をPRしている。こうした状況の下で、「経団連の榊原定征会長ら経済界首脳が参加する日中経済協会」が中国を訪問して、6年ぶりに中国政府の幹部と会談した。時事通信は次のように報じた。
経団連の榊原定征会長ら経済界首脳が参加する日中経済協会(会長・宗岡正二新日鉄住金会長)の訪中団は4日、中国の李克強首相と人民大会堂で会談した。
この中で、日本側が知的財産権の保護強化や日中韓の自由貿易協定(FTA)交渉推進などを求めたのに対し、李首相は「積極的に進める」などと応じ、日本からの投資拡大に期待感を示した。
中国の首相が日中経協の訪中団と会談したのは6年ぶり。李首相は「皆さんの訪中は中国との経済協力を深化させることに期待を抱いていることを表していると思う」と歓迎する意向を示し、榊原会長は「中国は日本にとって最も重要でかけがえのない隣国であり、パートナーだ」と応じた。
中国経済の減速が懸念される中、李首相は「今後5年間で年平均6.5%以上の成長が必要だ」と安定成長を目指す方針を説明。「成長率は鈍化しているように見えるが、絶対量(金額)で見れば例年以上の成長をしている」と強調した。
昨日(4日)付けのメディア黒書でも述べたように、中国は日本にとって最大の貿易相手国である。2013年度の対中国輸出は302,852億円で、米国の197,430億円を大きく上回っている。比率にすると中国は、輸出全体の20.1%で第2位の米国の(13.1%)を大きく上回っている。
この数字から推測されるように、日中戦争が勃発して最大の損害を被るのは、日米の財界である。こんなことはわざわざ念を押すまでもなく、明白なことだが、案外理解していないメディアが多いようだ。
南沙諸島問題をめぐる緊張の高まりを根拠に戦争勃発の可能性を公言して、安保関連法の正当性、あるいはそれをごり押しした安倍首相の選択の正当性をPRする。こうした傾向が広がっている。
ただ、それが見識不足から来ているのか、悪意が原因なのかは判断のしようがない。かりに見識不足とすれば、それは具体的には基本的な歴史観の誤りである。歴史を動かす要素は何かという問題に対する答えの誤りである。
◇ナポレオン・坂本龍馬・・・
われわれが受験教育の中で教えられた歴史観、あるいはメディアの影響で自覚なしに身に着けている歴史観は、いわゆる英雄史観と呼ばれるものである。たとえばナポレオンや坂本龍馬など、英雄的な人物の出現によって社会が変革したとする考えである。
それゆえに「もし、30年前に小泉純一郎が首相になっていたら、日本に『失われた20年』はなかった」などと平気で言う。
しかし、政策というものは、政治家個人の判断で決まっているわけではない。安保関連法にしても、安倍首相の個人的な思想をよりどころにして制定されたわけではない。政策の方向を決めているのは、その時代の経済を牛耳っている人々である。安倍氏は、実働部隊として先頭に立っただけに過ぎない。
安保関連法が米国と日本の財界からの要請であったことは、たとえば米国のアーミテージ報告や経済同友会の過去の提言を検証すれば裏付けを取ることができる。
財界がどういう要望を持っているかを無視して、日本の政策は決定されない。たとえば90年代に小選挙区制が導入されたが、これは類似した政策を柱とする2大保守政党により、どちらが政権を取っても確実に新自由主義=構造改革の導入を進めていきたいという財界の要望の結果にほかならない。
そのためには、自民党を分裂させるのが得策だった。すなわち反対派を形成することを特技とした(元)急進的な新自由主義者・小沢一郎氏に活躍の舞台が巡ってきたのである。小沢一郎氏が急進的新自由主義者であったことは、彼の著書『日本改造計画』などで明らかだ。冒頭から、自己責任論を展開している。
安倍首相が政権の座に就くことができたのも、極右思想という多少の問題はあっても、彼のような独断的な人でなければ、反対の世論が強い安保関連法を成立させることが難しいからである。つまり舞台裏には、政治を牛耳っている人々がいるのだ。その面々が、今回、集団で中国を訪問したのである。
橋下徹氏が地方政党にこだわっているのも、大阪都構想に象徴されるように新自由主義=構造改革の最終段階として、地方分権の政策が想定されているからにほかならない。地方政党は、新自由主義の政策の「受け皿」である。従って、「維新の党」は必然であって、斬新な存在でもなんでもない。
先ほどわたしは、日中戦争はあり得ないと書いたが、それならなぜ自民党などは、安保関連法を強行採決したのだろうか。あるいは安保関連法は、地球上のどの地域を想定したものなのだろうか?
この点に関しては、軽々しいことは言えないが、あくまでもわたしの直観で言えば、中東やアフリカの可能性が高い。