1. 【書評】『SEALDsの真実』と『しばき隊の真実』、広義の左翼勢力の劣化の背景に何があるのか?

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2018年03月19日 (月曜日)

【書評】『SEALDsの真実』と『しばき隊の真実』、広義の左翼勢力の劣化の背景に何があるのか?

これら2冊の書籍は、それぞれ独立したタイトルを付しているが、両方とも広義に左翼と呼ばれている勢力の劣化を扱っている。『SEALDsの真実』では、SEALDsの化けの皮を剥ぎ、『しばき隊の真実』では、しばき隊の実態とそれを支える「知識層」に対する疑問符を投げかける。わたし自身が日ごろから感じていたことを、ほぼそのまま代弁している。

福島の原発事故の後、金曜日の夕方になるとどこからともなく国会周辺に人々が集まってきて、大きな群衆となり、安倍政権に対して「NO」の声を表明する運動が広がった。原発、安保、特定秘密保護法、共謀罪など、時期によりその中心テーマは変化したが、市民が意思を統一して、自分たちの主張を表明するようになったのである。こうした中から台頭してきたのが、SEALDsだった。メディアは、SEALDsを新しいかたちの学生運動として賞賛した。新しい市民運動の広告塔になったのだ。

しかし、水面下では彼らに対して批判の声を上げる人々もいた。たとえば辺見庸氏である。

◇SEALDs、しばき隊、共産党

「だまっていればすっかりつけあがって、いったいどこの世界に、不当逮捕されたデモ参加者にたいし『帰れ!』コールをくりかえし浴びせ、警察に感謝するなどという反戦運動があるのだ」「国会前のアホどもよ、ファシズムの変種よ、新種のファシストどもよ、安倍晋三閣下がとてもよろこんでおおられるぞ」(辺見氏のブログ、削除済み)

そのSEALDsを支えていたのが「しばき隊」と呼ばれるグループである。このグループは、右翼によるヘイトスピーチなどに対するカウンター活動や反原発運動の役割を担った人々の集まりで、ネット上で自分たちに向けられた対抗言論を「糾弾」するなどの戦術を取ってきた。個人情報をネット上に曝したり、自宅を突き止めて、恫喝まがいの行為に及んだこともある。さらに2014年には、大阪で内ゲバ事件を起こし、刑事罰まで受けている。

その一方で反ヘイトスピーチや人権擁護を主張してきたのである。

著者はSEALDsやしばき隊が共産党の応援部隊になってきた事実を示している。 共産党と関係が深いとされる自由法曹団の弁護士も、しばき隊の関係者を弁護している。

1970年代、共産党は暴力的な運動路線を取っていた部落解放同盟朝田派と正面から対峙した。その歴史を踏まえたとき、SEALDsやしばき隊と「共闘」しているのは矛盾しているというのが著者の評価だ。わたしも同感だ。わけが分からないとはこのことである。

わたしはSEALDs・しばき隊と共産党の関係を調べてみたが、客観的な事実がある。小池晃書記局長がしばき隊のTシャツを着て演説している写真も存在する。つまりかつては部落解放同盟朝田派のような「差別者」を「糾弾」する運動スタイルに反対していた党が、今はまったく逆の方針に転じているのである。

その背景には、SEALDsのメディア受けがよく、共産党のPR活動に効力を発揮してきた事がある。また野党議員や、野党共闘をめざす「知識層」の中に、しばき隊のシンパが多く、しばき隊に対する批判は、野党共闘を崩壊させるという思惑もあるのかも知れない。

ちなみにしばき隊を支援している「知識人」の中には、先に述べた大阪でのリンチ事件の隠蔽工作に積極的に関わっている者も複数いる。これらの人々も、野党共闘の足並みを乱さないために、事件について黙っているようだ。

もちろん共産党員をひとくくりにして批判するのは誤っている。特に年配の党員には人格者が多い。しかし、志位委員長を柱とする中央の方針が、市民運動を重視するあまり、基本的な方向性を誤っていることは間違いないだろう。市民運動というものは、住民の生死がかかった住民運動とは異質なので、注意する必要があるのだ。無責任なものなのだ。

◇朝日新聞と東京新聞は「リベラル左派」か?

著者の田中氏の見解とわたしの見解が異なる唯一の点のは、田中氏が朝日新聞、東京新聞、赤旗、TBSなどを「リベラル左派」と定義づけている点である。結論を先に言えば、朝日新聞、東京新聞、TBSは、「リベラル右派」だとわたしは考えている。赤旗だけが「リベラル左派」というのがわたしの見解だ。ちなみに読売新聞と産経新聞は、「極右」である。

と、いうのも赤旗以外のメディアは、基本的に構造改革=新自由主義の導入や二大政党制を後押ししてきたからだ。もちろん社会主義を目指す視点から編集されている新聞でも、放送でもない。あくまでも資本主義の枠の中で、民主的な改革を進める方向性が貫かれている。

これに対して、赤旗は構造改革=新自由主義の導入には反対の立場を取ってきた。これらを諸悪の根源とする立場である。そして、資本主義の枠内で民主化を実現した次の段階として、社会主義を目指すというのが赤旗のスタンスである。それだけに朝日新聞や東京新聞とは、根源的な部分では質が異なっているというのがわたしの評価だ。それだけに日本の言論の幅を広げるという観点から、重要な役割を担ってきた。

しかし、2017年の衆院選で共産党は議席を大きく減らした。立憲民主党の台頭という事情があったにせよ、共産党の従来の方針が曖昧になってしまったことが、共産党離れ、共産党不信を招いたのではないか。野党共闘は大事だが、内部で起きた問題は、民主的に議論して解決するのが筋ではないだろうか。従来の共産党であれば、そうしていたと思う。

本書は、広義の左翼勢力の劣化をSEALDsとしばき隊を柱として論じた優作だ。

ちなみにSEALDsは、2018年の3月の時点で、森友事件で安倍内閣の総辞職を求める国会前行動に参加しているのだろうか?

タイトル:『SEALDsの真実』
『しばき隊の真実』
著者:田中宏和
版元:鹿砦社