1. TPPで流入してくる薬漬け米国牛のリスク、日本産ブランド食品は輸出戦略の柱にはなりえない

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2015年07月31日 (金曜日)

TPPで流入してくる薬漬け米国牛のリスク、日本産ブランド食品は輸出戦略の柱にはなりえない

【サマリー】TPP交渉の焦点のひとつは牛肉と豚肉に対する関税。。どういう方向に転んでも、今後、米国から多量の肉が流れ込んでくる。その米国産の肉とは、「工場」で作られた薬品づけのものである。

 TPPによる肉類の流入に対して、日本はブランド食品などの輸出で対抗する戦略だが、輸出規模が小さすぎてとても経済成長の推進力にはなれない可能性が高い。

ハワイを舞台にTPP交渉が進んでいる。メディアによると焦点のひとつは牛肉や豚肉に対する関税の扱いである。このうち牛肉は15年かけて9%にまで引き下げるようだ。これにより米国産の牛肉が、これまで以上に輸入されることになるが、その牛肉の質はどのようなものなのだろうか?

本当に安全なのだろうか?薬品づけのとんでもないシロモノという危険はないのだろうか。

『企業が「帝国化」する』(松井博 アスキー新書)に「食肉生産工場」の実態が描かれている。

著者によると「食肉生産工場」は、サンフランシスコとロサンゼルスを結ぶ高速道路・ハイウエイ5号のそばに位置しているという。

その「臭い所」として知られるコウリンガは人口1万3000人ほどの、ロサンゼルスとサンフランシスコのちょうど中間に位置する小さな町です。問題の臭いものとはハリス・ランチ・ビーフカンパニーが所有する、食牛およそ10万頭を飼育するフィードロットと呼ばれるタイプの大農場です。

 体重が300キロになると牛は別の大規模フィードロットへ出荷されるという。そこで牛たちは次のような扱いを受ける。

 牛たちはここで6カ月間ほど濃厚飼料を食べ、さらに180kgほど太らされるのです。濃厚飼料とはトウモロコシ、大麦、米などの穀類の種部、また大豆や油かすなどを使用して作られた極めて高いカロリーな飼料です。大豆やイネ科の穀類もタンパク質が多いため、これらを大量に与えることで短期間での肥育が可能になります。

フィードロットで太らされる牛たちのおよそ80%に成長ホルモンが投与されているとも言われています。こうした濃厚飼料を与えることで牛の胃の中のPHが下がってしまうため、病原菌感染の予防として飼料に抗生物質が混ぜられます。こうして太らされた牛たちは消費者好みの脂肪分をたっぷりと含んだ、柔らかい牛肉へと最適化されていきます。

薬品づけになった牛肉が安全という保証はどこにもない。食の問題は、単に経済の観点から考えるのではなくて、食品の安全性という観点も考慮しなければならない。

◇「成長戦略」の行き着く先

規制緩和策により、食品の安全基準をなし崩し的にゆるめていけば、人体に悪影響を及ぼしかねない食品が海外から流入してくることになる。さらに伝統的な日本農業も崩壊する。

一部にブランド食材を海外へ輸出する流れを構築することでバランスが保たれるという考えもあるが、たとえ一部の「農業企業」がこうした挑戦に成功しても、事業規模が小さすぎて輸出により、日本経済を成長させる推進力にはならない。

このあたりの事情については、『<大国>への執念 安倍政権と日本の危機』(大月書店)に収録された二宮厚美氏の論文「安倍政権が走るグローバル競争国家化路線の国民的帰結」に詳しい。

著者は日本の企業が多国籍化して、現地生産・現地販売のパターンが進行し、円安にもかかわらず輸出がのびなくなっている状況を前提に次のように言う。

まず明らかなことは、輸出のエース級に代る交代選手がそもそも力不足だということである。たとえば、2013年の輸出品構成でみると、輸出製品の約85%は重化学工業製品によって占められている。その内訳は、輸送用機器23.4%、一般機械19.1%、電気機器17.3%、化学製品10.8%などである。これに対して食料品は0.6%、その他(原材料・燃料を除く)は11.7%にすぎない。

自動車・電機等の輸出主力製品の代役を原発、食品、農産物、サービス、クールジャパンなどに期待するといっても、それは、イチローの代打にせいぜいのところ草野球の4番打者をあてるようなもので、明らかに力不足なのである。

改めていうまでもなく、安倍政権によるTPP参加も新自由主義政策の一環にほかならない。