1. 『小説 新聞社販売局』が描いた「押し紙」や「裏金づくり」の実態、元新聞記者が販売局の実態を内部告発

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2015年09月21日 (月曜日)

『小説 新聞社販売局』が描いた「押し紙」や「裏金づくり」の実態、元新聞記者が販売局の実態を内部告発

新聞社を舞台にした小説は特にめずらしくはないが、新聞社の販売局を舞台として、しかも詐欺まがいの新聞拡販や「押し紙」、それに補助金を捻出するための裏金づくりなどの実態をあからさまに描いた小説が、単行本として世に出たのは初めてではないか。

著者は元新聞記者である。

 幸田泉(こうだ いずみ)大学卒業後、1989年某全国紙に入社。支局勤務後、大阪本社社会部では大阪府警、大阪地検、大阪地高裁、東京本社社会部では警察庁などを担当。その後、大阪本社社会部デスク、同販売局などを経て、2014年退社。

経歴から察すると、内部告発の書である。

小説のストーリーそのものは、記者職から販売担当に「左遷」させられた社員が、販売局の不正や左遷人事にかかわった編集幹部のスキャンダルを暴きだし、それを盾にして記者職に復帰するまでを描いたものである。特に奇想天外な展開をしているわけではない。が、興味深いのは、新聞社の内幕を情け容赦なく暴露している点である。ほんとんどの人が知らない闇が暴かれている。

この小説には、創作された事件のモデルと思われる事件や人物が登場する。しかも、その人間像が実に多彩だ。「押し紙」に抗議する新聞販売店主。逆に「押し紙」問題を逆手に取って新聞社を恫喝するとんでもない販売店主。金銭がからんだ不祥事ばかりを繰り返している販売局員。さらに元ヤクザの販売店主。新聞拡張団。さまざまな人間像が重なって物語を構成している。

新聞社販売局の担当員にとって新聞の部数を増やすことは、出世への道にほかならない。そのために「押し紙」などが原因で、担当地区の新聞代金の納金率が100%に達しない場合は、担当員がそれを肩代わりするエピソードも出てくる。このエピソードについては、わたしもある地方紙の関係者から聞いたことがある。同じことが中央紙でも行われている可能性がある。

日本の新聞社はさまざまな問題を抱えながらも、その内部では良心的な社員たちが悩み苦しみ、戦っている。小説を通じて、それが伝わってくるが、読後、わたしはすがすがしい気持ちにはなれなかった。あまりにも深刻な問題を孕んでいるからだ。

販売局を含めた新聞社の全体像を見ると、軽視できない問題があまりにも多い。編集幹部の都合で、記者を「左遷」することが許されるなら、取材活動や表現活動に自己規制が働いてしまう。それは出版人の良心にかけて絶対にやってはいけない新聞ジャーナリズムの自殺行為である。一方、販売局は金銭がらみの無法地帯である。

ジャーナリズムが発信する情報の信用性というものは、発信母体の実態を抜きにして語ることはできないのではないだろうか。

■『小説 新聞社販売局』(幸田泉 講談社)