1. 安倍内閣の支持率回復と南沙諸島問題を利用したメディアによる世論誘導

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2015年11月04日 (水曜日)

安倍内閣の支持率回復と南沙諸島問題を利用したメディアによる世論誘導

安倍内閣の支持率が若干回復している。次に示すのは、大手メディアによる世論調査の比較である。

【10月30日朝日新聞デジタル】
(30%台半ば→41%)

世論の反対が強い安全保障関連法の成立に突き進んだ結果、安倍内閣の支持率は30%台半ばまで落ち込んだが、内閣改造を経た今月の調査で支持率は41%まで上昇した。一方、安保関連法への反対が半数程度を占める状況は、依然として変わっていない。データをみると、経済政策への期待感が背景にあることが浮かび上がる…

【読売新聞】
(41%→46%)

読売新聞社は、第3次安倍改造内閣が発足した7日から8日にかけて緊急全国世論調査を実施した。安倍内閣の支持率は46%で、前回調査(9月19~20日)から5ポイント上昇し、不支持率は45%(前回51%)に下がった。安全保障関連法が成立した直後の前回は、支持率が下落して不支持率を下回っていた。今回は支持率がわずかながら不支持率を上回り、拮抗きっこうした。

【時事ドットコム】
(38/5%→39.8%)

  時事通信が9~12日に実施した10月の世論調査によると、安倍内閣の支持率は前月比1.3ポイント増の39.8%で、5カ月ぶりに増加に転じた。不支持率は同3.6ポイント減の37.7%で、3カ月ぶりに支持率を下回った。

あくまで大メディアによる世論調査に信憑性があるという前提で、内閣支持率が回復した要因を考えてみると、経済政策への期待感だけではなく、ひとつには大メディアが南沙諸島問題を重点的に取り上げて、日本の軍事大国化を「やむを得ない」とする世論を形成していることがあげられるだろう。

4日のNHKニュースも、インドネシアで中国に対抗するために、軍による警備が強化されていることを報じていた。ボートに武装した兵士が乗り込んで、海上を警備しているビデオが公開された。

また、中国海軍の戦艦に守られた中国漁船が密漁を繰り返して、現地の漁民の収入が激減しているとも報じていた。映像で状況が紹介されたわけだから、これらの実態は少なくとも事実が含まれていることは疑いない。問題の全体像を報じたのか、それとも我田引水のかたちで安倍内閣に都合のいい部分だけを報じたのかは別として、報じられた事実を否定することはできない。

こうした画像が次々と画面に登場すると、おそらく多くの人々は、安保関連法で揺れた国会を思い出して、「やっぱり安倍さんが正しかった」と思うだろう。内閣支持率の上昇にもつながる。

ただ、NHKも民法も公権力や企業から完全に独立したメディアではないので、世論誘導されていることも念頭に置かなければならない。湾岸戦争で、油にまみれた真っ黒や鳥の映像がやらせだった事は、今や認定済みとなっている。イラクに化学兵器がなかったことも明らかになっている。メディアは常に世論誘導の道具として、公権力に協力するのだ。

◇日中戦争を予測する愚

こうした状況の下で、当然、中国と日米の間で戦争が起きるのではないかと発言している識者が現れている。が、この考えがいかに愚論であるかは、次の数字を見れば明らかだ。

【日本の対中国輸出】

対中国:302,852億円(20.1%)

対米国:197,430億円(13.1%)

【米国の対中国輸出】

米国から中国への輸出については、谷口智彦(たにぐち・ともひこ)慶應義塾大学大学院SDM研究科特別招聘教授によると、「2010年までの10年間で、米国から中国への輸出額は468%伸びた。131%で伸び率2位のブラジル向けを超絶する突出ぶりである。」(WEDGE)

米国も日本は経済的に中国に大きく依存している。こうした状況のもとで中国との戦争になれば、もっとも損害を受けるのは日米の財界である。

日本の財界や米国政府が従軍慰安婦の問題や靖国神社の問題で、必ずしも安倍内閣を支持しないゆえんにほかならない。
それに政治の方向性は、安倍首相の個人的な思想で左右されているわけでない。もちろんそうした要素も皆無ではないが、それよりも政界の舞台裏にいる人々、つまり日本経済を牛耳っている財界が政治を動かしているのだ。その財界が中国を敵視しているはずがない。彼らは、金さえ手にできれば、誰とでも手を組むのだ。

日中戦争の可能性を指摘する識者には、日本の軍事大国化に加勢しようという意図があるようだ。そもそも政治の力学が分かっていない。天才的な政治家、たとえばナポレオンのような人物が登場すれば、世の中が変革を遂げるわけではない。英雄史観は時代錯誤だ。歴史観そのものが根本的に間違っているのだ。