1. 多発する著名人による名誉毀損裁判、辛淑玉氏のケースを考える、言論統制を招く危険性

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2018年03月22日 (木曜日)

多発する著名人による名誉毀損裁判、辛淑玉氏のケースを考える、言論統制を招く危険性

名誉毀損裁判(刑事)の起訴数が安倍内閣になってから急に増えているというデータがある。

データの出典

グラフを見れば分かるように、安倍内閣が成立した2012年あたりから、急激に上昇しているのである。しかも、刑事事件としての名誉毀損裁判である。

通常、名誉毀損で提訴する場合、刑事ではなく、民事で訴える。刑事事件として訴えるケースは少ない。その名誉毀損の刑事裁判が増えているということは、それ以上に民事事件が増えている可能性が高い。

実際、筆者が情報収集した範囲だけでも、「またか」とあきれるほど名誉毀損裁判が多発している。しかも、言論人や社会的な影響力がある人が原告となるケースが増えているのだ。

最近(3月16日)も、社会運動家であり文筆家の辛淑玉氏が、フリージャーナリストの石井孝明氏に550万円の損害賠償を求める名誉毀損裁判を起こした。そして、おそらくは知人である神原元弁護士(自由法曹団常任幹事)が、ツイッター上で次のように呟いている。

辛淑玉さんの隣にいる俺は、連中がやったことのあまりの酷さに怒り、被害者である辛さんの話に涙をこらえた。いい加減にしろ日本!

東京MXテレビ:沖縄番組「ニュース女子」 BPO、人権侵害認定 再発防止勧告 - 毎日新聞

出典

「いい加減にしろ日本!」の意味は不明瞭だが、辛淑玉氏の名誉を毀損した責任が日本にあるというのであれば論理が飛躍している。右派の人々に揚げ足を取られるだろう。

◇訴訟ビジネス最前線

辛氏といえば、放送倫理・番組向上機構(BPO)の放送人権委員会にも、
「ニュース女子」の番組に関して、申し立てを行った。そして8日にBPOはそれを認めた。

出典

裁判の提訴や、BPOへの申し立てなど、いわば一種の圧力団体を使って、他人の言論に異議を申し立てているのだ。裁判の場合は、法の力で反対言論に対抗していることになる。しかも、それを弁護士が加勢する。こんな現象が始まったのは、今世紀初頭の武富士裁判あたりからだ。そのころから裁判を使って、言論を封じ込める動きが浮上してきたのである。

そして今日では、名誉毀損裁判が頻発し、中には簡易裁判所で本人訴訟を起こし、10万円か20万円程度の「小遣い」稼ぎをやっている連中もいる。名誉毀損裁判では、原告が圧倒的に有利な法理になっているので、「小遣い稼ぎ」にはもってこいなのだ。いわゆる訴訟ビジネスである。

もちろん辛氏がお金が目的で、裁判を起こしたとは思わない。それが言論を守る正しい戦術という前提があることは疑う余地がない。本人に悪意はない。

◇「歴史は私に無罪を宣告するであろう」

しかし、言論についての評価を司法や圧力団体に委ねるのは誤りだ。たとえ石井氏の報道が間違っていても、言論で対抗するのが筋だろう。ネット(ツイッターやウエブサイト)などを使って反撃すればいいのではないだろうか。

言論の問題はデリケートだ。特にジャーナリズムと芸術(小説・演説・演劇・映画など)の分野は、自由な発想で、既成の概念を打ち破り、新しい物の見方や視点を提供する役割があるわけだから、表現に制限があると支障をきたすのだ。枠の中での言論の自由はあり得ない。

そもそも、だれが言論の質を評価するのか。神ではなく人間である。と、すればそう簡単に何が正しくて、何が誤りなのかを断定することはできないはずだ。歴史的な評価も必要だ。フィデル・カストロが、「歴史は私に無罪を宣告するであろう」と言ったように、ものごとの評価には時間がかかるのだ。まして言論の評価は即断できない。

それゆえに言論を法律で規制することは、間違っている。結局は、おおがかりな言論統制を招いてしまう。

法律で取り締まるべきなのは、暴力であり、それは現在の法律で十分に取り締まることが出来る。たとえばデモ隊に自転車が突入すれば、これは取締の対象である。実際にそんな事件があったようだ。

辛氏の主張が正しくても、対抗手段が間違っている。名誉を回復する手段を持たない社会的な弱者が裁判を起こすのであれば理解できるが、社会的な影響力のあるひとが、軽々しく訴訟に走るのは戦略の誤りだ。まして辛氏は、「のりこえねっと」の共同代表である。反対言論を裁判で封殺するのが、「のりこえねっと」の役割とは思わないが。