1. 【書評】ジョン・スタインベック『怒りの葡萄』、カリフォルニアに移動する1930年代の農民キャラバン

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2018年11月24日 (土曜日)

【書評】ジョン・スタインベック『怒りの葡萄』、カリフォルニアに移動する1930年代の農民キャラバン

1933年から、米国中部のオクラホマ州やテキサス州をトルネードと呼ばれる猛烈な砂嵐が繰り返し襲来した。農地は砂漠と化し、農民たちはトラックに家財道具を積み込み、新天地を求めてカリフォルニアへ移動しはじめた。現在のホンジュラス問題とよく似た状況が米国でも起こっていたのだ。

しかし、新天地に到着してみると、そこには農園での過酷な労働が待っていた。『怒りの葡萄』は、歴史的な事件をベースにしたジョン・スタインベックの代表作である。

物語は、殺人で服役していたトム・ジョードが刑期を終えて、オクラホマ州に帰郷する場面からはじまる。真夏の日差しのもと、郷里は索漠たる荒野と化していた。たまたま木陰で休んでいた説教師から事情を聞き、トムはジョード一家の人々が身をよせている親戚をたずね、家族と再会する。家族はカリフォルニアへ移動する準備に追われていた。

ジョード家は、2台のトラックへ分乗して西へ向かう。説教師も加わった。

日没を待ち灼熱のアリゾナ砂漠を横断して、カリフォルニアに入る。そこに待っていたのは緑の楽園ではなかった。警官の眼が光る農園での過酷な労働と餓えだった。悲惨な現実を目の当たりにして説教師の心に、貧しい人々への共感の念がふくらんでいく。

2018年にホンジュラスから移民の群れが米国を目指して北上する事件がクロースアップされているが、1930年代に類似したことが米国でも起きていたのだ。ただ、移動の原因は異なる。そして現在のキャラバンを生んだ原因の方がより深刻だ。

タイトル:怒りの葡萄
著者:ジョン・スタインベック
版元:新潮文庫