1. ジャーナリスト安田純氏がシリアで拘束された可能性、報じられない背景に特定秘密保護法に対する警戒心か?

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2015年07月21日 (火曜日)

ジャーナリスト安田純氏がシリアで拘束された可能性、報じられない背景に特定秘密保護法に対する警戒心か?

【サマリー】ジャーナリストの安田純氏がシリアで拘束されている可能性が高まっているが、メディアはそれを報じようとはしない。軍事がらみの事件だけに特定秘密に指定されている可能性が高く、メディアもそれを警戒した結果ではないかと思われる。

一方、安保関連法案をめぐるニュースは、採決直前になって、NHKを含む大手メディアも法案に反対する動きを積極的に伝えたが、報道のタイミングが遅すぎた。採決直前に、あるいは法案が採決されてから報道しても意味がない。 日本のメディアはますます権力構造に巻き込まれている。

ジャーナリストの安田純平氏がシリアで身柄を拘束された可能性が高まっているにもかかわらず、大半の大手メディアは沈黙を守り、これを報じたのは産経新聞とCNNだけだった。

17日付けCNNの記事を引用してみよう。

東京(CNN) 消息不明となって3週間以上が経つ日本のフリージャーナリスト、安田純平氏(41)の安否への懸念が高まっている。

 6月23日、安田氏はトルコからの電話で親しい友人に、シリアに入国する計画だと語ったという。安田氏は過去にもシリアで取材した経験がある。この友人(匿名を希望)は、安田氏がイスラム過激派によって身柄を拘束された可能性が高いとの見方を示した。

 安田氏の短文投稿サイトのツイッターへの投稿も、6月20日以降途絶えている。安田氏は最後の投稿で「これまでの取材では場所は伏せつつ現場からブログやツイッターで現状を書いていたが、取材への妨害が本当に洒落にならないレベルになってきているので、今後は難しいかなと思っている」と述べていた。

 日本の岸田外相は10日の記者会見で質問に答え、安田氏の安否についての情報には接していないと述べた。これにより、安田氏の安否をめぐる懸念は高まった。

 折しも衆院では、第2次世界大戦後初めて、海外での自衛隊の戦闘行為を認める安保関連法案が可決された。

 安保関連法案に反対する人々は、イラクやシリアに拠点を築く過激派「イラク・シリア・イスラム国(ISIS)」との戦いを含む国際紛争に日本が巻き込まれるのではないかと懸念している。

 安田氏のウェブサイトによれば、安田氏は1997年に記者となり、2003年にアフガニスタンを訪問した後フリーに。イラク軍などに拘束されながらもイラクでの取材を行う。

 04年にバグダッドで武装勢力に拘束される。この時、紛争地帯に自ら足を踏み入れたにもかかわらず日本政府に解放交渉をさせたとして、一部の日本人から批判を浴びた。

◇ジャーナリストをめぐる2つのケース

周知のようにかつて日本のメディアは、この種のニュースには積極的に飛びついていた。視聴率のアップが期待できるからだ。たとえば2004年にバグダッドで高遠菜穂子氏らが武装勢力に拘束された事件は連日のようにニュースやワイドショウーに取り上げられた。

一方、後藤健二氏が巻き込まれた事件については輪郭こそ報じたが、肝心の真相を解明する作業には着手しなかった。この事件に関する情報が特定秘密に指定されている可能性が高く、どう対処すべきなのか迷走したあげく、ISの残忍性を強調しながら事件の輪郭だけを伝えるという曖昧な態度を選択したのではないだろか。もちろんこれはわたしの推測で、確固たる裏付けがあるわではないが。

今回の安田氏の件では、大半のメディアが報じないという方針で足並みをそろえているようだ。

潜入取材を行う場合、普通、ジャーナリストは定期的に協力者とコンタクトを取る。コンタクトがとれなくなった時点で、協力者は潜入の事実を公にする。公にすることで世論を喚起して、生命の危機を救うのだ。

が、安田氏のケースでは、メディアの側がこの原則を無視している。

◇特定秘密保護法にも報道自粛の要請にも従うべきではない

余談になるが安保関連法制をめぐる報道について言えば、採決の直前になってNHKを含む多くのメディアが反対派の動きを活発に伝えた。それを評価する声も多いが、わたしは報道があまりにも遅すぎたと感じている。

採決の直前になって、あるいは採決した後に安倍内閣を批判してもあまり意味がないからだ。教育基本法のケースのように安倍首相が退陣しても、改悪された法律は将来に負の影響をおよぼす。

今国会の中心的テーマが安保関連法案になることは、閣議決定の段階から分かっていたはずだ。

特定秘密保護法が成立したことを理由に報道を自粛すれば、同法の悪用がエスカレートする。メディアはますます国民にとっては不要な世論誘導の道具に変質する。特定秘密保護法にも報道自粛の要請にも従わないことが、同法を破棄させる最短の道である。