1. 横浜の副流煙裁判、被告準備書面(7)の解説と全文公開、訴訟の根拠となった作田学医師による診断書、原告の希望どおりに作成か?

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2019年01月29日 (火曜日)

横浜の副流煙裁判、被告準備書面(7)の解説と全文公開、訴訟の根拠となった作田学医師による診断書、原告の希望どおりに作成か?

煙草の副流煙をめぐる裁判で、被告側が第7準備書面を提出したので紹介しよう。この裁判は、マンションの2階に住む1家3人が、同じマンションの斜め下の1階に住む家族の家主を相手に、副流煙が原因で化学物質過敏症を発症したとして、4500万円の損害賠償を求めたものである。

ところが提訴後、原告の家長が元喫煙者で、自宅のベランダで煙草を吸っていた事実が判明する。

次に紹介する被告準備書面は、そもそも訴訟の根拠になった診断書が、診断書の要件を満たしておらず、原告の要求に沿って作成した可能性が極めて高いことを、具体的な事実に基づいて論じている。作成者は禁煙運動の大家・作田学医師である。作田氏は、被告の受動喫煙症を認定している。

原告が元喫煙者であるから、診断書が間違っており、訴訟の前提事実そのものが間違っているので審議にも値しない、というのが被告の主張だ。

余談になるが、筆者は個人的には喫煙者が減ることが望ましいと考えている。しかし、その目的を達成するために事実に基づかないラディカルな手段を採ることには賛同できない。自分が煙草を吸っていながら、隣人の副流煙が原因で病気になったとする訴えは、やはり無理がある。

裁判所はすでに原告に対して、診断書の再提出を求めている。被告家族から作田医師に対する内容証明も送付済みで、その中で診断書の訂正を求めている。裁判の根拠となっている診断書だけに、作田氏が非を認めれば、訴訟の前提が破綻する。

被告を支援する人々による署名活動もまもなくはじまる。

以下、被告準備書面(7)の全文だ。なお、原告は全員仮名にした。

 

平成29年(ワ)第4952号  損害賠償請求事件

原告 横山明、横山恵司代、横山由紀子

被告 藤井将登

被告準備書面(7)

平成31年1月23日

横浜地方裁判所第7民事部ろ係 御中

被告  藤井 将登

 

第1 提訴の根拠となっている作田学氏作成の診断書について

 

本件裁判の根拠となっている作田学氏作成の診断書(甲1号証、甲2号証、甲3号証)の信憑性ついて重大な疑問点があるので、この準備書面ではおもにこれについて記述する。仮に作田学氏の作成した3通の診断書に誤り、もしくは虚偽の内容が含まれているとすれば、提訴の論拠が崩れ、訴訟自体が訴権の濫用ということになりかねない。とりわけ原告が、診断書に虚偽内容があることを知りながら、それを隠してあえて提訴に及んだとすれば、許されることではない。

以下、本件裁判の根拠となっている3枚の診断書について、疑問点を記述する。

第2 作田学氏作成による診断書の問題点

「受動喫煙症診断基準」(乙9号証参照)とは作田学、薗潤、山岡雅顕、野上浩志、加濃正人、松崎道幸、薗はじめ、大和浩(敬称略)によって作成された、受動喫煙症の判断の指針となっているものである。ここでは「受動喫煙診断症基準」に基づいて、作田氏が行った診断の疑問点を指摘する。

 

1.原告横山由紀子の診断を直接問診を行わずに作成および交付したこと

 

原告・横山由紀子陳述書(甲第34号証7頁)によると「10 その後、作田医師に診断書を作成していただくことになったのですが、このときの症状はどのようなものか」という質問に対し、「問9の答えと同じ症状です。私はとても診察を受ける体調とはならなかったので、全てのデータを持って、両親に行ってもらったのです。」と、記載されている。つまり作田氏は直接、原告・横山由紀子氏を診ることなく、データのみで診断書を交付している。これは医師法第二十条に抵触する可能性が極めて高い。

 

