1. SLAPPに対する批判が強まる 虚偽の事実を前提に提訴は違法行為

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2012年11月19日 (月曜日)

SLAPPに対する批判が強まる 虚偽の事実を前提に提訴は違法行為

このところSLAPPが大きな社会問題になっている。SLAPPとは、高額の賠償金を請求して言論活動や住民運動を抑圧する手口である。

もっとも日本の司法界には、SLAPPという概念はほとんどないので、状況証拠から総合的に判断して、ある行動を抑圧するために仕掛けられた裁判の可能性があれば、SLAPPと判断するのがわれわれ一般人の立場である。

たとえば2008年2月から1年半の間に、読売(渡邉恒雄主筆)がわたしに対して起こした3件の裁判では、請求額が約8000万円にもなっており、しかも、短期間で連続的に提訴がなされている事実から察して、SLAPPの可能性が高い。

◇武富士から読売へ

日本で最初のSLAPPは、今世紀の初頭、武富士が次々とフリーライターらを訴えた事件である。その後、「オリコンVS烏賀陽弘道」、「安倍晋三VS山田厚史」、「西岡研介VS JR総連・JR東労組」、「斉藤貴男VS経団連会長」などの裁判が提起された。

SLAPPの疑惑がある最近の訴訟としては、読売を原告とする一連の裁判である。ざっと記憶しているだけで次ようなものがある。

1,一連の対清武裁判

2,一連の七つ森書館裁判

3,一連の黒薮裁判

裁判には至っていないが、読売は朝日新聞社や文藝春秋社に対しても、提訴を公言している。

SLAPPのひとつの特徴として、訴因に嘘がある場合が多い。裁判を提起してターゲットに人物を精神的、経済的に疲弊させることが目的であるから、揚げ足を取って裁判を起こす結果かも知れない。

◇黒薮VS江崎  

たとえば、「黒薮VS江崎法務室長(読売)」の裁判。

【参考:読売による「一連一体」の言論弾圧を問う控訴審、7日に福岡高裁でスタート】

この裁判の中で江崎氏は、問題となった催告書の作成者が自分であると主張した。それを前提に「新聞販売黒書」から催告書を削除するように求めたのである。

実際、催告書の名義人は、江崎氏になっていた。ところが裁判の中で催告書の作成者は、別にいたことが判明したのだ。つまり江崎氏は、催告書の名義を「江崎」に偽ってわたしに送付していたのだ。

それにもかかわらず、催告書は自分が執筆した著作物であると主張して、削除を求め、提訴に及んだのである。

(参考:催告書の作成者が、江崎氏ではないことを認定した記述。判決から引用)

◇レコード会社31社対穂口氏 

現在、東京地裁では、レコード会社31社が作曲家・穂口雄右氏を訴えた音楽著作権裁判が進行している。賠償額は約2憶3000万円。この高額訴訟も提訴の前提事実があやふやな印象がある。

穂口氏の会社は、移動通信機器を対象としたファイル変換サービス「TubeFire」を提供してきた。これによりYoutube上の楽曲がスマートフォンなどでも視聴できるようになっていた。

訴状によれば、レコード会社側は違法にダウンロードされたファイルがTubeFireに1万431個蔵置されているという。当然、それを前提に約2憶3000万円を請求したのである。

ところが去る9月にレコード会社側が提出した証拠ファイルは128個にすぎなかった。訴状に明記した1万431個にははるかに及ばなかった。

この裁判でレコード会社側の代理人の大半を占めるMTI総合法律事務所の弁護士らは、提訴に際して1万431個の違法ファイルを確認したのか、大きな疑問が残る。かりに1万431個が存在しないことを知りながら提訴に及んでいたとすれば、弁護士懲戒請求の対象になる。

と、言うのも弁護士職務基本規定の75条は、虚偽の証拠を提出することを次のように禁じているからだ。

75条 弁護士は、偽証若しくは虚偽の陳述をそそのかし、又は虚偽と知りながらその証拠を提出してはならない。

日弁連が編集した解説は、75条を次のように解説している。「4」「5」の部分をPDFで紹介しよう。

(参考PDF:4.偽証・虚偽の陳述、5.虚偽の証拠提出)