1. マスコミが隠し続ける「新自由主義」というキーワード、現在の時事問題の解説に不可欠 、フランスの暴動もホンジュラスの移民も背景は同じ

マスコミ報道・世論誘導に関連する記事

2018年12月19日 (水曜日)

マスコミが隠し続ける「新自由主義」というキーワード、現在の時事問題の解説に不可欠 、フランスの暴動もホンジュラスの移民も背景は同じ

現在を読むキーワードのひとつに「新自由主義」があるが、この用語を日本のマスコミは避ける傾向がある。構造改革という言葉で曖昧にごまかして、報道しているメディアも少なくない。

国際問題に例を取れば、フランスで発生した暴動、米国とメキシコとの国境で起きている中米移民の問題、国内問題に例を取れば、水道事業の民営化や外国人労働者の受け入れ枠の拡大、非正規雇用の拡大、それに法人税の減税と消費税の増税などは新自由主義の政策と連動したものである。もう少し広い視点から見れば、米軍との共同作戦を前提とした日本の軍事大国化も新自由主義の政策から派生した流れにほかならない。医療に保険外診療の領域を増やしたのもやはり新自由主義の政策だ。

さらにいえば、小さな政府を前提に医療や教育を地方自治体へ丸投げするのも新自由主義の政策だ。自民党と維新の会が親密なのも偶然ではない。

新自由主義というキーワードを軸にすれば、個々バラバラに起こっているように見えるこれらの現象をひとつの視点で理解することができる。が、マスコミはその簡単な作業を避けている。マスコミ自体が日本の権力構造に巻き込まれているから、問題の核心を隠蔽するのだ。

◇福祉国家の崩壊

 新自由主義とは、文字通り新しいタイプの自由主義経済を成熟させようとする思想である。もともと資本主義の経済政策の下では、ほとんど規制を設けずに資本家が裁量で労働者を使っていた。そのためにイギリスなどで長時間労働などが蔓延して社会問題となり、労使の紛争が起こるようになった。

が、おりしもロシア革命の影響で、福祉を売り物にした社会主義の影響が世界的に広がった。資本主義陣営は、社会主義という新興勢力に対抗するために、経済活動に規制を加えて労働者を保護したり、一定の福祉政策を導入せざるを得なくなったのだ。その結果、資本主義体制のもとで、一応、秩序ある社会が実現したのである。

新自由主義の政策は、一旦、構築した資本主義経済の規制を撤廃して、再び企業に経済活動の自由を提供すると同時に、国策により企業を手厚く保護する政策である。旧来の自由主義への回帰ではない。体系だった企業支援制度である。

その背景にはグローバリゼーションの中で、企業の国際競争が熾烈になっている事情がある。国際競争力の強化という口実がある。旧来の自由主義とは規模や質が異なる。

たとえば企業の負担を減らすために、法人税を下げて、消費税をあげるなどの政策が採られる。規制を緩和する。公的なものの民営化を進め、市場を提供する。「小さな政府」を構築するために議員定数の削減をめざす。

規制を緩和して企業相互が競争すれば、優性のものだけが生き残り、劣性のものは淘汰されるというかなり乱暴な考えだ。もちろん科学的な根拠があるわけではない。いわゆる市場原理主義である。医療も、教育も、福祉も市場原理主義にのせる。

安い労働力を獲得するためには非正規労働者を増やしたり、裁量労働の枠を拡大したり、外国人労働者を増やす。これも国際競争力の強化が口実になる。

さらには多国籍企業のために、軍事大国化をも進める。進出先の国で政変が起こり、多国籍企業に不利な政治体制ができた場合、武力で「鎮圧」する必要があるからだ。法科大学院を設置して、国際業務にたけた弁護士を大量に増やしたのも、企業の国際競争に備えることが目的である。

「新自由主義」の政策は、優先順位が国民よりも大企業にある。

◇アベノミックスは大企業には大成功

日本では新自由主義という言葉が、構造改革という言葉でごまかされている。「構造改革」と聞いても、大半の人は中身が分からず、漠然となにか素晴らしい改革が行われるのだろうと思うだろう。

 が、その本質は新自由主義を導入するために必要な構造の改革なのである。日本でそれが本格化したのは、小泉内閣の時代である。その象徴として、郵政民営化が断行されたのだ。小泉の継承者は、改めていうまでもなく、安倍内閣である。アベノミックスは失敗だと言うひとが多いが、大企業にとっては、大成功なのだ。内部留保を大幅に増やしている。

安倍内閣が長期政権になっているのも、財界が希望する政策を実行しているからにほかならない。

しかし、新自由主義の失敗は、たとえばフランスで露呈した。暴動というかたちで表面化した。欧米で極右政党が台頭したのも、新自由主義の失敗がもたらした矛盾の解決を誤った方向へ求めた結果だろう。

米国とメキシコの国境に押し寄せている中米移民の問題は、歪んだ形のグローバリゼーションと新自由主義の矛盾が頂点に達した結果である。ラテンアメリカは、最も早い時期から新自由主義の実験場にされた地域である。中米のホンジュラスにある多国籍企業の果樹園では、バナナやパイナップルなどが収穫されるが、船で米国へ運ばれ、地元にはほとんど富は残らない。こうした不公平が多数の移民を生んでいるのだ。

新自由主義の中身をマスコミが解説すれば、世界が関連の中で見えるが、マスコミはそれを隠している。

ある意味では悪質だと思う。