「(医師法第二十条)

      医師は、自ら診察しないで治療をし、若しくは診断書若しくは処方せ      んを交付し、自ら出産に立ち会わないで出生証明書若しくは死産証書      を交付し、又は自ら検案をしないで検案書を交付してはならない。但      し、診療中の患者が受診後二十四時間以内に死亡した場合に交付する      死亡診断書については、この限りでない。」

 

仮に原告・横山由紀子氏の体調が優れず来院出来なかったのであれば「往診を行う」という選択肢もあったはずだ。

 

2.原告・横山明氏は作田氏から「受動喫煙3」の認定を受けているが、受動喫煙の被害者どころか、元喫煙者である。

この事実を、明氏は平成30年10月26日に陳述書(甲第37号証)の中で明らかにしている。また、原告・代理人は、訴外・黒薮哲哉(雑誌記者)に対する取材の中で、この事実を知っていたことを認めている。

ところが作田学氏の作成した診断書には横山明氏の過去の喫煙歴についての記載がない。「受動喫煙症診断基準」(乙9号証2頁下部参照)によれば、「受動喫煙被害者支援のための診断書作成の留意点」として、「2.患者さんが非喫煙者であることの証明:自己申告で充分。非喫   煙者であれば、過去の喫煙歴を併記する。」と記されているが、明氏の診断書には、そのような記述は存在しない。つまり虚偽の診断書を根拠として、強引に提訴に及んだのである。

被告は原告に対して、作田氏がこの事実を知っていたか否かを確認するために、平成29年4月19日に作成された原告・横山明氏の「受診前に提出された問診票」の提出を求める

 

3.作田学氏による診察時、大規模塗装工事期間中であった事実について

(1)受動喫煙症診断基準(乙9の2頁下部を参照)の「受動喫煙被害者支援のための診断書作成の留意点」に次の記載がある。

 

    「・職業上あるいは居住地でタバコ煙以外の有害物質にさらされているかどうか。」

原告3名が作田学氏の診断を受けた平成29年4月12日、同月19日は、原告及び被告が居住するすすき野団地5街区(300世帯在住・全13棟)での大規模塗装工事(平成29年2月着工~同年8月竣工)の真っただ中であった(乙10号証参照)。この間、空中には塗装用のペイントによるイソシアネートなど様々な化学物質が濃度高く舞っていた。ペイントのイソシアネートは化学物質過敏症の有力な原因として知られているが、この間、原告らが化学物質に被曝していた事実が、原告3名の診断書にはまったく反映されていない。

 

(2)作田氏は、原告・横山明氏に対して「受動喫煙症レベル3」との診断が下しているが、「受動喫煙症診断基準」(乙9の2頁上から2~5行目を参照)によれば、受動喫煙症レベル3と認定されるためには下記の要因を満たす必要がある。

 

「1.症状の出現が受動喫煙曝露開始(増大)後に始まった。

 2.疾患の症状が受動喫煙の停止とともに消失する。
 3.煙草の煙以外の有害物質曝露がない、の3点があれば、可能性が 高い。」

上記(1)(2)ともに、 空中に塗装用のペイントによる様々な化学物質が濃度高く舞っていた時期であり、その事実を抜きに書かれた作田学氏の診断書は信用できない。

また、原告は診断書の内容に虚偽が含まれていることを知りながら、提訴に及んだわけだから、提訴にも根拠がない。

 

4.コチニン検出について

 

原告・横山恵司代氏と原告・横山由紀子氏は、作田氏によりともに受動喫煙症レベル4と診断されているが、「受動喫煙症診断基準」によると、レベル4と診断されるためには、曝露後24時間以内に採取した尿からコチニン(ニコチンが体内で代謝された物質)を検出することが要件となっている。

診断書が作成された平成29年4月は原告・横山明氏が喫煙を止めてから2年余りが経っており(第2陳述書 甲第37号証1頁参照)、被告である藤井将登の吸う喫煙量はこれまで主張してきた通り少量である。それにもかかわらず原告・横山恵司代および原告・横山由紀子の尿からコチニンが検出されたというのはたいへん不自然である。

