1. SLAPPに対抗する方法、弁護士懲戒請求から2年半、進む司法の腐敗と劣化?

司法制度に関連する記事

2013年08月20日 (火曜日)

SLAPPに対抗する方法、弁護士懲戒請求から2年半、進む司法の腐敗と劣化?

訴訟の性質がSLAPPとの見方で一致して、それを前提として、被告の支援が行われた裁判としては、オリコン訴訟が代表格である。被告は、元朝日新聞の記者で現在はフリージャーナリストとして活躍している烏賀陽弘道さんだった。烏賀陽さんは、みずから米国におけるSLAPPの状況を調査し、自分が被告にされた裁判もSLAPPに該当することに気付いた。SLAPPという言葉も、烏賀陽さんを支援する活動の中で日本全国に広がっていったのである。

国境なき時代に突入したことを考慮すると、本来、裁判官は海外の司法状況も把握しておかなければならないはずだが、その仕事をSLAPPの被害者にゆだねてしまったのである。職能の問題である。

オリコン訴訟の地裁判決(綿引穣裁判長)は、オリコンの勝訴だった。しかし、控訴審で烏賀陽さんに追い詰められたオリコンが訴訟を放棄するかたちで、裁判は終結した。

オリコン訴訟の次に起こったのが、わたしと読売の裁判である。従ってわたしを支援してくれた出版労連と出版ネッツ、15名を超える弁護団には、当初からSLAPPという認識があった。

本サイトで繰り返し報じたように、読売(渡邊恒雄)は2008年2月から1年半の間にわたしに対して、3件の裁判を起こした。請求額は、総計で約8000万円である。詳細は次の通りである。

■1 著作権裁判 ウエブサイトに掲載した読売の文書の削除を求めた裁判。地裁から最高裁まで黒薮の勝訴。

■2 名誉毀損裁判1 ウエブサイトに掲載した記事に対して損害賠償を求めた裁判。地裁、高裁は黒薮の勝訴。最高裁で読売が逆転。

■3 名誉毀損裁判2 『週刊新潮』に掲載した記事に対して損害賠償を求めた裁判。地裁から最高裁まで読売の勝訴。

これら一連の裁判には、司法制度の信頼にかかわる著しい特徴がある。2010年5月に『週刊新潮』の裁判で敗訴(地裁)するまでは、全ての裁判でわたしが勝訴してきた。しかし、この敗訴を境に、わたしが全敗に転じたのである。

しかも、めったに起こり得ないことが実際に起こった。それは名誉毀損裁判1における出来事だった。民事裁判の場合、地裁と高裁で勝訴した場合、その判決が最高裁で覆ることはめったにない。ところが最高裁は、読売を逆転勝訴させることを決定して、高裁へ判決を差し戻したのだ。

そして東京高裁の加藤新太郎裁判長がわたしに110万円の支払いを命じたのである。加藤新太郎裁判長について調査したところ、過去に少なくとも2回、読売新聞の地方版に登場(インタビュー)していたことが判明した。(この件については、現在、調査中である)

(参考:加藤裁判長が登場している読売サイト)

◇裁判攻勢にどう対処するか  

読売が提起した3件の裁判に対して、わたしは弁護団の支援を得て対抗策を取った。これら3件の裁判が、「一連一体の言論弾圧」に該当するとして、読売に対して5500万円の損害賠償を求める裁判を起こしたのだ。

この裁判の詳細については、拙著『新聞の危機と偽装部数』(花伝社)の第7章に記録している。わたしに対する本人尋問の実施を、福岡地裁(田中哲郎裁判長)が拒否するというおよそ常識では考えられない裁判だった。

地裁と高裁はわたしが敗訴して、現在は最高裁で継続している。

◇催告書の名義人の偽って提訴

読売による一連の提訴をサポートしたのは、人権擁護団体・自由人権協会の代表理事を務める喜田村洋一弁護士である。喜田村弁護士に対しては、2011年1月に、彼が所属する第2東京弁護士会に対して、弁護士懲戒請求を申し立てた。通常は、半年ぐらいで、結論が出るが、本格的な調査を行っているのか、弁護士会はいまだに結論を出していない。

喜田村弁護士の何を問題にしているのだろうか?それは著作権裁判における提訴のプロセスである。

この裁判は、厳密に言えば、読売の江崎法務室長が個人として、わたしを提訴したものである。訴因は、江崎氏がわたしに対して送付してきたある催告書をウエブサイトに掲載したことである。掲載した理由は、催告書の内容が新聞人にあるまじき怪文書と判断したからである。

これに対して江崎氏は、催告書の著作者は自分であるから、わたしに公表権はないと主張して、ウエブサイトからの削除を求めたのである。

確かに著作権法では、著作物を第3者が無断で公表する行為は禁じられている。ところが裁判の中で、催告書を書いたのは、江崎氏ではなく、喜田村弁護士か彼の事務所スタッフであった高い可能性が認定されたのである。

素人の感覚からすれば、喜田村弁護士が「代筆した」という言い訳が通用するようにも思われるが、法的にみれば、そうはならない。著作権には、著作者財産権と著作者人格権がある。

著作者財産権:著作物から発生する財産を保護するための諸権利の総称で、他人に譲渡することができる。

著作者人格権:著作物の作成者が有する諸権利の総称で、たとえば、作成者以外には、作品を公表する権利がない。著作者人格権は、一身専属性を有する権利で他人に譲渡することはできない。

江崎氏は、著作者人格権を根拠として、わたしに対し、催告書の削除を求めて提訴したのである。当然、その大前提として、江崎氏が自分で催告書を作成した事実がなければならない。

ところが催告書の作成者は、喜田村弁護士だった。つまり裁判所に対して催告書の名義人を「江崎」偽って、裁判を起こしていたのである。それが発覚して、敗訴したのである。

知財高裁の判決は、次のように江崎氏や喜田村弁護士の行為を認定している。

上記認定事実によれば、本件催告書には、読売新聞西部本社の法務室長の肩書きを付して原告の名前が表示されているものの、その実質的な作成者(本件催告書が著作物と認められる場合は、著作者)は原告とは認められず、原告代理人(又は同代理人事務所の者)の可能性が極めて高いものと認められる。

?(参考:認定箇所=ここをクリック)?

◇弁護士懲戒請求へ  

しかし、事件はこれだけでは終わらなかった。自由人権協会の喜田村弁護士の責任を問うことになったのである。『弁護士業務基本規程』の第75条に次のような条項がある。

? 弁護士は、偽証若しくは虚偽の陳述をそそのかし、又は虚偽と知りながらその証拠を提出してはならない。

喜田村弁護士は、催告書の作成者が江崎氏ではないことを知っていながら、江崎氏が作成者であるという虚偽を前提に、訴状や準備書面を提出したのであるから、『弁護士業務基本規程』の第75条に違反している。そこでわたしは、喜田村弁護士が所属する第2東京弁護士会に対して、喜田村弁護士の懲戒請求を申し立てた。次に示すのが、わたしの主張である。

(参考:弁護士懲戒請求の理由・準備書面2

かりに虚偽を前提に他人を法廷に立たす行為が罰せられないとすれば、司法の秩序は崩壊する。最も厳しい処分?除名処分を下すべきだというのがわたしの考えである。

SLAPPの代償がいかに大きなものになるかを示すことは極めて重要だ。