1. 肝心なことを報じない日本のメディアの中国報道、「高い経済力と社会主義の連動という壮大な実験」、中国共産党大会が閉幕

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2017年10月26日 (木曜日)

肝心なことを報じない日本のメディアの中国報道、「高い経済力と社会主義の連動という壮大な実験」、中国共産党大会が閉幕

5年に一度の中国共産党大会が、25日に閉幕した。

この大会で決定された事項の中で、最も注目されるのは、党の規約に「新時代の特色ある社会主義」を明記したことである。ところが日本のメディアは、その中味については、ほとんど報じていない。

「中国共産党の第19回党大会が18日、北京の人民大会堂で開会した。習近平総書記(国家主席)が党の運営方針をまとめた中央委員会報告(政治報告)を発表し、建国100年の2049年までに「富強・民主・文明・調和の美しい社会主義現代化強国」を築く新たな目標を打ち出した。改革開放によって発展した中国に、新たな路線が敷かれたことになる。」(毎日)

これでは具体的な「特色ある社会主義」の中味がまったく分からない。日本の主要メディアが強調したのは、むしろ習近平体制が独裁化するという推測である。

「これは新たな個人独裁ではないのか。おととい閉幕した中国共産党大会と、きのう発足した党指導部の人事から、そんな疑念が湧いてくる。」(朝日)

「中国共産党は、新たな最高指導部を25日に発表し、習近平国家主席の2期目が始動した。注目された最高指導部は、ポスト習世代が入らず、長期政権への布石ともいえる人事となった。」(NNN)

「習主席は、大きな権力を集中させる形で2期目の指導部を発足させ、5年の任期のあとも最高指導者としてとどまる可能性が強まっています。」(NHK)

本来、伝えなければならないのは、前者、つまり「特色ある社会主義」の中味の方なのだが、日本のメディアは習近平主席のバッシングに熱心だ。北朝鮮に対するバッシングと共通したものを感じる。

◇社会主義VS新自由主義

中国についての評価は多様で、一括りにはできないが、日本のマスコミにはある特徴的な傾向がある。それは中国が社会主義に失敗して、資本主義の路線を取ったとする認識である。この認識は、旧ソ連や旧東ヨーロッパの国々を解析する際も同じだ。社会主義は失敗であって、資本主義の路線に切り替えざるを得なくなったとする視点である。このような報道により、資本主義の優位性をPRしてきたのである。

私は、中国が社会主義体制下で外資の導入をはじめた鄧小平の時代から、資本主義の路線を選択したとは考えていなかった。高い経済力をつけなければ、福祉国家、あるいは社会主義への移行が出来ないから、歴史の発展段階の中で、「資本主義」を導入しただけに過ぎないと考えていた。

それゆえに今回の共産党大会で、「特色ある社会主義」が宣言された意味は極めて大きい。一定の経済力を背景に、これから本格的な社会主義の基盤を築いていくことが可能になったということなのだ。経済力と社会主義が連動した時、どのような社会が現れるかという壮大なテーマが含まれているのである。
新聞やテレビの読者・視聴者が報道してほしいのは、その中味の予想なのだ。

筆者が取材した限りでは、習近平体制になってから、急激に社会格差が縮まっている。定年は男性が60才、女性が50才で、退職後は年金で生活できる。受給額も物価に完全にスライドしている。生活必需品が安い。餓死者はでない。社会主義の形が現れてきたのである。スラムで餓死する人が出ている米国との差は、今後、どんどん顕著になるだろう。

中国が近々に実現するだろう福祉社会のモデルは、21世紀の後半に世界規模で広がる可能性がある。それしか資本主義(新自由主義)の矛盾を克服する道が残されていないからだ。

キューバが外資を導入したがっている背景にも、同じ事情がある。経済力を付けなければ、本当の意味での社会主義への移行は難しい。

20世紀の社会主義革命は、選挙で実現した南米のチリも含めて、例外なく資本主義が十分に発達しない段階で行われた。左派しかファシズムと戦う戦士がいなかったからだ。そうならざるを得なかったのだ。従って旧社会主義圏の崩壊が社会主義思想の誤りという見方は、基本的に誤っている。歴史がどのような段階を経ながら前へ進むのかを、もう少し広い視野で考えてから報道する必要があるのだ。

習近平体制が5年後も続くかどうかという点は、本質的な問題ではない。