1. 司法官関係者のあいだで「報告事件」と呼ばれる不正裁判の存在を暴露、裁判所の裏金にも言及、生田暉雄・元大阪高裁判事が新刊『最高裁に「安保法」違憲判決を出させる方法』を出版

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2016年05月09日 (月曜日)

司法官関係者のあいだで「報告事件」と呼ばれる不正裁判の存在を暴露、裁判所の裏金にも言及、生田暉雄・元大阪高裁判事が新刊『最高裁に「安保法」違憲判決を出させる方法』を出版

たとえば闇夜の中で白いスクリーンに青色のライトを当て、遠くから眺めると青いスクリーンが立っているように錯覚する。スクリーンに近づいて、光を放っている物体を自分の眼で確認すれば、青色のからくりが発見できる。幻想とはこうしたものである。そして、その幻想は世の中の至るところにはびこっている。

大阪高裁の元判事で現在は弁護士の生田暉雄氏の新刊、『最高裁に「安保法」違憲判決を出させる方法』(三五館)を読めば、日本が実は三権分立の国ではないことが分かる。われわれが「裁判=正義と真実の追求」という幻想に酔っていることに気づく。

生田氏が内部告発した最高裁事務総局の実態は恐ろしい。

本書のタイトルからは、「安保法」 関連の本のような印象を受けるが、日本の裁判の異常性という一貫したテーマを具体的な実例で構成している。最高裁事務総局による裏金づくりの実態にまで詳しく踏み込んでいる。

◇エクソンモービル事件

生田弁護士が指摘している諸問題の中で、筆者がみずからの体験に照らしあわせて特に注目したのは、裁判所の内輪で「報告事件」と呼ばれている事件の存在である。これは最高裁事務総局が暗黙のうちに判決の方向付けをする事件で、提訴しても最初から勝ち目のない。

いわば有権者をペテンにかけている裁判である。

「報告事件」に指定されると書記官など裁判所の職員が、裁判の経過を最高裁事務総局に報告する。そして大企業の利益に反したり、国策にそぐわない判決がでそうな雲行きになると、判事を交代させるなどして、判決の結果を方向づけてしまうという。いわば軍事裁判と同じレベルのことが水面下で進行しているのである。

生田氏はこの種の具体例として、みずからが原告代理人を務めたエクソンモービル事件の例を取り上げている。この事件の経緯について本文から引用してみよう。

エクソンモービルは、アメリカに本社を置くワールドワイドな国際石油資本、いわゆるスーパーメジャーと呼ばれる巨大企業です。これほどの巨大企業が相手となると、厳しい闘いを続けていく覚悟が必要です。

  ガソリンスタンドと供給元の石油会社の間では、仮にスタンドにとって理不尽な取引が行なわれたとしても、裁判にまで訴える例はありませんでした。

 したがってこの訴訟は、全国のガソリンスタンドの注目を集めました。

 訴えは、エクソンモービルが契約通りにガソリンを供給していない状況があり、契約を履行すべく取引の改善を求めたもので、裁判は東京地裁で行なわれました。

 訴えそのものは、それほど難しいものではありませんが、相手方がスーパーメジャーであるという点で困難を極めることは容易に予想できました。(中略)

 およそ2年かかったでしょうか、あと1回の審理で結審し、その次に判決という段階で私は依頼人である原告にこう断言しました。

「あと1回で結審します。勝訴は間違いありません」

 希望的観測で言ったわけではありません。私の裁判官経験を基礎に、裁判長が原告勝訴の結論の傾いていることがはっきり読み取れていたのです。

 私は通常、依頼人に対して判決の予想を話すことはあまりしません。予想が覆ることは普通の裁判でもあるからです。しかし、このときはかなりの確信を持っていたので、あえて話たのです。

 裁判がそのまま正常に行なわれていれば、予想が覆ることはありません。ところが「あと1回の審理」から、正常な裁判が突然、異常な裁判に変わったのです。

 最後の審理の当日、「こんなことがあるのか!」と目を丸くする事態が起きました。
 それは、3人の裁判官がいつものように入廷してきた瞬間でした。なんと裁判長も、2人の陪席裁判官も、前回までの裁判官ではなく新しい裁判官に替わっていたのです。

 裁判長は戸惑う私たち原告側に目もくれず、裁判官が交替した旨だけ一言伝えると開廷を告げました。

こうして生田弁護士らは敗訴したのである。

◇裁判記録を公表する必要性

報告事件に該当すると思える裁判は、筆者自身が体験したり取材した裁判の中にもある。あくまで主観的な判断にすぎないが、次の裁判である。

■読売新聞社がかかわった裁判

・真村訴訟。
1次訴訟と2次訴訟があるが、1次訴訟までは、仮処分申立ても含めて、YC広川の真村店主の完全勝訴。以後、2次裁判から読売の全勝。この裁判はあまりにも不自然に感じるので、今後、検証と記録を残す作業が必要だろう。

原告の真村氏を15年近く法廷に縛り付けたこと自体が、重大な人権問題ではなかろうか。

・読売が黒薮を提訴した3件の裁判と、黒薮が読売を提訴した1件の裁判。

黒薮が5連勝した後、最高裁が口頭弁論を開き、読売を逆転勝訴させた。以後、読売の連勝に。メディア黒書では、今後、裁判の関連書面の公開をすすめていく。読売が主張したこと(準備書面・陳述書など)はすべて、公開を前提に重要記録として保管している。

黒薮・真村の裁判には、日本を代表する人権擁護団体である自由人権協会代表理事である喜田村洋一弁護士が読売の代理人を務めた。彼は東京から福岡まで何度も足を運び、読売を援護したのである。筆者は護憲派と改憲派は相いれないものと思っていたが、そうではなかった。

■携帯電話基地局をめぐる訴訟

田中哲郎判事が、九州各地の裁判所を転々として、原告住民を敗訴させていった事実がある。ちなみにWHOの外郭団体・世界がん研究機構は、2011年に、携帯電話のマイクロ波に発ガンの可能性があることを認定している。田中判事は、その後も判決を変えていない。

■特定秘密保護法違憲訴訟

■一連の原発関連の訴訟

◇メディアに重大な責任

最高裁事務総局が抱える諸問題の対策として、生田弁護士は、欧米なみに市民が次々と裁判を提起することを勧めている。裁判を起こすことで、市民としての権利意識も高まる。それが結果として、日本の裁判を正常化することになる。

筆者は日本の司法界は、欧米からは著しく遅れていると考えている。しかし、それを司法関係者だけの責任にするつもりはない。

メディアにも大きな責任がある。裁判の結果だけを報じるのが、司法記者の役割ではない。大事な裁判は、裁判のプロセスも含めて連続して報じなければならない。世論の監視にさらさないから、「報告事件」にされてしまうのである。

 

■『最高裁に「安保法」違憲判決を出させる方法』(三五館)