2020年11月07日 (土曜日)
【報道検証】米国大統領選後の混乱と、トランプ政権の対ラテンアメリカ政策-市民運動の悪用
はからずも米国大統領選で、トランプ大統領が引き起こした「不正選挙」をめぐる混乱を通じて、トランプ政権がこれまでラテンアメリカに対して採用してきた対外政策が輪郭を現してきた。
ラテンアメリカに関する日本の新聞報道は、米国のFOXニュースのレベルである。キューバのPrensa LatinaやベネズエラのTelSurの報道内容とは、対極にある。ただ、現地を取材して直接、自分の目で真実を確認できないわたしは、どちらの情報を信用すべきなのか長いあいだ分からなかった。
それゆえにわたしは、メディア黒書でラテンアメリカの話題をあまり取り上げてこなかった。
しかし、米国の大統領選の後に浮上した米国民の分断を見て、Prensa LatinaやTelSurの情報の方が真実を伝えているという確信を得た。
ベネズエラ、ニカラグア、ボリビアで行われた最新の大統領選について、日本のメディアは次のように報じている。これらの国は、米国でいま起きていることを経験したのだ。
ベネズエラ(2018年)
南米ベネズエラの大統領選で反米左派「統一社会党」のマドゥロ大統領(55)が再選して一夜明けた21日、トランプ米政権は「選挙は公正ではなかった」として新たな制裁を科すと発表した。(毎日新聞)
このような報道が日本にマドゥロ大統領を批判する世論を生み出した。共産党までが、それを鵜呑みにして、反ベネズエラの姿勢を鮮明にしたのである。
ニカラグア(2016年)
中米ニカラグアの大統領選挙で、左派の現職ダニエル・オルテガ(Daniel Ortega)大統領(70)が7日、3選を決めた。副大統領には妻のロサリオ・ムリジョ(Rosario Murillo)氏が就任する。しかし、野党勢力や米国は選挙の不正を指摘している。(AP通信)
ボリビア(2019年)
南米ボリビアのモラレス大統領が10日、辞任を表明した。10月の大統領選で再選を決めたばかりだったが、選挙を巡る不正疑惑で抗議デモが拡大し、軍も辞任を求めていた。ガルシア・リネラ副大統領も辞任した。(朝日新聞)
これら3カ国で問題になった「不正選挙」を、日本のメディアは既成事実として報じた。それは、「西側メディア」の視点である。しかも、ボリビアのケースにように、クーデターについては一切ふれずに、モラレス大統領が亡命したことだけを伝えたのである。
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ちなみに米国によるラテンアメリカ諸国に対する内政干渉については、過去に米国が行った軍事介入を示す次の図を見れば明らかである。
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しかし、今世紀に入るころから米国は、極力、軍事介入を控えるようになった。と、いうのもラテンアメリカに議会制民主主義が定着して、世論が軍事介入を容認しなくなったからだ。
そこで米国が選んだのが、軍隊を投入する代わりに、現地の市民運動を資金面や戦略面でサポートして、草の根レベルで混乱を引き起こす戦略だった。それを「民主化運動」とした。
米国はこのような政策に米州機構や一部の人権擁護団体も巻き巻き込んだ。メディアも協力した。2018年のボリビアの大統領選挙では、米州機構が「不正選挙」キャンペーンのイニシアティブを取った。
米国によるこのような新戦略のスポンサーについては、次の記事を参考にしてほしい。
【参考記事】米大統領選挙、バイデン圧勝か?「不正選挙」と暴力というトランプのプロパガンダと戦略、既にベネズエラ、ボリビア、ニカラグアで失敗を実証済み
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米国大統領選の後、トランプ大統領が「不正選挙」キャンペーンをはじめたことで、はからずもトランプ政権下の対ラテンアメリカ政策が露呈した。露骨な軍事介入ができなくなったから、現地の市民運動を育成して、「民主化」を理由に混乱を引き起こし、その隙に乗じてクーデターで政権の転覆を企てる戦略を採用するようになったのである。
事実、ベネズエラ、ニカラグア、ボリビアでクーデターを試みた。ベネズエラとニカラグアでは未遂に終わったが、ボリビアでは成功した。
このような視点から、チリやコロンビアで起きている暴力と国民の分断現象を再考してみるべきだろう。香港の問題も、同じ対外政策が根底にある可能性が高い。中国が採用した対抗策は強権的だが、その背景にある米国の戦略も検証する必要があるのだ。
皮肉なこともトランプ政権の牙(きば)は、いま米国民をターゲットにしている。