1. 【書評】『大暗黒時代の大学』,警察の派出所が設置された同志社、大学ビジネスの立命館

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2019年01月16日 (水曜日)

【書評】『大暗黒時代の大学』,警察の派出所が設置された同志社、大学ビジネスの立命館

大学が学問の自由を保障して、公権力の介入を許さないという考えは、国境を超えて常識となってきた。少なくとも建前としては、大学の自治権を保障する合意があった。たとえばラテンアメリカでは、大学名にあえて「自治」という言葉を付している公立大学が少なくない。メキシコ自治国立大学(Universidad Nacional Autonoma de Mexico)のように。

2013年4月、京都市の同志社大学のキャンパスに警察の派出所が設置された。従来の常識が完全に覆ったのである。その2年後には、村田晃嗣学長が衆院平和安全法制特別委員会の場にしゃしゃりでて、戦争推進法に賛成する意見を述べた。個人として意見を述べるのは自由であるが、同志社大学学長の肩書きで、危険な持論を展開したのだ。

こうした右傾化に対して、同じ京都市の京都大学では学内に潜入してスパイ活動を展開していた公安警察を学生が取り押さえる事件も起きた。ところがその京都大学も、京都市当局からキャンパスの立て看板が「京都市の景観を守る条例」に違反するという理由で行政指導を受けた。大学当局は、大学の自治を守るよりも、公権力と整合する方向性を露骨にして、ある種の政治活動をした学生を退学処分にするなどの暴走をはじめている。

このように思想的な締め付けが強化される一方で、大学ビジネスは活発化している。その代表格のひとつが立命館大学である。立命館は本来は京都の大学だったが、いまや京都の枠を超えて新しいキャンパスを次々と新設して、事業拡大を図ってきた。にわかに信じがたい話だが、市立岐阜商業高校の買収を企てたこともある。

立命館大学も同志社大学も京都大学も、かつて日本を代表する名門大学だった。が、いまその中身は激変している。

著者の田所敏夫氏は、元大学職員である。現職だった時代は、さまざまな問題をかかえながらも、なんとか学問の府としての体面を保っていた。学生の権利を守ることを最優先していたという。

ところが日本の大学は、構造改革=新自由主義を導入するプロセスで着手された大学改革の中で劣化していく。国立大学を独立行政法人に変えたり、大学の評価で補助金の額に差をつけたり、産業界との連携を強化したり、学長の権限を強めるなどして、企業のための「人材育成所」に変質したのである。文化系を軽視して、理科系を強化する傾向も、こうした流れの一端だ。

目的に合致しない大学は、市場原理により、淘汰されて当然という思想がまかり通っているのである。

本書は、大学の内面を知り尽くした著者が、綿密な取材をかさねて執筆したものである。自らの体験が記述に説得力をもたらしている。

日本の大学で何が起こっているのか、再考するための手引きである。

タイトル:大暗黒時代の大学
著者:田所敏夫
版元:鹿砦社