 

ほとんど外出できないほど体の具体が悪いと主張する原告2名が多量の副流煙を浴び、一定濃度以上のコチニンが検出されたという「主張」から、本裁判は起こされていると言っても過言ではない。

 

この件につき原告は、作田学氏の解析データを示し、説明すべきである。被告は、平成29年4月12日、同19日に行われた尿検査実施の記録およびコチニン検出データの提出を求める

 

ちなみに被告は、平成30年12月21日、作田氏に対し診断書の訂正を求める通知を内容証明郵便で送付した。(乙8号証の1および乙8号証の2を参照)上記通知に対し、作田学氏からいまだに返事はない。

 

第3.根拠なき主張

  被告は、知人の医師により、診断書を書く際に日常的に気をつけることとして、「AとBの因果関係が立証できない状況で『AによるB』と断定した診断書を作成することはできない」との見解を戴いた。平成31年1月10日付けの日経メディカルの記事(乙11号証参照)「良かれと思って書いた診断書が元で窮地に」は、慎重を欠いた診断書の記載により多くのトラブルが発生していることを伝えている。作田氏が作成した本件診断書や原告準備書面の次のような記述、たとえば、

「1年前から団地の1階にミュージシャンが家にいてデンマーク産のコルトとインドネシアのガラムなど甘く強い香りのタバコを四六時中吸うように~(略)(甲第2号証)」

「小さくなった大腸がんの腫瘍がタバコの副流煙が流入するようになり1cmに拡大し、その後副流煙、副流煙のストレスのためか検査のたびに腫瘍は徐々に大きくなった」(甲第37号証2頁)

と、いった記載も、一般的な良識に照らして、軽率、杜撰かつ侮辱的である。到底、客観的な診断に基づいたものではない。

 

第4、強引な診断書作成の背景にあるもの

 

(1)甲第31号証「住宅におけるタバコ煙害問題」は日本禁煙学会の顧問弁護士岡本光樹氏が作成したものである。岡本氏は「都民ファーストの会」の都議でもある。また甲第30号証「禁煙学」は日本禁煙学会が作成したものである。東京オリンピックに向け、国より先んじて厳しい規制がかけられる都の受動喫煙防止条例策定の背景にも、彼らの影響がある。本件における「結論ありき」の診断書は、作田学氏らが自らの受動喫煙防止活動に本件訴訟を利用することを意図して作成された疑いがある。

 

(2)警察に対する何らかの影響

甲第16・17号証は、原告及び原告代理人弁護士が神奈川県警本部長を動かして刑事に2度にわたり被告宅を調べさせた事実を物語っている。常識的に考えて、一市民が県警本部長に依頼状を書いて動いてもらえることなどあり得ない。被告の妻は2度とも在宅していて大変な恐怖を味わった。

しかし、何も咎められるような事実はなかったのである。それにもかかわらず原告は、わざわざそれに関する証拠資料を提出して、裁判所に対して警察と親密な関係を誇示している。

 

第5、事実の軽視

個人的には喫煙に対し特段の主張はないが、いかなる活動も事実に基づいて行われるべきであることは言うまでもない。事実を重んじる弁護士・医師であれば「隣の家から四六時中副流煙が流れて来る」との主張を聞いたならば、まずはその現況、現状を調べるのが普通である。

しかしながら、原告は被告宅を調べもしなければ、化学物質過敏症の原因を広く考察することなく、被告の煙草に特定し、被告および家族を加害者扱いにしている。煙害と言いながら、原告・被告の居住する棟の裏におびただしい数の煙草の吸い殻が常時散乱している事実には、依然として目を背けたままである(乙12号証参照)。

繰り返しになるが、本件訴訟は、提訴の根拠となっている本件診断書そのものに虚偽がある。しかも、それを原告が知っていた可能性が極めて高い。

被告としては、いたずらに裁判を長期化させるのではく、速やかな結審を求める。